死神エルフの殺戮

シトロン石見

第1話

「や、やめてください。」

「貴方達は私がそういったときに止めましたか?」

「え?な、なんのことです?」

「そう。わからないならいいわ。無慈悲に殺してあげる。」

その可愛らしい顔は醜い笑顔によって歪められた。 彼女は手に持っている、身長より大きい斧を振るう。

「ぎゃー!」

彼女の目の前にいた幼子を抱いた母親の首が飛ぶ。彼女はポツリと呟く。

「一々うるさいですね。私達の種族は何も言えなかったのに。」

この日、一つの国が地図から消えた。


〜とある国の王城にて〜

「帝国に忠誠を」

「「忠誠を」」

謁見の間に集まった騎士が無機質な声を揃えて言う。 王座に座った小太りの豚が彼らに向かって甲高い声で叫ぶ。

「お前ら!あのエルフだけは絶対に許すな!ワシの前に連れてこい!」

騎士たちは内心、気怠そうにしながらエルフの森へ向かう。

「どうします?」

騎士の一人が指揮官に向かって言う。

「どうするも何も。エルフの森を焼き払って、あの娘をおびき出すしかないだろ。」 「そうですね。」

彼らは全く罪悪感がないようだ。


〜数日後 エルフの村にて〜

「も、森が…。燃えてる…。」

「なんで…。」

エルフの森は神聖な場所だ。その森を守るため、火魔法の使用は禁じられている。火魔法を使うことよできる場所は、村の中心にある、調理場だけだ。

「と、とりあえず火を消そう。」

エルフたちは火元に向かっていった。その様子を影から見ていたものがいた。

「想定どおりだ。」

彼は不敵に笑った。彼は極上の笑顔で隊長に報告しに行く。

「隊長。彼らは向かいましたよ。」

「そうか。よくやった。」

「いえいえ。隊長の教えどおりですよ。」 「そうか?お前は見どころがあるな。後で昇進できるように行っておいてやろう。」

彼は内心ガッツポーズをする。あの隊長は、軽く褒めるだけで昇進させてくれる。そういう面では一番の人気だった。

「では狩りに行くとするか。男は殺せ。女は好きにしていいぞ。ただし、銀髪だけは捉えて連れてこい。陛下の命令だ。」

「いえっさー。」

兵士どもはエルフの女で頭がいっぱいだった。上の空で返事をして、皆急いで『狩り』に向かう。

「ひゃっほう!上玉揃いだぜ!」

「アイツらはもう魔力がないぞ。今だ!打て!」

分隊長の合図で矢を射る。エルフたちは突然の攻撃に何もできずに、無慈悲に殺されていく。ある者は矢が当たって死に、ある者は火に焼かれて死に、ある者は村に助けを呼びに行こうとして頭を跳ねられ、ある者は惨めな目に合うならと自ら命を断った。3000ほどいたエルフはあっという間に全滅した。だが、銀髪のエルフは表れなかった。一方村では、帝国の新型爆弾の実験場とされた。なんでも、一つの都市を壊滅させられるそうだ。実験は成功した。その爆弾を上空から落とすと、そこにはクレーターができていた。彼らは本来の目的である、銀髪のエルフを捕まえるということ以外は全て完璧に成し遂げ、浮かれていた。その先には地獄しかないということも知らずに。


〜一方 フィーは〜

フィーは逃げていた。フィーは村唯一のハイエルフとして大切に育てられてきた。だがある時、森の中に侵入者が現れたとの情報が入った。フィーは村の代表として向かった。そこには豪華な馬車と、宝石を体中に纏った、小太りのブタがいた。フィーは嫌悪感を懐きながらも、外には出さずにこやかに話しかける。

「どうされましたか?こちらはエルフの管理する森となっております。どなたであってもお通しすることはできません。付添いのものを出しますので、街道までお戻りください。」

すると、ブタは顔を真っ赤にして

「亜人ごときが人様に命令するな!そうだな。お前、ワシの夜の相手になれ。さすれば我らはお前らを見逃してやろう。」

フィーは豚が何を行っているのか、理解できなかった。フィーは先程より語気を強めながら

「立ち去りなさい。これ以上この場にとどまるのならば、実力行使にでます。」

「何だと!無礼者!ワシが抱いてやろうと言ってやってるのに!立場がわかっていないようだな。やれ!傷はついても構わぬ。だか、殺すなよ。」

フィーはため息をつきながら騎士たちを素早く拘束していく。

「これ。疲れるのよね。魔力消費も多いし。怪我させないように手加減するのって大変。」

とつぶやく。 騎士たちは怒りに震えているが、拘束されていてはどうしようもなく堪えている。醜いブタがなにか喚いているが、フィーは気にせず街道まで転送する。フィーは何度目かわからないため息をつきながら、村に戻った。


