こんにちは

湧音砂音

待ち人は (前)



待ち人は黒いローブに黒いつばの広い帽子を被った魔法使いらしい格好をしていた


それに対して僕は南の島で買ったブルーの花がいっぱいプリントされたアロハシャツに麦わら帽子を被った何とも魔法使いとは言い難い格好をしていた


待ち人は肩から青いバックを下げている。何を考えているのか想像もつかないが、それが割と大きめだったしロクでも無い理由なんだろうと僕は勝手に思ったのだ


ウェイターが「ご注文は?」と言うので

「黒をミセスでと店長に」と伝えたらぽかんとした顔をしながらカウンター奥に歩いて行った


「でさ魔法の調子なんだけど……」

「おいおい出会っていきなりそれか?」

「実はあんまり変わって無くて」

「話聞けよ……」


ため息をつき、僕はコーヒーを一口啜った


「大体魔法の調子云々が問題じゃ無いだろう

お前さんの場合は。あれが解決しない事には」

「あれはまぁ……そのうち何とかなるだろって感じでさ!あは、あはは……そ、それで今日なんだけど」


待ち人は肩から下げていたバックをそっとテーブルに置いた


「開けるね」

「え?!」


そうして待ち人はバックの口をゆっくりと開けたのだった。そしてそこからは


「……ぷはぁっ」


ツヤツヤとした毛並みの青い猫が一匹顔をだした


「猫……?使い魔か?」

「と、思うじゃん」


僕は妙な予感がありつつも猫の頭に手を伸ばした。だが触れる事は出来なかった


「なっ……?!」


手を近づけた瞬間に脳の中枢まで流れた何か

それは言わば恐怖の様な表現しがたい何かだったのだ


「ま、魔法使い?!しかもこの感覚は……

N1クラスの?!」

「あったりー♪」


同様した僕を猫は眠そうな顔で見た


「N1……なんだかそんなもん昔言われていた様な気がするわ。懐かしい響きじゃ」


猫改め、N1クラスの魔法使いはけらけら笑った。それに釣られてか知らんが、待ち人も

けらけら笑っていた


「ね?もっとびっくりする事教えたげる」

「な、なんだよ?」

「実はこの魔法使いはね……」


「私の新しい お・師・匠・なんだよぉ」

「はぁ?!」


すぐさま「♪」をほっぺに押し込んでいる様な待ち人は無視して僕はそのお師匠とやらに

質問した


「正気ですかあなた?!このドジでアホでおまけの問題がもう大っ問題魔法使いの師匠に?!一体どんな気の迷いで?!ねぇ!」

「お、お、落ち着け!!一旦落ち着け!」

「あ」


あまりに驚きすぎて私はお師匠をいつの間にか中に持ち上げていた。しかし、濁った瞳も無く黒い宝石みたいな目をした見た目だけは普通の猫である


「す、すいません……御無礼を」

「まぁ……いいわ。ところで小僧、ワシが何故こいつの師匠になったか知りたい様じゃな」

「あ、ああ……はい」

「それはだな」


お師匠さんとやらは次の言葉までに一瞬間を置いたもんで思わず僕は生唾を飲んだ


「気まぐれだよ」

「あらら?!」

「そ、気まぐれなの」


構えてたのが一気に抜けて僕はテーブルに顔をぶつけてしまった


「600年も生きていると変わった事がしたくなるもんじゃ。こんな気まぐれも」

「気まぐれって……あんたコイツの一番の問題知ってるんですか?」

「わかっとるわい」


師匠はテーブルの真ん中にちょこんと座ると、左手を天井に向けた。

よく見ると微かに口が動いている様だ


そして、数秒後その左手には一匹の虫が乗っかっていた


「レミや、レミ。ほら」

「え?!師匠?なぁに?」


待ち人はまるでケーキでも待っている子供の

様な顔で師匠の左手を見た。それが何であるかも考えずに


「や」


「いやあああああぁあああっ!!!むしぃいいいいっっっ!!!!!」


店いっぱいに響き渡る叫びだった。が、私も慣れているし、師匠も慣れているらしく特に耳を塞ぐ事もしなかった


「な?この調子じゃわい」

「あはは……」

「早く!早く!!にが、にが、逃がし……いや殺し…て!!いや!!」


待ち人改め、レミは椅子の下に隠れてがたがた震えている様だった。僕と師匠は揃って

やれやれと手の平を天井に向けた


「あ、あの……ミセスってこれで合ってますか?」

「あっ」


声のする方を見るとウェイターの女性が申し訳なさそうな顔をしながらコーヒーカップの

乗ったお盆を持っていた


「すいません、それティクアウトに変更で。

あとこれ、会計お願いします」

「えっ……?!ちょ」


僕はカップを雑に掴むと、お盆に数枚の紙幣を置いた


「んじゃ、師匠行きましょうか。話は歩きながらでも出来ますから」

「なんじゃもう行くのか。しかし、ワシはいいがコイツはどうする?」


師匠が指さす方には椅子の下で丸くなって

泣いているレミがいた


「ああ、それならほっとけば勝手についてくるんで大丈夫ですよ。レミ、先に行くからね」

「ひ、ひゃああ?!置いてかないでぇ」


僕はやれやれと思いながら、師匠を肩に乗せてカップを手に店を後にした













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

こんにちは 湧音砂音 @mtmmumet555

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