第5話 命を奪うという事

5.命を奪うという事








「うわぁ、綺麗な街並みだなぁ」


お城から一歩外に出るとそこには写真でしか見たことが無いような海外の街並みのようで凄く綺麗だ、異国情緒あふれる?この場合は異世界情緒あふれるっていうべきかな?


異世界であるこの世界の街並みは言うなれば中世の海外のような。石造りのお城、石畳の道、石の土台に木の壁の家、ガラスの様な物がはめ込まれた窓などアニメや漫画などで描かれる異世界の街そのものだ。


荷台みたいな物を引いて歩いている人や、籠を抱えて歩いている人、武器や防具を装備した人。色んな人がいる。


因みに従魔猫であるミザリーは道を歩いてはねられると危ないので頭の上に乗せている。ミザリーは猫の中でも小柄みたいなので全然重さを感じない。



「きゃっ!何あれっ!」


「うぉぉ!何だあれかっけえー!」


クラスメイトが驚きの声を上げたのでそっちの方を見てみるとそこには馬?と呼んでいいのか分からない生き物がいた。


馬と言っていいのか分からないと言ったのは地球でみるような馬とは似ていないからだ。まず角が生えている、そして羽根みたいに羽毛が生えていてその見た目も馬とかよりどっちかって言うと恐竜っぽい。

ラプトル系の恐竜に羽根が生えた感じ?何とも不思議な生き物がいるもんだなぁ。



こういった中世の文明では街にゴミが散らばりあまり衛生的でない感じを想像するがここ異世界の街では中世っぽいのに街にゴミがひとつも落ちていなくて綺麗な物だ。


果たしてこれは何かこの異世界特有の何かがあって衛生が保たれているのかな?スライムとか?


「ねぇリークさん、聞きたい事があるんだけどいいですか?」


歩きながら僕達の班の護衛である騎士に話しかける。気になったら聞けばいいのだ。


「何々?聞きたい事があるならどんどん聞いてくれていいよ?」


そういってニコリと笑うのは少し軟派な性格をしている、現在彼女募集中22才であるリークさん。


「街が凄く綺麗ですけどどうしてですか?」


「凄く綺麗?そうかぁ?これが普通だから凄くかどうかはわからないけど。そうだなぁ、確かに昔は街中が汚かったらしいが。それも、【浄化】スキル持ちの人達が掃除屋としてゴミ掃除してくれるようになってから綺麗になったって話しだぜ」


「へー、昔は汚かったんだ?」


「あぁ、お前らの一つ前にこの世界にきた異世界人がそうした方がいいんじゃね?って言ったらしくてな。試してみると確かに街中が綺麗になって衛生的にもよくなったから、それからずっと続いてるんだよ」


僕達よりひとつ前にきた異世界人か、たしか召喚って300年周期だったよな?そんなに前にしたことが今までちゃんと続いているのか……そしてそんな事をよく知ってたなリークさん、見た目じゃそんな事気にもし無さそうなのに。


「あ、お前。俺がなんでそんな事知ってるんだって顔してるな?こう見えても騎士ってのはなるのが大変なんだぞ?ちゃんとした知識と深い思慮が必要でな───」


胡散臭い目で見てたのがばれたのかリークさんがくどくどと話し始めた。こうなったら大人しくうんうん言っとけばいいか。



リークさんの話しを聞きながら周りを見てみる。

この世界の住人である街中の人達は物珍しいのかじろじろと僕達の事を見てくる。

服装は一応この世界に合った物を支給されているのでおかしくはないはずだが、恐らく髪の毛が黒いのと顔つきが見慣れないからなんだなんだと気になるのだろう。


僕達の班以外には他に4班ついてきていて他にも各班に護衛の騎士が二人、物資を運ぶための人が3人の合計33人と大所帯だ。

しかもクラスメイト達はこの世界にきて初めてちゃんと街中を見るんだ、第三者からみるとかなりはしゃいでるように見えるだろうまるで遠足気分だ。注目を浴びているのはそのせいもあるかもしれない。



