第4話 完璧な彼女


「んでさ、そいつがコンビニで暴れて回ってるんだけどさ誰も___って聞いてるか?」

「うん? あぁ聞いてる」


 目の前に立つ自称、俺の親友こと霧ヶ峰きりがみね 一圭いっけいの問いかけに対し俺は曖昧に返す。

 しかし、一圭は俺の曖昧な返事に疑問を抱いたのか俺のことをジーッと見た後。


「じゃあ、さっき話してたとこと言ってみろ?」


 そんなことを言ってきた。しかし、とは言われても話の内容など覚えていない。なんとか覚えている範囲のもので補うしかない。


「えっーと、一圭がコンビニに行って」

「うんうん」

「暴れた結果誰も止められなかったって話だよな?」

「俺、暴れてねぇよ!?」

「じゃあ、一圭がコンビニだった話か?」

「俺がコンビニだった話ってなんだよっ。そんな時ないわっ」


 大声でツッコミを連発しすぎたせいか一圭が俺の前でハァハァと息をつく。相変わらずサッカー部のくせして体力のない奴だ。


「というか今日、お前様子が変だぞ? いつもは話だってちゃんと聞くし基本的にボケないだろ? ツッコミ担当だろ?

「いや、今日もボケてるつもりはないんだが?」


 確かにボケーと昨日のことを考えることはあってもボケたつもりはない。


「ボケの方は天然なのかよっ。そ、それはそれとしてそれでも変だぞ。なんかあったろ?」

「まぁ、なきにしろあらずって奴だ」


 そこで俺は自然と教室に俺の前ではあり得ないほどに穏やかな笑みを浮かべて、クラスメイトに囲まれている玲奈の方へと視線を向ける。……やはり、この様子を見ていると未だに玲奈だというのが信じられないな。


「ん? あぁ、今日も可愛いよなぁ……北川さん。ハッ!?」


 一圭が俺が視線を向けていることに気がついたのか玲奈(北川さん)の方へと話題をシフトしようとしたところでなにかに気がついたのか俺の方へと素早く視線を戻した。


「まさか……お前」


 俺が北川さん(玲奈)のことが好きだと知っている一圭はなにかの確信を深めたらしく俺の方を凝視し始めた。……正直言うと、少し怖い。


「振られたのか?」

「んんっ、まぁ、う〜ん」


 俺はどう答えていいのか分からず返答に迷う。

 いや、そもそも玲奈だと思ってなかったらあの告白が無効と言えなくもないが、告白はしてるわけだし一応好きではないと言われているから振られていると取ることも出来る。

 この場合、どう答えるのが門が立たないのだろうか?


「……振られたのか」


 俺がどう答えようかと頭を回転させていると俺のことを凝視していた一圭が俺の様子を見てかそんなことを言ってきた。


「……まぁ、そうだな」


 振られたことは振られたと言えるので俺は否定することなく頷いておくことにする。

 というかこの話題は早く終わらせてしまいたいっ。俺の脳内でトラウマがフラッシュバックする。


「そんな辛そうな顔して……よっし、今日くらいは俺が奢ってやろう」


 するとよほど俺が告白に振られ傷ついていると思ったらしき一圭がそんな声を上げる。正直、勘違いでしかないわけだが奢って貰えるのなら乗っておくことにしよう。


「そうか……楽しみだな」

「うんうん、本当に楽しみだよね」

「おうっ、俺に任せ___って、北川さん!?」


 いつの間に来ていたのか自然な形で会話に混ざっていた玲奈の存在に一圭が気がつき当然のごとく驚きの声を上げる。


「あっ、いやごめん。そこまで驚かせる気は……。ごめんね一圭くん」

「い、いや全然大丈夫です。というか名前知ってくれてたんですかっ? 自分みたいな陰の者を……」


 玲奈の心底心配そうな顔を見て一圭はかなり慌て早口になりながらなんとか言葉を繋ぐ。


「えっ、だってクラスメイトだし知ってるよ。サッカーいつも頑張ってるよね」

「ま、まじすかっ。天使ですか!?」


 玲奈が優しい笑みでそんなことを言うので一圭はかなり取り乱して興奮していた。……これを作っていると思うと恐ろしい奴だ。


「天使じゃないよ。北川 玲奈。良かったら覚えてね」

「も、勿論知ってます!」


 自分の名前を知らないクラスメイトなんていないことは分かっているだろうに、知っていて当然という態度を取らず丁寧に挨拶をする玲奈。


「それでね、一圭くん。そこのよっ___しゅんくんのことを借りたいんだけどいいかな? ちょっと聞きたいことがあるからさ」

「勿論、自分はオッケーです。しゅんの方は?」

「俺も断る理由はないです」


 一圭も俺が断らないことなど分かっているだろうが一応尋ねてきたので俺はそう返す。

 ここで断ったりしたらあの録音がばら撒かれる可能性があるからな。あと、教室なので一応いつも通り丁寧語で接しておく。


「じゃあ、ちょっとだけごめんね〜」

「いえいえ、全然そんな」


 こうして俺は玲奈によって教室の外へとつ連れ出されるのだった。



 *



「いやぁ、目立ってたね」

「目立ってたね、じゃないっ! 目立ちすぎだろっ。録音ばら撒かれるかもだから一応来るには来たが」


 軽く舌を出して笑う玲奈に俺は思わずそう声を上げるが、


「ちょっ、しずかに! ここだって人が来るかもしんないんだからっ」

「わ、悪い」


 玲奈にそう言われてしまい俺はおし黙る。俺と玲奈が今現在いるのは俺達の教室から3階上がったコンピュータ室などがある4階。

 人通りは少ないが誰も来ないわけではないので大声は禁物だ。


「で、なんの用だ?」

「今日……」

「んっ?」


 玲奈が最後のほうをボソッと言ったので聞き取れず俺はもう一度聞き返す。というかさっきから若干俯いてるけどどうかしたのか?

 そんなことを考えているようやくしっかりと顔を上げた玲奈は、


「今日の放課後、カフェ屋ねっ。これ今週分の遊ぶやつだから拒否権はないよ」


 ニヤりと歯を浮かせ、俺の前で見せる小悪魔な笑みを浮かべそんなことを言うのだった。……本当に教室での演技が完璧すぎるだろ。






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 次回「カフェ(1)」


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