第4話聖女マリアリーゼと夜空のガトーショコラ

 聖女 マリアリーゼ彼女の見える世界はすべてがモノクロに映っていた。 

 

 いつから色がないのか、もしかしたら生まれた時から世界の色は白と黒しかなかったのかもしれない。 

 

 マリアリーゼは孤児で幼いころは教会ではなくスラムに住んでいた。 

 

 スラムにいる時、神の声を聴き、それを神託で知った司祭が聖女探しを開始、見事マリアリーゼは教会に拾われ貧しい生活から一変、食べ物に困らない裕福な生活へと変化した。 

 

 それでもマリアリーゼの世界はモノクロのまま、柔らかなベットに感謝しても、美味しい料理に感謝しても、温かな建物に感謝しても、彼女の世界の色は変わらなかった。 

 

 唯一変わるのは、神様に祈りを捧げ、何気ない話で神様と交信しているときだけは、マリアリーゼの世界は光り輝いてそれは美しく、そんな世界がマリアリーゼの心を唯一癒した。 

 

 そんなマリアリーゼが王都を散策していると、一軒の店を見つける。 

 

 その店だけ、色がついてる、温かな木やレンガの色。 

 

 御供もつれずに一人、街にあるひっそりとした店に入ると、そこは飲み物やケーキを楽しむ店だった。 

 

 驚いたのはその店の中、人にいたるまですべてが色に溢れていて、自分が体験した事のない色彩に溢れた店内に目を奪われる。 

 

 「キ・・・レイ・・・・」 

 

 思わず呟く、普通の人たちはこんな沢山の色に包まれて生活をしているんだと知ると、羨ましくて仕方なくなる。 

 

 「いらっしゃいませ、お好きな席にどうぞ」 

 

 黒い髪の男性、後ろの髪の毛を束ねて、切れ長の目がどこか魔物の様にギラギラとしているのに、奥を覗くとどこか優しい光が見える目の男性、片目を髪で無理やり隠しているのか?店員の黒い制服がとても似合っていて、鋭い剣の様な所作をする男の人、それがあまりにも彼に似合っていすぎたのか、いつもなら怖いと思う男性なのに、この人は全然怖くない。 

 

 好きな席に座ると、お冷といって水をもってきてくれた。 

 

 高価な氷の入った水、それもとても綺麗で澄んでいて飲める水、これだけでも高いのではないかと思ってしまうのだが、お金ならあると思い受け入れると。 

 

 「サービスですので、お代はかかりません。安心してください」 

 

 そういうとにこっと笑う彼のギャップに思わず顔が赤くなる、お店を入った時は獰猛で強大な魔物の様な視線や圧力を感じたのに、私を客として受け入れ接客してくれる彼の笑顔は、まるでさっきとは真逆でとても慈愛に満ちた笑顔で接してくれる。 

 

 とてもとても暖かい、まるで父がいたらこんな感じなのかもしれないという大きさを感じながらも、彼に異性の男性なのだと言う懐の大きさの様なものを感じる。 

 

 神託をくださる神様と話しているかのような温かさ、慈愛・・・・それを感じる。 

 

 「あの、どれがお勧めですか?」 

 

 「お嬢さんにコーヒーも悪くはないと思いますが、カフェオレやココア、ホットチョコレートなんかもいいかもしれないですね」 

 

 「では、カフェオレをください」 

 

 「かしこまりました」 

 

 そういうと男の人はカウンターに向かっていく。 

 

 周りの色に魅入って、あたりを見渡すと、飲み物と本を優雅に楽しんでる男性客や、見た事ない飲み物を飲んでいる女性の冒険者さん?恰好で判断しているけど、そんな方や軽食を楽しんでいる騎士の方に、このお店の子かな?エプロンをつけている女の子と話している獣人の女の子や、そんな会話に時折まざる魔法使いや普通の男性など常連客とみられるような人達の談笑が聞こえてくる。 

 

 それがとてもとても楽しそうに見えた。 

 

 教会ではそんな事はなかった、誰と誰が話していても気にならなかった。 

 

 そんな会話を眺めていたら、女の子が商品をもってこちらにきた。 

 

 「お待たせしました~。カフェオレです!それと当店自慢の夜空のガトーショコラ」 

 

 とても綺麗なダークブルーのキラキラ光る星空の様なケーキを出されて一瞬戸惑う、どうしよう注文してない。 

 

 断ればいいのかな?これは押し売りで代金をとろうとしているのかな? 

