第3話 お調子者のドロイド

ドクターの腕は、素晴らしいと言わざるを得なかった。

ハロディンは外科医のような正確さで彼の前腕を解体すると、派手に火花を上げつつも鼻歌交じりに修理を行ったのだ。まさにプロの仕事であり、34667号はその技術に舌を巻いた。もちろん比喩的な意味で、だが。


「じゃ~、お大事に」


ハロディンは診療室の入り口まで彼を見送ってくれ、別れ際には軽く手も振った。彼女は工場で働く全てのドロイドを可愛がっている様であり、恐らくは大のドロイド愛好家なのだろう。つくづく奇妙な人物だと、34667号は思っていた。

消灯時間が迫る中、彼は急ぎ足で誰もいない通路を走って行った。

施設の見取り図はメモリーにあるので、道に迷うことはない。足早に工場区画を抜けて、居住区へ繋がる通路を曲がった瞬間――


『ウわっ!』


ガシャン!

彼は、反対側から歩いてきたドロイドと派手に衝突した。

幸い体躯の大きい34667号は転倒しなかったが、相手のドロイドは大きくもんどりうち、床にばったりと倒れこんだ。そして起き上がれずに、ウウと呻いている。


『! 悪い、大丈夫か?』


34667号はドロイドに声を掛け、助け起こそうと手を差し伸べた。しかし……。


『ちょっト、通路ヲ歩く時ハ、ちャんと前を向きナよ!』


先方のドロイドは、キイキイ喚きながら自分で立ち上がった。そして彼に向って、グッと詰め寄ってきたのだ。

尤も、全然恐ろしくなかったが。

身長は34667号の胸くらいであり、彼より何倍もほっそりとした棒のようなボディである。胴体からは四本の腕が伸びており、彼とは違って繊細な作業担当のドロイドのようであった。キャタピラ状の足を上に向けて精一杯背伸びをしているが、その様子が何とも言えぬいじらしさを感じさせる。

だがよく見ると、片目のフォト・セプターのライトが壊れていた。


『ねェ、聞いてルのかイ、君!』


ドロイドが喚き立てているのを、34667号は何だか奇妙な気持ちで見下ろしていた。そして気が付いたら、小さなドロイドの頭を撫でてこう言っていた。


『ごめんよ悪かったな、おチビちゃんショーティ


ドロイドが怒り心頭になったのは、言うまでもない。


『僕ハ、おチビちゃん何かジャない!』


ドロイドはそう言うと、パシッと34667号のボディを叩いた。そして、もう良いサヨナラ!と叫びながら、プリプリとその場を去っていく……、

かに、思われた。

しかし。


『ん……? ……ショーティ……、ショー、ティ……?』


一度背を向けたそのドロイドは、何やらぶつぶつ呟くと静止した。そして次の瞬間、クルリとこちらを振り返る。

そしていきなり、嬉しそうな声を上げたのだ。


『僕、その名前気に入っタよ! ありガと!』

『――はぁ?』


34667号は、呆気にとられてドロイドを見返した。そのドロイドは、キャタピラでスーっと彼に歩み寄ると、四本の腕をそれぞれ胸に当てて言った。


『僕ノ名前は、11385号! これかラは〝ショーティ〟で宜しくネ!』


これが――、11385号こと〝ショーティ〟との出会いだった。

ちょっと、無茶苦茶な出会いだったが。


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