第17話 月影を追う旅人
影はどんどん閉架書庫の奥のほうへ吸い寄せられるように行ってしまった。行ってしまうの? また、あなたは常世の国へ行ってしまうの? 私から離れてしまうの?
図書館の奥はバッグヤードになっているからあそこは普段は余程の許可がない限り、一般の人は行けないのだ。私は頭が真っ白になりながら反射的にそのドアを開けた。
なぜか、頑丈な鍵はかかっていなかった。
重苦しい扉を開けると前面から小夜風が吹いていた。月明かりが私の眼前まで澄み渡り、その発光とした月明かりの清らかさを貫いた強風によって感じなくなったら、私は仄かに暗いトンネルの中を支点と力点を失った振り子のようにさ迷っていた。
トンネルの果てにはモノクロの波状となったドクロが巻かれ、真ん中のほうから突風が吹き荒れている。
ここはあの夢のトンネルだ。トンネルの続きだ。振り返ったら廃病院の出口だった。外はあの時と同じように灰鼠色の叢雨が降っている。有為転変に押し寄せる展開にあの月明かりの青さは何だったのだろう、と私は一驚を喫した。
「夢を見ている。小さかった頃の私の夢を」
つい、口吻を漏らしたらその音階は木霊し、その音質は私の声じゃないみたいだった。
この甲高さから察するに小さな子供の声だ。
奥底の深淵にじっと目を凝らすと一人のとある少年が闇の中へ佇んでいた
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