第2話 説明回

2.説明回









神父さんの後をついていき、たどり着いたのは大きな食堂の様な場所だった。いくつもの長机が並んでいて壁際には何人ものメイドさんが立って待機している。

長椅子の上には神父さんが言っていた先に来ていたであろうクラスメイトが集まって騒がしく雑談をしている。どうやらそれぞれの仲良しグループでまとまって話しをしているようだ。



「八雲くん!よかった、無事だったんですね」


「あ、コマちゃ……古森先生。はい、何とか無事に?着きました」


食堂に入ってすぐ、コマちゃん先生がこちらに気づき近寄ってきた。思わずあだ名で呼びそうになったが睨まれたので途中で何とか修正できた。


「八雲くんだけ中々来ないから心配していたんですよ?」


「それは…何ていうかご心配かけてすみませんでした」


「いえ、いいんです。こうやって無事に姿を見せてくれたんですから」


そういってほほ笑むコマちゃん先生は少し大人びた様子で不覚にもドキッとしてしまった。

生徒に人気あるのもうなずける。


「それで、今はみんなで雑談タイムですか?ここでも説明があるって……あれ?神父さんがいない」


振り返ってみるがいつのまにか神父さんはいなくなっていた。もしや彼は隠密の者………?


「私達も説明があるって聞いて待っているんですが、誰も来ないんですよ」


「はぁ、どうしたんでしょうねぇ」


まだこないのかぁ、何か手間取っているのかな?



そして、勘のいい人ならそろそろ気づいているかもしれないが。食堂に入ってから僕に話しかけてくれたのはコマちゃん先生だけだ。そう、僕はぼっちなのだ。

中学2年生にもなってぼっち?って思うかもしれないが僕は中学受験を受けたので地元の中学ではなく遠くの引っ越しが必要なレベルの遠い学校に通っているのだ。


なぜそんな遠い学校に通っているのかはそのうち分かるだろう、説明する機会があればだが。少なくとも進んで話したくはない。友達がいない理由もだ。



「所で八雲くん。抱いているその猫ちゃんは従魔ですか?可愛いですね!」


「うん、そうですけど。よく従魔ってわかりましたね?」


「他にも従魔を呼び出した人がいますからね。ほら、あそこ!永井さんがフェンリル?っていうわんちゃんを呼び出したんですよ?」


そう言ってコマちゃん先生が指さす方には子犬を抱いた女子生徒がいた。彼女が永井さんだ。永井さんは犬派なんだな、物凄くうれしそうな顔で同じグループの女子達と子犬を撫でている。


「あれは、柴犬ですよね?」


「柴犬だけどフェンリルらしいの。ポチって名前を付けたそうよ?八雲くんの猫ちゃんは何て名前なの?」


永井さんが抱いていたのは子犬だがどう見ても柴犬だ。日本人なら誰でもしっているであろうあの柴犬だ。何度でも言おう、柴犬だ。

和風犬である柴犬なのにフェンリル、そしてポチか……頑張れポチ。


「まだ名前はつけてないんですよ。何かいい名前あったりしますか?」


「う~ん、そうねぇあんこ何てどうかしら?それかルナなんてどうかな!?」


先生、この黒猫には額に月のマークなんて無いんですよ?



「ん?先生、誰か来たみたいですよ」


「あら?」


コマちゃん先生と雑談していると奥の入り口から何やら人が沢山やってきた。先頭を歩くのは何かやたらと高級そうな服をきた大人の男性だ。っていうかあれって王子じゃない?いかにもな恰好だし偉そうだし。後イケメンだし。


王子様と思われる人物は食堂に座っているみんなの前までくると、メイドさんがどこからか持ってきたこれまた豪華な椅子に座るとふんぞり返って足を組んだ。


「静かに!!これより諸君ら異世界人に気になっているであろう事を説明する!一度しか言わないから心して聞くように!」


座った、恐らく王子様と思われる人物の横に立ったごつい鎧を着た大柄な兵士が声を張り上げて話す。それまでは雑談でざわざわとしていた食堂だったが大きな声に驚いたのかシンと静かになった。

いつもは騒がしいみんながこれだけ一瞬で静かになるとは。彼が校長先生にでもなれば朝礼の時にスムーズに進むのにな。


「初めに勘違いしないように言っておこう!我らオディシア王国は、諸君ら異世界人を召喚したわけではない。この世界では300年周期で異世界人が勝手に召喚されてしまう。召喚される場所はこの世界のいづれかの国のどこか、王城にある魔法陣からとなっている」


召喚したわけでは無い、か。それが事実だとするともしかしたら国側はこの事を厄介の種だと思ってるかもしれないな。それに召喚される場所はランダムって……場所によってはヤバイ事になってたかもしれないな。まだ確かな事はわからないがこの国は比較的ましなのかもしれない。


「今回諸君らは我が国に召喚されたわけだが、世界協定に則りこれからの事を伝える。諸君らはこれより最長で2年間、最短で1年間。この国で基本となる知識を学んでもらう。さらに詳しい説明はこの者、フィリップ殿に聞くように。説明はこれで以上だ!」


兵士の人が言い終わると王子様は結局一言も発さず立ち上がり去っていった。ぞろぞろと人を引き連れて食堂を出ていくのを見送ると、白い髭の生えたおじいちゃんが取り残されていた。彼がフィリップさんかな?