そんな風に街中を歩く事30分ぐらい。気が付くと目の前に大きな建物が見えてきた。僕達が通っていた学校ぐらいの大きさはあるかもしれない。


「あそこは冒険者ギルドだ、あの中にダンジョンがあってこれからあそこへ入るがくれぐれも大人しくしているように。ギルド内には気の短い者も多い、余計な騒動はごめんだからな」


そういって冒険者ギルド内に入っていくのはオスカーおじさん。懸念はわかる、冒険者なんて職業をやっている人達だ、血気盛んでけんかっ早いんだろう。全員がそうだとは言わないがそういった傾向にあるのは事実なんだろう。


だけどオスカーおじさん、どうやっても大人しくしているってのは無理だよ。みんなを見て見なよ……冒険者ギルドって言葉を聞いたときから男子なんてみんな前のめり状態だよ。


少し不安な気持ちのままオスカーおじさんの後に続いて冒険者ギルド内へと入る。

中にはある意味想像していた通りの光景が広がっていた、革鎧やプレートメイル、ローブなどを装備した冒険者達。

ギルド内に入って意外に思ったのは男性も女性もおなじぐらいの人数がいる事だ。物語の中では冒険者と言えばごろつきみたいな男達ばっかりで女性なんてほぼいないように書かれているがこの世界では女性も多いみたいだ。


そしてやはりここでも注目の的だ。みんなが好奇の目で見てくる、気になるんだろう。そんな人達なんて知った事かとオスカーおじさんはずんずんとギルド内を進んでいく。


僕達も遅れないように慌ててついていく、ギルド内に何があるのかすっごく気になるがここではぐれると大変な事になりそうだしなー


オスカーおじさんはそのままギルド内を進み、受付っぽいカウンターを通り過ぎ廊下を通り奥へと進んでいく。


「何だあれ?洞窟?」


冒険者ギルド内の中庭へ出ると隣を歩いていた前田君がそうつぶやいたのが聞こえた。見て見るとそこには地面から生えた洞窟があった。ちょっと意味が分からない。

芝生の生えた綺麗な中庭のど真ん中に突然洞窟っぽい空洞の出来た岩が地面から生えている。


何度見ても意味が分からない、なんであんな場所に突然あるんだ……まぁ流れからするとあれがダンジョン何だろうけど、もうちょっとなんかこう………ねぇ?


「あそこがダンジョンの入り口だ、遅れないようについてこい」


中庭にはギルド内と同じ様にそれなりの数の冒険者の姿があった。多分これからダンジョンへと行くんだろうけど。ここのダンジョンって多分かなり簡単な部類のはずなのにみんなはなんでダンジョンへ行くんだろうか?


見た所年齢的には若いって感じではないし少しおじさんって感じ?の人が多い。中にはもちろん僕達と年齢が変わらなさそうな人もいる。


街中を歩いていた時はみんな雑談して騒がしかったから僕も話しやすかったが。ギルド内に入ってからはうるさかったクラスメイト達も大人しくなってしまったのでここでは聞きづらい。


オスカーおじさんについてダンジョンの入り口に入る。中は明かりがついており想像していたよりも暗くない。

って言うかあの明かり魔道具じゃないか……?見た目的に何かが燃えてるようには見えない。かと言ってなにか電源が繋がっているようにも見えない。


気になる!


