カニ、スプレー、ゲームセンター





「え〜という事で、今月ノルマ達成できなければウチは閉店という事になります」


「え...マジっすかそりゃ...随分いきなりですね」


「いきなり上から言われちゃってさ、まあいっかこんな寂れたゲームセンター潰れても! 従業員も私と君しかいないし被害も最小限でしょ!」


「もっと惜しめ! 俺はバイトだから最悪どうにかなりますけど、あんた店長だろ!!」


「だってもうゲームセンターの時代ってだいぶ終わってない? 今や金かけてコインゲームするより無課金ゲームでガチャ回す方が主流でしょ」


「う...まあそれはそうですけど...」


「これからも人々の心はソシャゲの星五演出という名の電子アヘンに取られたままで、ゲームセンターを乗せたノーチラス号は二度と浮上する事はないんだよ!」


「...と、とにかく! ごちゃごちゃ言ってないで今月のノルマを達成する為に色々案を出しましょうよ! 俺もできる事はやりますから!」


「えぇ〜、まあそこまで言うなら...」


「じゃあまずはゲームを大きく分けて三つに分けるとしますよ? アーケード、メダル、UFOキャッチャーですよね、メダルは...特に出来ることは無いので置いておくとして、アーケードとUFOキャッチャーをどうにかしましょう」


「アーケードゲームか...はい!」


「はい、店長!」


「私格ゲー得意です」


「知らなかった!! でも今はそれ関係ないですよね!?」


「小足見てから昇龍余裕です」


「それ人力じゃ無理ですから! いや...でも待ってくださいよ...ウチにある格ゲーって鉄拳、ストファイ、ギルティギア...あと何でしたっけ」


「メルブラとDOAだね」


「店長それって全部プレイ出来ますか?」


「あ〜まあ一応、ウチには私が出来るやつしか置いてないから」


「分かりました、店長顔スゲー美人だから看板娘になりましょう、でウチに来たら店長と格ゲーで戦えますよって広告打つんです、そしたら多分集客効果ありますよ!」


「え...えぇ〜!! ヤダよ私そんな身体売るような事!!」


「あんたいつも勤務時間中に裏で酒飲んでんの知ってんだぞ!! それ位やらないとチクリますよ!!」


「ひ、酷い!!」


「あとはUFOキャッチャーか...店長いいアイデアありますか?」


「あ! 私昔っからこれやりたかったんだけどさ!」


「な、なんですか?」


「あのね、おじさんの頭部を再現したマネキンを作ってそれにウィッグを被せるじゃん、それをUFOキャッチャーで取るってやつ!」


「...」


「で、ウィッグが取れたらハゲ頭が見えるって仕組み! どう? これウケると思うんだけどな〜」


「却下で、何言ってるか分かんないです」


「何で何言ってるかわかんないの!?」


「やっぱりアームを調整して取りやすくする、とかが現実的ですかね、でもあんまり取りやすくし過ぎてもダメでしょうし...うーん」


「はい! 思い付きました!」


「ホントに思い付いたんですか?」


「はい! 商品をタラバガニにするのはどうでしょうか!!」


「...は?」


「さっきこれ落ちててさ〜一目惚れして拾ってきちゃったんだけど」


「うわっデカ!! これかに道楽の看板の上に付いてるバカでかいタラバガニの模型じゃないですか!! てか今どっから取り出した!?」


「そうそう! これ見つけて思い付いんだよね! フィギュアとかお菓子だけじゃなくてさ、もういっその事中に水槽ぶち込んでカニを商品にするんだよ!」


「えぇ...それ大丈夫ですかね、動物愛護団体とかから何か言われそうじゃないですか?」


「金魚すくいとかあるし大丈夫大丈夫!! じゃあ決定!!」


「まあ他に案も無いですし...それでいきますか、仕入れ先とかはひとまず置いておきましょう」


「後はそうだな〜、ウチ近くに女子校あるじゃん、チカン撃退グッズとか景品にするのどう?」


「ああ〜催涙スプレーとかですか? まあ一応通学路ですから何人かでウチに寄ってくれる可能性は上がりそうですね」


「うんうん、いい感じに決まってきたね〜、ゲームセンターを作ろうって感じだ!」


「ここまで考えたのはいいですけど、上手くいきますかね...」


「まあ失敗してもちょっと路頭に迷うだけだから大丈夫大丈夫!! 気張ってこーぜ!」


「はぁ、よくそんな楽観視できますね、俺はもう気が気じゃないですよ」


「...嬉しいな〜、君がそこまで私の事考えてくれて」


「は!? な、何の話ですか!?」


「だって自分でも言ってたけど、君バイト何だから店が潰れても辞めればいい話じゃん? ウチ別に給料高くないから他の子皆辞めちゃったけど」


「そ、それはそうですけど、ただ嫌なだけですよ自分のバイト先が潰れるのは!! 別に店長の為って訳じゃないですから!」


「はっはっは、愛いやつめ〜」


「か、髪わしゃわしゃしないで下さいよ!?」


「よ〜し店長頑張っちゃうぞ〜、格ゲーだけは任せなさい!」


「まぁ、お互い頑張って今月乗り切りましょう」


「おー!」







◇◇◇






その後、UFOキャッチャーの景品のレパートリーの多さから徐々に客足が目立ち始め、異常に格ゲーが上手い美人店長がいるゲーセンとして界隈で名を馳せることになった事で無事ノルマを達成した。


後に店内で開催された最強格ゲーマー決定戦で優勝した店長は「鳳翼扇全弾ブロッキング出来るやつだけがかかってこい!」と言い放ったという。


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