第17話②

 「どうせなら2人で学校に行けば?」

 「…いい、の?私はりゅー君と一緒に登校したいな」


 G Wゴールデンウィークも終わって学校が再開する朝、香織ちゃんがそんな提案をしてくれました。またしばらく話せなくなると落ち込んでいた私はすぐにそれに飛びついてしまいました。…りゅー君にはしたないと思われてないでしょうか?


 「あ、ああ。俺もはーちゃんと一緒がいい」

 「…そ、そう」

 「…うん」


 それでも、りゅー君もそう言ってくれました。お世辞だったとしても嬉しすぎます!!…今のニヤニヤが止まらない顔をりゅー君に見られるわけにはいきません。恥ずかしいです。


 「ハァ〜。とっとと行ってくれば?」(全く、早く付き合えばいいのに)


 私たちは香織ちゃんに促せられるままに家を出ました。…香織ちゃんも私のことを応援してくれてるはずです!!頑張るしかありません!


 ……でも、無言で歩いてるだけです。それなのに学校までの道のりをもう半分くらい過ぎてしまいました。


 …そう、ですよね。私は何を勝手に浮かれてたんでしょうか?りゅー君は香織ちゃんの前だったから義理で付き合ってくれてるだけなのに。一緒に仲良く登校できる、そんな甘えがあったのでしょうか?


 …せっかく香織ちゃんにここまでお膳立てしてもらったのに、結局私は変われないんでしょうか?隣同士で歩いてるはずなのにずっと遠く感じてしまいます。…このまま何もできないのは、イヤです!!せめて、何か会話をしないと。


 「…ねぇ、りゅー君。りゅー君の好きな人って、どんな人なの?」

 「えっ!?」


 …ま、間違えた〜〜!!いまさら聞かなかったことに、なんて無理ですかね?りゅー君も驚いたような表情をしています。


 「…俺が好きなのは努力家な人だよ。不器用なのに全部に一生懸命で、常に全力。しかも、それで結果を出してるんだもん。…俺も努力してるつもりなのに、あっという間に追い越されちゃった」


 絶対に引かれたと思ったのに、りゅー君はしっかりと答えてくれました。…やっぱりりゅー君は優しいです。


 「そう、なんだ。今もその人のことが大切なんだね…」


 それにしても、りゅー君はやっぱりまだその人のことが好きなんですね。少しだけ遠くを見つめるりゅー君を私は横から眺めました。


 …私はやっぱりバカですね。『はーちゃんだよ』なんて言ってくれるはずないのに。ここ最近で大好きなりゅー君とまた昔みたいに話せるようになって調子に乗ってしまいました。それに、りゅー君が風邪のときに私を好き、って言ってくれてたから。


 でも、やっぱり現実はそんなに甘くありませんでした。もう泣きそうですがそんなことをするわけにはいきません。


 「ああ。彼女のためならなんだってやる。…はーちゃんの好きな人は?やっぱり拓磨?」

 「そんなわけない!!私の好きな人はもっと私を見てくれる!助けてくれるの!あんな人と一緒にしないで!」

 「ご、ごめん」


 涙を堪えていた私はつい声を荒げてしまいました。でも、嫌いなモブ夫さんを私が好きなんて冗談でも言ってほしくないです!


 …私が好きなのはりゅー君だけだから。そう言えたらどれだけ気が楽でしょうか?でも、そんなことを私が言う資格なんてありません。もう、自分で手放してしまいました。


 …私が告白したらきっとりゅー君を苦しめてしまいます。そんなことになるなら、私の胸の奥だけに封印する方がいいです。


 「あれ?白亜?それと楠木君…、ああ、なるほど。頑張ったね」

 「春花!?そんなんじゃないよ…私がりゅー君と、なんて…」

 「えっ!?だって一緒に…」

 「優しいりゅー君が一緒に登校してくれてるだけだよ。私なんて…」


 そのときに春香とバッタリ会いました。私がりゅー君と一緒にいることで誤解されてしまいました。それでも、何回も相談に乗ってもらってる春香の誤解をそのままにするわけにはいきませんでした。


 「…そっか。今はまだ友達なんだね」

 「…とも、だち?そう、なのかな?」

 「もちろん!だって登校が一緒なんて友達でしょ?」


 私の話を聞いた春香はそう言ってくれました。…友達だと思っていいんでしょうか?


 「じゃあ、先に行ってるね。白鳥さんも櫻井さんもまた後で」

 「あっ…」


 そうやって春香と話しているとりゅー君は気をきかせてくれたのか、そんなことを言って一人で学校に向かってしまいました。


 「待って待って!お邪魔虫の私はすぐに行くから、二人は一緒に登校してね!じゃ!」


 私は何もできなかったのに春香がそう引き止めてくれました。それから私にだけ分かるようにウインクをして春香は去っていきました。…私は色んな人に支えられています。それに報いるためにも、自分から行動できるようになりたいです。だから、まずは一緒に登校することからです!


 「じゃあ、行こっ?」

 「…そう、だね。俺がいたせいでごめんね。友達と一緒の方が良かったよね?」

 「?私はりゅー君も友達だと思ってるよ?」


 …今はまだ、ですけどね。やっぱり私はりゅー君のことを諦められません。支えてくれる人のためにも、最後まで全力を尽くさないといけないような気がしました。


 「じゃあ、行くか」

 「うん!」


 私がそう決意したからでしょうか?早速私に運が巡ってきたような気がします。なんと、りゅー君が手を差し出してくれました!!手を繋いで登校することを許してくれました!!


 それでも、楽しい時間はあっという間に終わってしまいます。すぐに学校に着いてしまいました。


 「あっ…」


 繋がってた手を離さなきゃいけなくなってしまいました。その喪失感で胸が張り裂けてしまいそうです。それが辛くて、手の温もりを失わないように手を握りました。…そんなことをしても無駄なのに。第一、いつもはりゅー君と手を繋げることすらなかったのに…。どんどん私は我儘になってしまっています。


 「…早く行こっ?」

 「〜ッ!うん!?」


 そんな私にりゅー君はまた手を差し出してくれました。感極まった私はその優しくて大きい手を両手で握りしめました。

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