〜一方 王の城では〜

「お前ら!それでも騎士か!あの小娘め、痛い目を見せてやる!」

豚が甲高い声で叫ぶ。豚は急いで城へ戻り、騎士団に命を下す。

「エルフの村にいるであろう、銀髪の小娘を連れてこい。」と。

その噂はエルフの村にまで伝わってきた。 「わ、わたしが…。な、なんで…。」

フィーは悩んだ。このまま村にいては村人に迷惑がかかるかもしれない。だが、外の世界で生きていけるかわからない。一晩考えても結論は出なかった。村人たちにも相談した。しかし、皆、口をそろえていった。 「フィーちゃんは何も気にしなくていいよ。私たちで何とかするから。」

その言葉を聞き続けて、ついにフィーは決心した。

(私が村にいると、彼らは怪我をしてでも私を守るだろう。この村から自分がいなくなればこの村は安全になるだろう。外の世界が怖いなどとは言ってられない。村人を守るためなら何でもする。それが私の信条だ。)

だが、フィーの考えには落とし穴があった。人間とは、もっと醜く、ずる賢く、無慈悲な生物であるということを。


フィーはひたすら走っていた。村の方を振り返るということはしなかった。見てしまうと、帰りたくなってしまうから。ついに村から10㎞ほど離れた場所にある街道まで来た。フィーは街道まで来た達成感でうっかり、後ろを振り返ってしまった。フィーの目に入ってきた景色は信じられないものだった。

「も、燃えてる?」

森は赤く染まっていた。フィーは自分の見た映像が信じられず、頭が真っ白になった。だが、それだけではなかった。轟音とともにエルフの村があるはずの場所が爆発したのである。フィーは一瞬何が起きたのかわからなかったが、急いで引き返し、村があった場所に戻った。

「ひどい…。」

フィーは兵に気付かれないように隠れながら進む。だが、村があった場所はクレーターになっていて、そこに村があったなどとは誰も思えないような状況だった。フィーは怒りでどうにかなってしまいそうだったが、必死にこらえて火元へ向かう。 そこにあったのは地獄だった。エルフの女は如何わしいことをされ、帝国の兵士が彼女らに何かを食べさせている。彼女は必死に口を開けないようにするが、魔力が使えず、食わせられていた。フィーはなぜ、彼女らがそんなに必死なのか理解できなかった。なので、聴力を強化する魔法を使用して彼らの会話を盗み聞くことにした。

「これを食えば寿命が倍になるんだとよ。」

「そうなのか?うまいし、寿命も延びるとか。一石二鳥ってやつだな、エルフの肉は。」

フィーの心の中にあった怒りの防波堤が決壊した。

「アハハハハハハハ」

フィーは自分がなぜ今まで逃げていたのか。私が生まれた時から持っているあのスキルを使えば、帝国など滅ぼせるのに。私が我慢する必要はないんだ。ということに気が付き、高笑いした。

「スキル発動『死神の加護』」

このスキルは自分の寿命を代償に殺したい生物を確実に殺せる力を得ることができるスキルだ。今までこのスキルは、使用してこなかった。死ぬのが怖かったのである。また、そこまで何かを殺したいと思うことはなかった。だが、今の怒りにおかしくなっている状況では、怖さも何もない。ただ、エルフたちにこんなことをした帝国がただ憎い。その一心だった。帝国の兵がフィーの笑い声に気が付き、集まってくる。だが、スキルを使用したフィーの心は静かだった。『こいつらを殺す』それのみだ。それ以外どうでもいい。だだ殺したい。

「ああ。殺したい。」

フィーは近づいてきた帝国の兵の首を一人一人はねていく。フィーは人を殺す、その行為に快感を感じた。この気持ちは忘れられない。もっと人を殺したい。フィーは基地内にいた帝国兵をひとりずつ、丁寧に殺していく。

「ハハハハハ」

フィーは笑いが止まらなかった。なぜ、こんなにも楽しいことを今までやってこなかったのか?フィーは過去の自分が信じられなかった。そんなフィーを見ていたエルフの女たちはあまりの無惨さに気を失ってしまった。 「な、なにごとだ。」

指揮官の男が叫び声に反応して、出てきた。 「あなたが指揮官ですか。どうぞ。あなたの部下だったものの首です。醜いものですがお納めください。」

指揮官は目の前の女が死神にしか見えなかった。この状況で冗談を言ってくるのだ。狂っているとしか言えない。あまりの怖さに指揮官は失禁してしまった。

「あらあら。お漏らしですか。子供ですね。恥ずかしさのあまり死にたいでしょうから殺して差し上げます。」

フィーは死神のような恐ろしい笑顔を顔に張り付けどこから取り出したのか斧を手にもち、指揮官の首に添える。

「ヒッ」

「ザシュッ」

首が飛んだ。フィーはつぶやく。

「あまりに弱すぎますね。こんなのに遠慮していたと思うと…。」

フィーはその首を城のある方向へと投げる。 「これで宣戦布告はしたということで。では、無慈悲に殺戮しましょうか。」

地獄の足音はすぐそばまで来ている。


~王城にて~

「まだか!報告はまだか!」

王がキリキリと叫ぶ。

「パリーン」

突然、窓が割れ、何かが城の中に入ってきた。

「何事だ!」

急いで王を警護していた兵が確認する。だが、その兵士は顔を真っ青にする。

「それは何だ?」

彼は声を震わせながら

「へ、陛下。く、首にございます。エルフの村にいった隊の隊長の首にございます。」 「く、首だと!?」

「陛下。お逃げになってください。」

「うむ。そうだな。逃げる用意をしろ!」 突然、冷たい風が城の中を流れた。

「逃がすわけがないでしょう。」

悪魔の声にしか聞こえなかった。王が振り返ると、きれいな銀髪を赤く染め、体中血痕まみれで、右手には大きい斧を、左手には王子の首を持った悪魔がいた。その瞬間、王以外の者の首が一斉に飛んだ。


