第10話 修理(?)

 その後、彼ら二体と一人は中央司令部に出頭し、状況報告を行った。

 34667号と班長はメモリー回路を一時摘出され、事件発生当時の視覚データが分析班に回された。

 爆発事故については固く口封じを命じられたが、ドロイドはそもそも口を滑らしたりなどしない。

 むしろ、人間の作業員から伝わってくる話の方がぽつぽつと流れてきた。


 爆発元はすぐ隣のセクション。そこから連鎖的に爆発が広がったらしく、今やその一帯の複数セクションが作業停止となっていた。


□ □ □ □


 事件から三日後、班長と34667号は小さな待機室に座っていた。

 班長の切断された右足には、応急的に棒が添えられている。34667号のそばでは小さな修理ドロイドが宙に浮いていた。手のひらほどの大きさの円盤型修理ドロイドは、底部から延びる電子針で34667号のカバーが外された肩部回路を突いている。


『大変なことになりましたね……』


34667号が、小さくそう呟いた。




(*ごめんなさい、学校のパソコン室に打ち込んだデータを引き出せなかったのでこの部分の原稿が抜けています。ゴールデンウィーク明けには挿入できますが、大変申し訳ありません)




□ □ □ □


『よし。じゃあな、そこの奥にある『17』と書かれた制御盤のカバーを外すんだ』

『うん、分かっタ!』


 それから三日後のこと。34667号、ショーティ、班長ドロイドの三体は、工場区画の地下にある電力供給施設にいた。

 現在、工場区画では修理が急ピッチで進められているものの、如何せん修理ドロイドや作業員の数が足りていない。その結果として、現状暇を持て余している彼ら三体も修理の手伝いを申し出たのだ。

 今彼らが当たっているのは、電力系統配線の繋ぎ変え。図体の大きい34667号と班長に代わって、棒のように細いショーティが配線ダクトに潜っている。


『俺は、やめといたほうがいいと思うけどな』


 34667号の後ろに立つ班長が、そう呟いた。


『どうしてです?』

『だってここは、施設の電力供給中枢だろ? 専門知識もないドロイドに任せて、事故でも起こしたりしたら一大事だ』

『ショーティならできますよ』34667号はそう答えると、ダクトの中を覗き込んだ。『だよなショーティ、見つけたか?』


『ウん、これデしょ?』穴の奥の暗闇で銀色のボディが光ると、外した制御盤のカバーを掲げて見せる。


『よし、じゃあな……』34667号は、片手に持ったデータパッドのスクロールボタンを押すと修理の手引きの続きを読み上げた。

『制御盤の右上にある、赤いコードを引っ張り出してくれ』

『こレ?』


 ダクトの奥で、ショーティの四本腕の一つに握られたライトが光る。34667号が視覚センサーの倍率を上げて見ると、確かに赤い配線だった。


『よし良いぞ。じゃあ今度は左上にある青いコードを引っ張って、その赤いやつと繋ぐんだ』

『見ツけた!』

『――あっ、ただし』手引きの最後に注意文を見つけ、34667号は読み上げる。『プラスマイナスが逆になるから、決して同じ色の線をつなぐんじゃないぞ。良いな?』

『分かっテるってば!』


ショーティはそう答えると――色の線を引っ張り出した。


『このを繋げレば良いンだね!』

『おい待て、よすんだやめ――』


 バチバチッ!!


 ダクトの奥で物凄い火花が上がったかと思うと――施設内の照明が全て落ちた。


『お、おいショーティ、お前何した!?』


 暗闇に落ちた施設内に、34667号の叫び声が響く。その傍では班長が『だからやめておけって言ったんだ』と呟いた。


 ダクトがあった辺りの暗闇から、ショーティのライトの光条が伸びる。その光が霞んで見えるのは、基盤回線のショートで生じた煙のせいだろう。


『あ、あレれ……? 同じ色ノ配線を繋げば良いンじゃなかったッけ?』

『『違う!』』


 34667号と班長が、同時に叫び返す。


『え? ええエ?? 噓でシょ……』


 その瞬間、施設内に非常灯の紅い光がパッと灯る。と同時に放送設備から、怒れる監督官の声が降り注いだ。


『34667号! 貴様一体何をした!? すぐ報告しろ!』


 クロリアの声は大音量で、放送スピーカーを通すとひび割れて聞こえた。彼の声の背後からは、司令部の警報の音が遠く響いている。

 ドロイドたちは互いの顔を見交わすと、壁にある通信コンソールに飛びついた。


『あーあー、こちら34667号』彼は時間を稼いだ。『クロリア監督官、こちらは全て、えー、異常なしです』

『異常なしだと!? 今中央指令室にいるんだが、工場施設のおよそ半分で電力が全落ちしたぞ! 分かっているか、工場区画の半分でだ!』

『あー、えー、それについてはすぐ解決できます……』


 そう言うと、34667号はダクトの口を振り返った。


 ショーティが潜っていたダクトからは、黒い煙が今も溢れ出している。そして黒い煙というものは、良い兆候であるはずがない。

 事故を起こした張本人のショーティはと言えば、班長ドロイドに肩を抱かれてガタガタと震えていた。


『……まぁ、一両日中には直せますよ? ......多分』と、苦しい誤魔化しを口にする34667号。

『はぁお前ふざけんなよ!? 貴様らのせいで工場の機能がパァだ! 良いか、お前たちは今後一切、主要設備に触れるな! 繰り返す、今後一切、設備には指一本触れるんじゃないぞ!!』


 荒々しく通信が切られ、地下施設には不気味な沈黙が戻った。


 34667号がショーティの方を振り向くと、小さなドロイドは彼にスィーと歩み寄り、その分厚い胸に顔を埋めた。


『……監督官、性格変わってないか?』班長がボソッと言った。

『ですね、キャラ変してます』と、震えるショーティを抱きしめながら34667号。

『彼もストレス、溜まってんだろうな』

『でしょうね』


 そうして暫くすると、ショーティの方も震えが収まったようで、上目遣いに34667号を見上げた。


『34667号、ボク……監督官にバラバラにされちゃウかな……』

『そんなことはないさ』彼はそう答えると、ショーティの頭を優しく撫でる。上手い慰めの言葉が見つからなかった。

彼ら三体が見つめる中、ダクトからは未だに黒煙が吐き出される。修理に何日掛かるのか、見当も付かない。


『まぁ良い』班長ドロイドが極力明るい声で言った。『とにかく頑張った』



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