私は何をしたらいい?

春ノ宮 はる

第1話 おねだり上手

「愛華、お金貸してください!」

「なんでまた! こないだも貸したよね?」

 心配、としか言いようがない。

 第一話の一言目がそれで、この子は大丈夫なんだろうか。

「えっとですね、今週近所のパチンコ店で新台入替があったじゃないですか」

「いや、知るわけないけど」

「今回の新台、どれも傑作ぞろいで、みるみるお金が吸われてしまいまして」

 態度だけは極めて申し訳なさそうにしている。態度だけは。

「あーのーねー! あんたもう二十歳でしょ? どんな風にお金使おうが勝手だけど、せめて自分で稼いでからにして! ちなみに一般的な感性だとそんなぼったくりを傑作とは呼ばないわ」

「ちゃんと仕事探しもしてるんですよ? でもあの新台できなかったらなんにもやる気にならないんですー。これで最後だから、ね?」

 大きくてつぶらな瞳をうるうるさせて、しかも上目遣いでねだってくる。あざとい。あざといけどかわいい。

 でも、惑わされてはいけない。

 今まで何度も、澄音はこの手口で最後の借金を繰り返してきたのだ。心の中では微塵も反省なんてしてないのだ。

「今日こそダメです!」

「お願い、何でもしますから!」

 澄音は根っからのクズ少女だ。これまで幾度も痛感してきた。

 なのに、どうしてだろう。

「……もう、ほんとにこれが最後だからね」

 本当は反省してないことなんて分かってるのに、どうしてか許してしまう。次こそは断ろうと思っているのに、いざ跳ね除けようとすると心がずきずき痛むのだ。

「やった! ありがと! 愛華大好き!!」

「そ、そのかわり、あんたには料理とか手伝ってもらうわ。ていうか、これまで私が全部やって上げてたのがおかしいんだけど」

「わかりました! それだけで働かずに済むならお安いごようです!」

「いや、働けよ。仕事は別途探してもらいます」

 ぐすんぐすんと、澄音はわざとらしく泣き真似をしている。

 私と澄音は同い年だ。

 ひょんなことで彼女は私の部屋に居座り始め、いつの間にか住み着いていた。家事も出費も全部私ひとりで担っていて、その上しょっちゅうお金を貸している。なんでこんな歪な関係になったのかは、私にもよくわかっていない。

 こんなの早くやめるべきなのは、百も千も承知だ。それでも私はそんな澄音を見捨てられない。

 それは、私が目を離したらすぐにでも野垂れ死んでしまいそうだから。

 それは、時折花開くかわいい笑顔が私をつかんで離さないから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私は何をしたらいい? 春ノ宮 はる @harunomiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