第5話 酷熱の炎帝


 高校生になって初めての夏休みは青春ドラマのような展開を期待もせず、特に何もなく終了した。宿題は毎年のように七月中に終わらせるし、後半になればかなりの具合で暇だった。とにかく殺人的な猛暑が続き、フィルムのようにぎらつく陽炎が乾ききった道路で揺れている。


 朝早くに起床して、疲れた背中を伸ばすように、打ち水をしても荒れ放題の庭はうだるように熱気でむせ返るし、ニイニイ蝉の鳴き声がどれだけ止めよ、と指令しても止まらない。


お兄ちゃんは受験生なので、今年の夏は本格的に計二十日間の夏期講習を受講して来年の受験に備え、お盆もみっちり勉強するらしい。


正直、お兄ちゃんがいないほうが自分の時間を作れて良かった、と本音を漏らす私がいないわけではなかった。


ああ、君が私の家を出てから何年経つだろう。


 


君が居候の間、束の間に使っていた勉強机は物置になり、築四十年のわが家の刷り硝子から苛烈な溽暑の白い陽射しが降り注ぐ。


遠い日の記章をかざした、真夏の日永の青い時間が流れていく。


クーラーを付け、カーテンを閉めて、じっと日が沈むまで待機するように部屋に籠っても、暑さが和らぐ夏日はないほど、酷熱の炎帝だった。


 

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