 

 そう考えていると、一番最初に接客してくれた男性が少女の後ろに立っていて。 

 

 「そのケーキは当店からのサービスです。お嬢さんはうちの店初めてですよね?どうかケーキの味もみてやってください」 

 

 「い・いいんですか?凄く綺麗で、凄く高そうなのに?」 


 私が聖女のマリアリーゼとバレたからのゴマすりなのかと考える。 

 

 教会に近づきたい人や権力を求める人は、私が来店したとわかると過剰にサービスをしたりする。 

 

 そこには私の事なんて考えてのものは何一つなかった。 

 

 ただ教会と懇意になって、自分の力や威光を増やしたいという野心あってのサービス、そう思うと簡単には受け取れない。 

 

 「食べないの?うちの夜空のガトーショコラ!とっても美味しいんだから!お姫様が食べに来るくらい!」 

 

 「うにゃにゃ!ミーニャも夜空のケーキ食べたいにゃ!みみだけ食べるのはずるいにゃ!」 

 

 「こ~ら、二人ともこれはお客さんのケーキ、二人の分は別にあるからそんなにがっつかないの、ああっ特に他意はないんですが。甘い物が苦手ならお下げします」 

 

 そんな店員さんのやりとりを見ると、ああっ本当に他意はないんだとわかる雰囲気だった。 

 

 「いえ、ありがとうございます。ぜひいただきます」 

 

 完全な男の店員さんの善意によるものだった。 

 

 「よかったら、お二人も一緒にたべませんか?一人はなんだか寂しくて」 

 

 「うにゃ!同席していいのかにゃ!?ミーニャは獣人冒険者見習いのミーニャだにゃ!ミニャと呼ぶ人もミーと呼ぶ人もいるのにゃ!」 

 

 「ミニャ!席座るの早い!あの・・・・本当にいいんですか?うるさくないです?」 

 

 「うるさいなんて、楽しそうで、羨ましく思っていたの。私の名はマリアリーゼ」 

 

 「わぁ綺麗な名前!私は猫柳みみ!中学一年なんだ!」 

 

 「はいはい、お嬢様方、お飲み物とケーキをお持ちしましたよ」 

 

 男性の店員さんが、ミニャとみみの飲み物と私と同じ夜空のガトーショコラを並べてくれる、テーブルに並ぶと範囲が広く本当に夜空の様に見えるくらい綺麗だ。 

 

 「あの!あっ貴方の名前も教えてくれると嬉しいです」 

 

 最初の勢いはよかったのに、段々と小声になっていくマリアリーゼ。 

 

 「僕の名前は八瀬憧治、この喫茶店招き猫の店主、マスターをしてます。気に入っていただければ、貴方のお馴染みの店にしていただけるとありがたいです」 

 

 「やせ・・・・どうじさん・・・・」 

 

 「みみ!駄目だニャ!また憧治目当てのお客様が増えるにゃ!」 

 

 「もう!お兄ちゃん!顔だけはいいんだから!愛想振りむかないでよ!もうあっちにいって!」 

 

 「はいはい、ではごゆっくりどうぞ」 

 

 そういうと憧治さんはカウンターに戻っていった。 

 

 どこかぼーっとしながらも、夜空のケーキを一口食べると。 

 

 強い雷に打たれた様な衝撃を受ける。 

 

 なにこれ!甘い!でもまろやかで!苦味もある、それなのに舌べたつかずさーっと流れる様に舌の上から流れ消えていく、まるで流星の様な味わい! 

 

 色んなお菓子を食べた!高級なお菓子、伝統的なお菓子、貴族の新作お菓子、庶民に人気のお菓子、それこそ王族御用達の料理人のお菓子だって食べた事あるのに!?そのどの流儀にも当てはまらない新しい味の概念!まさに独創性ばっちりで見た目も美しく、お茶や一時の休憩を味わう為のケーキ!? 

 

 「美味しいでしょ!自慢のケーキなんだ!」 

 

 「うみゃいのら!憧治のケーキも料理もどれも本当にうまいにょら!」 

 

 「本当に、美味しい」 

 

 「でしょ!よかった~」 

 

 その後、みみとミーニャと沢山話した、ここが異世界喫茶店なんて言われている事も、みみと憧治さんが異世界の人間なのも知った。 

 

 楽しい時間はあっという間に流れ、挨拶して店を出る。 

 

 招き猫での一時を経験した私の目には、王都はいつものモノクロではなく、色がついて見える様になった。 

 

 あの店が、どこか死んでいた私の心を生き返らせたのだ。 

 

 世界はこんなにも色で溢れていると言う事に。 

 

 私は聖女として最小限の事しかしていなかった事に気が付く、そしてこれから私が進む道の過酷さもわかっている、それでも私はもう道を迷わないで進む。 

 

 世界を彩る為に。

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逢魔ヶ村の複合施設 現代では喫茶店で異世界を駆け巡り、異世界現代観光もする! 夜刀神一輝 @kouryuu00

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