ってかあの兵士が全部説明するわけじゃないのか??逆になんのために来たんだ?


「ほほっ、それでは説明するとしようかのぅ。何か聞きたい事はあるかの?」


フィリップさんは長いあごひげを撫でつけながらそう言った。




◇  ◇  ◇  ◇




食堂で嵐の様にやってきて嵐の様に去っていった王子様一行の後。フィリップさんに気になっていた事を聞いていった。主にはコマちゃん先生が代表して聞いていたが取り合えずは気になっていたことは聞けたと思う。


Q.さっきの人が最長で2年、最短で1年間この国で基本となる知識を学んでもらうと言ってたが。なぜ1年もの差があるのか?


A.1年間でおおよその基礎知識を教え、戦闘訓練を行えるが、不安ならそこからさらに1年間この国に滞在して訓練したり知識を増やせるように準備期間が設けられている。



Q.準備が終わるとどうなるの?


A.準備期間中に各国から使者がくるのでその者達と話し、気に入ればついていって出て行ってもらっても構わない。準備期間である2年が経ってもどこにもいかない場合はすまないとは思うが城からは出て行ってもらう。



Q.基礎知識や戦闘訓練は誰がやってくれるの?フィリップさん?


A.私が教える事もあるが、教師役が私の他に何人かいる。基本的にはそっちが教える事になるだろう。



Q.さっきの人は誰?


A.座っていたのはこの国の第1王子であるキリル様。横で説明していたのは近衛兵。



Q.どうして私達はこの世界に来たの?


A.さっきも話したが勝手に召喚されるので理由は分からない。ただ、記録を調べる限りでは300年周期で何かしら世界的に大きな問題が起きるからそれを解決するために異世界人が呼ばれているのではないか?との仮説はある。



Q.世界的に大きな問題って?


A.何が起きるかは分からない。前回は魔王が誕生して、これを異世界人が討伐した。



Q.やっぱり魔物とかっているの?


A.いる。そのためにみんなには戦闘訓練を受けてもらう。



Q.元の世界に戻る事はできないの?


A.少なくとも我が国に元の世界へと戻る方法は無い。もしかしたらこの世界のどこかに元の世界へ戻る方法があるかも?



まぁこんな感じで一つ質問して回答が返ってくるたびにざわざわとして中々話しが進まなかった。まぁそりゃ、みんな気になるよね。そのおかげで気づけば夜になり、もう遅いからとそれぞれ案内され個室に通された。これから1年か2年かこの部屋で過ごす事になるそうだ。


個室は6畳ほどあり、寝て起きるには十分な広さがある。ベッドと机、それに引き出しのついた腰ぐらいの高さの棚が置いてある。

入口を入って正面には窓があり外も見えるようになっている、そんなに悪い部屋でもなさそうだ。

ちなみに女子生徒達とはかなり離れた場所に案内された。ちゃんと危機管理はしっかりとしているらしい。


どうやら扱いはそんなに悪くないっぽい?


こういった異世界物でありがちなメイドさんのハニートラップや。知らずのうちに奴隷にされていたとかそういった事が無い事からある程度推察できる。


恐らく国側からすれば異世界人は厄介だと思いつつもそこそこの戦力になるんだろう。召喚されてすぐに自分が欲しい物を貰えるという、一度きりではあるが超絶なチートを貰えるチャンスがあったわけだし。しかもその願いをする場に他者の介入が無かったし。

願った物によっては一国を相手にできるほどの戦力になりそうなのにだ。


後は単純に300年周期と言う、前回召喚されていたとしてもその実態は記録でしか残っていないのだろう。どう扱えばいいか戸惑っている雰囲気も感じる。


「まぁ、僕には何故か君が来たんだけどね。すごい物が欲しくなかったと言えばウソになるけど、逆に君が来てくれてよかったのかもね?」


そう言って僕は腕に抱いていた黒猫を撫でる。ここに来るまでずっと抱いたままだったのだ。そろそろ降ろすか。


「にゃん」


腕から降りた黒猫は部屋の中が気になるのか、うろうろとし始めた。


「君の名前も考えないとね?何がいいかなぁ。コマちゃん先生的にはあんこかルナらしいけど……う~ん」


考えながらベッドへぼふっと寝転がる。


あんこやルナでもいいんだけど。こう、しっくりこないんだよね。う~ん。


「にゃにゃん」


「う~ん。ミケ?ポチ?タマ?山田とかどう?……ダメか」


横向きに肘をたてて寝転びながら黒猫に聞いてみるがどれも気に入らないのか興味なさげだった。


「そうだなぁ…………ミザリー何てどう?」


「にゃん」


「ミザリー?」


「にゃぁん」


「じゃぁミザリーに決定ね」


「にゃん」


名前が気に入ったのかミザリーはぐりぐりと頭をこすりつけてくる。顔の近くでみるミザリーは瞳の色が青くてすごく綺麗だ。思わず吸い込まれそうになる。


猫を覗く時、猫もまたあなたを覗いているのだ。


何てね。







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