気になるけどオスカーおじさんは足を止めずに進んでいくのでついていくしかない。

ダンジョン内を進んでいくと緩やかな下り坂になっているようで地面が少し傾斜しているのがわかる。

そのまま5分ほど進む、途中で右に曲がったり左に曲がったりしたがずっと一本道で道に迷う可能性は無さそうだ。

すると行く先に洞窟の外の光が見える。


「おぉ!ここがダンジョン内?」


洞窟の終わりが徐々に近づきそのまま外へでるとそこには草原が広がっていた。頬を撫でる風、緑と土の匂い、肌に感じる太陽の熱。

とてもダンジョン内とは思えない。


「ほら、とまるな」


後ろから続く騎士に促され草原へと足を踏み入れていく。クラスメイト達はみんな僕と同じ様にここがダンジョンだとは信じ切れていないような感じだ。


「あれ?人が全然いない」


「いい所に気づいたな、ちょうどいい少し説明しよう。みんなよく聞け!」


オスカーおじさんに僕の呟きが聞こえたのかみんなを整列させ始めた。


「ここ【風吹く草原のダンジョン】は見ての通り草原になっているフィールド型ダンジョンで10階層まである。ここで主に出てくるのはウサギの魔物、鳥の魔物、牛の魔物、最下層のボスにゴブリンがいる。今回の訓練ではウサギの魔物【ホーンラビット】を倒してもらう。【ホーンラビット】は名前の通り角が生えたウサギだ、これまで訓練してきたお前たちならよほどの事が無ければ遅れはとらないだろう、だが決して油断はしないように!」


ふむふむ、昨日調べた通りの情報だな。そして今日倒すのはウサギ型の魔物の【ホーンラビット】か……ドキドキしてきたな。


「そして気づいた者もいるかもしれんが、この階層には私達しかいない。それは何故か、ここでは魔物の数が少ないからだ。魔物の数は階層を重ねるごとに多くなっていく。なのでここ1階ではほとんどいないというわけだ。ここで主に魔物を狩っている冒険者は普段もっと奥の階層にいるだろう。そしてもし他の冒険者を見かけても決して近づくな!ダンジョンでは何が起きるかわからん。問題が起きる可能性のある行動は慎め」


深くなるほど魔物の数が多くなる……か、何でだろう?何か理由がありそうだな。戻ったら調べてみるか。

そして冒険者には近づくな、か。もとより近づくつもりはないけどやっぱりダンジョン内って危険なのかな。


「それでは各班に分かれろ!その後は各自の騎士に従うように!」


オスカーおじさんの掛け声に合わせてみんながそれぞれ分かれていく。僕の班は前田君と寺田さんと須加さんと僕だ、護衛の騎士はオスカーおじさんとさっきの軟派な性格のリークさん。


「よぉ!楽しみだな!」


「えぇ、怖いよぉ」


「怖くてもやるしかないじゃない!」


前田君はやる気満々みたいだ、それに比べて寺田さんは怖がってる、そして須加さんは達観しているのかふりきっているのかやる気はあるようだ。


僕?僕はよくわからない、まぁ行けそうだけどやっぱりちょっと怖い気持ちもあるかもしれない。何ていうか感情がちょっとぐちゃぐちゃで落ち着かない。


「それでは、いくぞ。事前に決めておいた陣形を取る様に」


各班がそれぞれ散らばっていくのを眺めていると自分達の番が来たのかオスカーおじさんがそういって歩き出した。

先頭はオスカーおじさん、前田君、僕、寺田さん、須加さん、リークさんの順番だ。


「む、いたな。あそこを見てみろ」


数分しか歩いていないがオスカーおじさんが早速見つけたようだ。指さされた方を見ると額に角が生えたウサギが鼻をひくひくさせて草を食べているが見える。ちょっと普通にかわいい。もっと凶悪な感じを想像していた。


「よっしゃあ!俺が一番のりー!」


「あっ」


さてどうしようか、と思った瞬間。前田君は両手斧を構えて飛び出していってしまった。そのスピードはかなり速い、突然の事にオスカーおじさんも班のみんなもリークさんもあっけにとられて動けなかった。


そうしている間にも前田君は【ホーンラビット】に近づきそのまま両手斧を振り下ろした。すると地面に重いものを落とす音と何かが死ぬ音が聞こえた。


「おりゃああああ!っしゃー!どんな………おえぇぇぇぇっ」


前田君は【ホーンラビット】を倒して、そのまま吐いた。







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