第5話 カフェ(1)


「そりゃ先に着いてるか」


 俺が放課後指定された場所へと向かうとその場所で玲奈が元気に手を振って俺を待っていた。というかなにかを手に持っているが何なんなんだろうか?

 まぁ、急ぐほどでもないしこのまま歩いていくとしよう。


「にゃははっ、遅かったね〜」

「……ちょっとだけだ」


 案のじょう着いた瞬間にからかわれるが俺はあまり反応することなく軽く受け流す。


「またまた、どうせ迷ってたんでしょ。……方向音痴だし」

「わざわざ言うなっ」


 受け流せなかったみたいだ。しかし、俺が軽くツッコミを入れると玲奈が珍しくシュンとなり頭を俯かせる。


「ごめん、久しぶりだからつい……昔と変わってないのか確かめたくなっちゃって」


 どうやら玲奈は俺が変わっていないか不安でこんなことをしたらしい。確かに同じ場所に行くのにワザワザ一旦別れていく必要はないからな。



「まぁ、そういうことな分からなくも_」

「本当にごめん。動画もちゃんと撮ったからこういうことはこれっきりにするよ」

「おいっ!」


 どうやら先程手に持っていたのはスマホらしい。それで俺の様子を撮っていたわけだ。……なんて奴、学校では本当に完璧に猫を被っているということか。


「……玲奈も変わってないみたいだな」

「えへへ、そうかな?」

「1ミリたりとも褒めてないけどな」

「むぅ」


 玲奈は口を尖らせるがさっきの俺の言葉を聞いて褒められていると認識する方が間違っている気がする。


「っと、そんなことより今日はこのカフェ屋だよ。ATMの貯蔵は十分?」

「そんな高いのかよっ」


 俺は目の前に建っているカフェ屋を見て驚く。一体どんなカフェ屋なんだ、ここ。


「黄金の食器……黄金の料理……黄金のシェフ?」

「……相変わらず嘘を見抜けないみたいで安心したよ」

「嘘かよっ」


 慌ててここからどう逃げ出そうかと考えちゃったじゃないか。というか昔にもこんなやり取りあったけ?


「アハハ、全然私達変わってないね」


 どうやら玲奈も同じことを思ったらしくケラケラと笑い声を上げる。……どうにもこういう時の玲奈は可愛く見えてしまうから目のやり場に困る。


「あれ、どしたの? もしかして私が可愛くって見惚れちゃったとかかなぁ?」

「……俺は元々北川に恋してるからな」


 玲奈は俺の微妙な表情の変化に気がついたようで揶揄からかいに来るが、俺はどうせ隠しても無駄だと諦め本音を伝えることにする。


「っ……!? そ、それはっ。と、というか急にそんなこと言われても困るしっ」

「悪い、気分を害したなら忘れてくれ」


 しかし、どうせ俺のことなどお見通しだと思っていた玲奈が予想外に動揺したので俺も焦る。


「……ま、まぁいいや。入るよっ!」

「わ、分かった。だからあまり引っ張らないでくれっ。服が伸びる」

「そんなもん勝手に伸びとけばいいんだよっ」

「なにを怒ってるんだ?」

「怒ってない」


 いや、しかしこの反応はどう考えても怒っていると思うのだが。それに顔をまた俯かせちゃってるし、耳だって赤_。


「ジロジロ見てないで早く入ってよっ。ほらっ、今日はよっぴーの奢りなんだからっ」

「おい、待て」


 そんなわけで更に機嫌を悪くするわけにもいかず俺は慌てて玲奈につづいてカフェ屋の中へと入るのだった。




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 次回「カフェ(2)」


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