第2話

 結果から言うと、委員会の仕事は十八時前に終わらせることができた。

「まぁ僕はもっと早く帰りたかったんだけど。はぁ……ねぇ、紫子さん。明日からはできるだけ昼休みとかに僕らの担当分の作業は終わらせちゃう感じにできないかな」

 隣を歩く紫子さんに、ちょっと勇気を出して提案する。彼女は電車通学らしいが、僕の家も駅方面にあるので、十分程の道のりをいっしょに歩く感じの流れになってしまったのだ。

「はい! もちろんです! でも本当にすごかったですね、純君っ!」

「ん? 何が?」

 紫子さんはなぜか目をキラキラと輝かせながら僕を見上げ、

「何って、会議での大活躍ですよ! 三年生達に対して臆せず意見を言えるなんてすごいです! こんな短時間で仕事が終わったのは純君のおかげですよっ!」

「いや普通に臆してたけども」

 え、何だこれ。何で僕は今こんなに褒められているんだ? 僕はただただ早く帰りたかっただけなのに。それだけのために怖いのも我慢して先輩にコソコソとお願いしてただけなのに。

「いやいや、だって毎日全員で集まろうとしていた先輩方に、フレックスタイム制の導入を提案したのは純君じゃないですか」

「まぁ惰性で会議とかしても意味ないかなって」

「そういう考え方が出来るのが素晴らしいですよ! その後の担当振り分けだって、委員長さんが仕切っていたようで、実質純君が陰から操っていたじゃないですか!」

「…………っ!」

 僕が……陰から操っていた……だって……? 僕が、陰の実力者だって……!?

 この子、僕が普段は隠している才能に気づいてしまったのか……!

 まぁ実際は単に目立ちたくなかっただけなんだけど。

「純君は確かにあまり前に出るタイプではないのかもしれませんし、普段は怠け気味なこともあって周りから評価されにくいのかもしれませんが、裏から全てを動かすプロデューサーとしての才能があるんじゃないでしょうか!」

「プ、プロデューサー……!?」

 何なんだ、この子……! どれだけ僕の自尊心をくすぐってきたら気が済むんだ……!?

 でもそっか、僕って実はけっこう出来る奴だったんだな。こんないろいろ経験豊富そうな女の子が言うのだから間違いない。

 感動に打ち震える僕の姿に、彼女の方もさらに乗せられたのか、その褒め口上もますますヒートアップしていく。

「当初はあんなダラけた雰囲気だった会議が純君のボソッとした一言で突然円滑に回り始めるんですもん、ビックリしちゃいましたよ! まぁ鈍感な皆さんはそれを委員長さんの手柄だと思っているようでしたが。純君の手腕に気付いていたのは私だけだったようですっ。もーっ、ほんっとそういうの許せないんだよねっ! 実力がある人がちゃんと評価されないのは私としてもとても悲しいしさ! おれがこうやって時間に間に合いそうなのも君のおかげなのにっ!」

「ん……?」

「あっ」

 今なんか最後の方、紫子さんの口調変じゃなかった? 学校で見てる限りではいつも丁寧口調だったはずだけど……まぁテンション上がっちゃって素が出ちゃうみたいなことはあるか。いやいやいやでも口調どころか一人称まで変わってなかった? おれって何? さすがに普段のイメージとかけ離れすぎじゃね?

「あ、あ、いやその、今のは違くてですね、そのっ……」

 冷や汗をかきながら目を泳がせる紫子さん。やはり彼女的にも何か口を滑らしてしまったという自覚があるのかもしれない。

「あのですね……あっ! もう駅ですねっ! それでは純君っ! また明日っ!」

 紫子さんはそう言い残して、二百メートルも先にある駅へと走り去ってしまった。

「何だったんだ……」

 まぁ彼女にもいろいろあるんだろうからな。ただのクラスメイトの僕が詮索するようなことじゃないか。

 ていうかそんなこと考えてる場合じゃない。ラクナの配信に備えなきゃ!

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