~一方、エルフの森にほど近い街では~ 「ふむ。皆笑顔ですね。なぜだか、あの笑顔を歪めたくなってきました。さて、殺戮しますか。」

フィーは片っ端から首をはねていく。住民は突然の恐怖に逃げ惑う。必死に助けを乞うものもいる。

「や、やめてください。」

「貴方達は私がそういったときに止めましたか?」

「え?な、なんのことです?」

「そう。わからないならいいわ。無慈悲に殺してあげる。」

その可愛らしい顔は醜い笑顔によって歪められた。 彼女は手に持っている、身長より大きい斧を振るう。

「ぎゃー!」

彼女の目の前にいた幼子を抱いた母親の首が飛ぶ。彼女はポツリと呟く。

「一々うるさいですね。私達の種族は何も言えなかったのに。」

10分ほどで街から人が消えた。

「ひとりひとり首を撥ねるのも楽しいですが、如何せん時間がかかりますからね。魔法で爆殺していきますか。」

フィーは帝国内にある街の数と同じだけの炎を用意する。

「では。『エクスプロージョン』!なんつって。」

この状況で冗談を言うものなどいるのか。だが、この攻撃によって王都以外のすべての帝国の街が壊滅した。

「さて、王都に向かいますか。」

王都に到着する。だが、王都にはまだ情報が入っていないのか、誰もあわてている様子はない。

「どうしましょうか。ひとりひとり殺していくと逃げられてしまいますからね。」

フィーは何かないかとあたりを見回す。すると、王都の中心に鐘のようなものがあった。

「あれは…。いいですね。使わせてもらいましょう。」

フィーが見つけたのは、緊急事態を知らせるための毛根太。この鐘がなると、住民は避難場所に向かわねばならない。 フィーは見張りを颯爽に殺す。

「これを鳴らせば…。」

「カーンカーンカーン」

すると、住民は慌てたように逃げ出す。 「避難場所に集まったところを狙えば…。」 フィーはすべての人間が逃げたのを確認して殺戮する。あっという間に王都にいた10万の人は王城にいる1000だけになった。

「後は王城だけですか。つまらないですね。もう少し殺したかったのに。」

フィーは王城に向かう。警備はざるだったので、簡単に侵入で来た。

「しんにゅ…。」

「ぞ…。」

誰も危険を知らせる前に首が飛んでしまう。

「もっと殺しがいのある者はいないのでしょうか?つまらなすぎます。」

ただひたすら首を撥ねていく。

「ここが王子の部屋ですか。」

部屋の中に入ると、薬と女の匂いしかしなしかった。

「だ、誰だ!?ここが誰の部屋かわかってるのか!?」

フィーは返事を返すのも面倒くさくなり、首を撥ねる。と、フィーはこの首を王への手土産にしようと思いつく。左手にその頭を持ち、右手に斧をもって首を撥ねていく。 「ほう。片手がふさがっている方がスリルがあって楽しいですね。新しい発見です。」 彼女はゲーム感覚げこの殺戮を楽しんでいたのである。もはや、悪魔を超えた恐ろしさだ。 ついに国王の部屋だけとなった。

「もう後20人ほどですか。ちょうどいいですね。そろそろ終わりにしたかったので。」 フィーは国王の部屋に入る。すると、ちょうど投げた隊長の首が入ってきたところだった。

「ちょっと早すぎましたか。反省ですっ。」

フィーはペロッと舌を出す。だが、可愛さなどない。まるで吸血鬼のような、人の命を何とも思っていないような恐ろしさしかなかった。 王らは急いで逃げようとしている。なのでまず、王以外を殺すことにする。

「逃がすわけがないでしょう。」

「だ、だ、だれ、だ。」

「誰って。あなたが欲していたではないですか。」

「もしや、あの娘か?」

「どの娘かわからないですけど、銀髪のエルフの娘です。お望み通りやってきました。こちらは先程拾ったあなたの息子の首です。醜いものですが。」

そう言い、フィーは王子の首を差し出す。王は恐ろしさのあまりガタガタと、フィーに伝わってくるほど震えていた。

「何が望みだ。」

王は最後の勇気を振り絞り、そう問う。 「いえ。望みなどありません。しいていうなら…あなたの首ですかね。」

フィーはそういうと同時に斧をふるう。王の首が飛んだ時、フィーはまるで、長年苦労していたゲームをようやくクリアした時のような達成感に覆われた。

「やっと、終わった。」

フィーがそうつぶやくと同時に空から大きな鎌が降ってきて、フィーの心臓を貫いた。

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