第12話 手掛かり

工場から、人間が全員消えた。

士官もドクターも、作業員たちまでもが。

そして、ドロイドだけが残された。


『――なぁ本当に、人間たちはどこに消えたんだ?』

『――昨日までそんな素振りなかったよな?』

『――あれ、俺たちもう働かなくて良くね?』

『――俺ちょっと中央司令部の様子を見てくるわ』

『――みんな落ち着け。取り敢えずいつも通り仕事を始めるべきだよ』


『……この感じ、今日は仕事どころではなさそうですね』

口々に言い合うドロイドを横目で見ながら、34667号はボソッと呟いた。

班長も首肯するように頷く。


『まぁ、今すぐには何も分からんさ。だけどな……』

『だけど、何です班長?』


34667号が促すと、班長はクイッと頭を傾けた。


『ただの憶測さ。だがまぁ今は、さっきのドロイドに聞くのが一番だろうな』


□ □ □ □


『――いや別に、俺には特別な証言なんてできねぇんだが』


そう、砕けた口調で言うのは言ったのは55597号。つい先ほど中央司令部から放送をかけていたドロイドである。

配属セクションを探したところ、意外とすぐに見つかったのだった。

ロード・リフター・ドロイドである55597号は、角ばった黒のボディと赤いアイ・ランプが特徴的だった。彼の機種は積み荷の運搬に特化したドロイドで、身長は軽く二メートル越え。その巨大な両手は、しかし積み荷をしっかり掴めるよう意外と細かく関節が分かれていた。


『聞きたいのは、今朝のことだ』班長が有無を言わさぬ口調で言う。『我々二人は事情あって、今朝まで外に出られなかった。その前夜までのことと、今朝のお前の行動について教えて欲しい』


『そう、言われてもなァ……』


55597号なるドロイドは、ちらっと背後の仲間たちを振り返った。そいつらも首を傾げると無言で頷き返す。


『ハァ……。まぁ、特に語れることなんて無ぇけどよ。昨日まではマジでいつも通りだったぜ、少なくとも俺らのセクションではな。おかしくなったのはつい今朝のことさ』


『と言うと?』


『俺は今朝、班の中で一番最初に起動したんだ。何せ俺、班長だしな。班の中でも早寝早起きの模範になる必要が――』


『要点を言え』


『あ、あぁ……で、だぜ。充電室を出たんだが、俺たちの充電室は士官の居住区のド真ん前にあるわけよ。だっからいつもなら、人間たちがすでに起き出してるのが聞き取れるんさ』


『ほぉ?』


『ところがどっこい、今朝は居住区から物音の一つもしねぇ。人間みんな早起きして出払ってんのかと思ったけど、食堂とか工場区画の方からも人の気配がない。極めつけには、今朝はドクターの定期回路診断があるはずなのにいつまで経っても来やしねぇ。不思議に思って目の前の士官居住区を覗いてみると、ありゃまぁ空っぽじゃねぇか。そんでもって、中央司令部に文句を言おうって皆で押し掛けたんだ』


『……それ、規則違反ですよね?』34667号が口を挟んだ。『ドロイドは許可なく司令部に立ち入ってはならない筈で――』


『許可を与える人間がいれば、の話だがなァ?』55597号が悪い声で言った。『だがなァんと、中央司令部もすっからかんよ。おったまげたのなんの、放送設備を拝借して告発放送をいれたってわけさ』


『……それで全部か?』と班長。


『あぁ全部だ。言ったろ、大して話すこともねぇって』


『分かった。協力に感謝する』


班長はそう言うと、くるりと踵を返しセクションを出た。34667号が、その背中に慌てて付いて行く。


『……まぁ、あまり目新しい話もなかったか』

『班長、まさか探偵ごっこでも始めるつもりですか?』


十分距離を取った後で34667号が尋ねると、彼は首を振った。


『そんな気はないさ。だがな34667号、俺はこの事件が何かが――』


□ □ □ □


『どうイうこト?』


その日の昼下がり。34667号は、班長・ショーティらとだけで話し合っていた。

工場内では一時的にリーダーのドロイドが決められ、とりあえず有志で工場内の捜索が行われている。とはいえ何も見つからないのは明らかだったので、彼ら三体は充電室に集まっていた。


『だからな、俺はどうもこの事件がように思うんだ』班長は二体を交互に見ると、告げた。


『そもそもこの工場≪ケラヴァス・レギーラⅣ≫は、レギーラ社の工場の中でもセキュリティが特に厳重だ。ここ十年の間ほんの小さなアクシデントさえ滅多に起きたことはなかったし、あんな爆発なんて尚更だ。……なのに何の前触れもなく爆発事故が起き――まぁ停電事故もあったが――、それに連動するようにして、人間たちが


『……つマり、どういウこと?』

ショーティが、小さく尋ねる。


『それは、私たちの誰にも分らないさ』34667号が答えた。


『その通り。だが一つだけ分かることがある』班長が、その言葉を継いだ。

『今この工場で、


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