詩「苦手な人」

有原野分

苦手な人

十代後半から二十代前半に感じた

真夜中を粉末にしたような乾いた不安は

ときおり思い出す「イマジン」の月明かり

水の中の夢の脳の隙間からしみ出してくる


デモクラシーで使った古ぼけた手持ち看板の

白い影によく似ている

おとぎ話だ

会話文と体言止めのきらびやかなパレード、


その日陰、

人間関係の煩わしさ

「妬み、嫉妬、悋気…」(おいおい、

 どれも一緒じゃないか)


喜びは少なくていい

決して多くなくていい

  ぼくは否定する

  否定する人間を否定する


それ自体を「否定する?」「拒絶に近いんだけど」――拒否? いや、どうしても否定だ。そうか、そうか、そうなんだ――

「缶コーヒーに投資するようなものね」


(バカと言いたいんだろう?)――だって、お金がないと言いながら、毎日××だなんて…、待て待て、「人生は一回きりなんだから」

だからどう生きるのかを


考えるということを自傷行為だと思っている

 のだろうか

スマートな嫉妬はむしろアートだ

  もうすぐ四十が「見えてきた


いまさらどこにも行けやしない」

――(本当にあと何年生きることやら)、希

 望は堕落した水の中に

春、さくら、シュノーケル、風、


家族、家族のいない家族、その理由。

 死。について考える夜。の言葉を

苦手だけど詩を書いてみるよ「久しぶりに?」ああ、そうかもね(――だとしても)


自転車にはじめて乗った娘。のことを

その残された公園の滑り台の影の

儚さの美しさを

  その人は知るよしもない


狭い墓場

  その中で深呼吸を

  残り少ない酸素を

    泡に


三十代の半ば

稚気、

その残り香に

否定された朝日は昇れ

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詩「苦手な人」 有原野分 @yujiarihara

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