第5話 世界よ刮目せよ帝国海軍は最強なり

 ロンドン海軍軍縮条約が締結されて各国は軍縮に努めた。しかし、この会議では大日本帝国海軍の脅威的な艦艇が続々と露わになり参加国は度肝を抜かれる。大型戦艦は既にワシントン海軍軍縮条約でストップし、補助艦が多くても一定の制約があるため大して恐れることはなかった。しかし、伝統的に海洋国家であり海軍力に物を言わせた日本海軍は重武装艦を就役させている。特に日本をライバル視したアメリカは直ちに追加の制約をかけたがる。


 そんな会議が終了した日本では相変わらず航空戦力の拡充を進めた。航空機メーカーは英仏の技術者と共に空母艦載機の開発に取り組む。ただし、物ばかりが揃っても意味を為さなかった。それを操る人間がいなければ兵器は動かないため、末端の兵士から上層まで幅広く育成される。上層の中にはあまりにも手際が良すぎる政府の対応と軍拡に訝しげな者がいるが別に悪い事ではないためホクホク顔は崩さなかった。


 その1人は角田覚治氏である。航空戦隊の結成にあたり第一陣として大砲屋から航空屋に転身すると異例の出世を遂げた。史実では大佐にもなっていないが現在は少将と大出世する。もっとも、本人がとても丁寧な人物でありながら演習では闘志あふれる戦いを高く評価されたからだ。彼と日常的に関わる部下達からの信頼も厚いため日夜自主的な勉強会を開いて激論を繰り広げる。


「やはり戦艦は燃費が悪くて扱い辛さを否めません。特防駆逐艦を大量に配置して対空陣を何重にも敷くのが最善です」


「同意します。空母に追従できる戦艦は金剛型と長門型のみです。もちろん、大改装中の4隻の代替となった大型巡洋艦が待たれますが」


「うん。私もそう思った。幸い米海軍は我々の古鷹型重巡と特一型駆逐艦ばかりに気を取られて特防駆逐艦と潜水艦には全く気付いていなかったらしい。空母改造も一切悟られなかったとね」


「まぁ、艦隊型駆逐艦として最強の特一型はそうでしょう」


 専ら問題になったのが条約型でも凄まじい重武装の日本海軍の特一型駆逐艦こと吹雪型駆逐艦である。条約を守っているが他国に比べ砲門数も雷装数も多くあり且つ高速という怪物駆逐艦と称せた。その強さは戦闘無くして理解できてしまう。とある出席者は「彼女1隻だけで10隻の戦力だ」と述べ日本の海軍力を恐れた。したがって、補助艦の保有数についても注文が入る。渦中の日本は条約を遵守しているのに何事かとふんぞり返った。確かに違反は全く見られない。別にいちゃもんを付けられる筋合いは無かった。まさにその通りである。よって、補助艦全体の保有数は英米に対して8.5割とかなりの譲歩を引きずり出した。制約についても若干緩んで実質的に無効化している。なお、特一型駆逐艦の次である特二型や特三型が計画されて既に先行型が建造に入っていた。駆逐艦は小型で重武装でも比較的早期に建造できる。国土開発で新設された全国各地の民間造船所で色々な欺瞞を纏った上で作られた。戦艦を建造する資材があれば(大きさに依存するが)5隻近くの駆逐艦が生まれる。強力な武装を提げた高速駆逐艦を以て水雷戦を行いジャイアンツキリングを決めた。日本海軍の水雷戦隊は世界最強と言って差し支えなく、史実でもルンガ沖夜戦に代表される優れた指揮官の下では恐ろしき大戦果を挙げる。


 しかし、戦艦はもっと厳しい制限が入った。イギリスが5隻、アメリカが3隻、日本が4隻の廃棄を決定される。日本は前時代的な扶桑型2隻と伊勢型2隻を廃棄に追い込まれたが、とっくに空母主力に転じているためあっさり受け入れた。ただ、ここでも簡単に捨てては勿体ないため標的艦や訓練艦で存続が認められる。


「それにしても扶桑型と伊勢型までも空母にしてしまうとは驚きました。完成済みの戦艦を基にすれば資材の節約になります。それでも、こう徹底しているとは思わず」


「資材を使わないことに越したことは無いだろう。それに空母の制約は未だに薄くあるからこそ、我が帝国海軍は世界を出し抜けた」


 驚くべきことに旧型戦艦の扶桑型と伊勢型は廃棄と思いきや空母改造が施された。造船所が空いていないため待機中だが時間はたっぷりあり運命の海戦に間に合うと一握りの人間は確信している。ただし、改造に際して問題となった低速を解決するため機関を最新型に取り換える大工事となった。


 扶桑型と伊勢型は25ノットと低速艦である。前者は違法建築と揶揄される艦上構造物を有したが、せっかくの36cm砲12門を全力射撃できない不安定さや防御力の低さが指摘された。大艦巨砲主義が長かった海軍でも使いづらい戦艦として空母改造は逆に大歓迎される。伊勢型は扶桑型を改善した戦艦だが焼け石に水で低速は変わらなかった。空母改造はとんとん拍子で進んでいく。しかし、戦艦が4隻消えるため代替処置として中国に建設した造船所で中国籍に偽装した大型巡洋艦の建造を始めた。中国は条約に批准しておらず日本の保護下にあるため諸外国は手を出せない。空母護衛に適した高速で程よい火力があり防空戦闘を行う艦隊防衛艦が産声を上げる予定だった。


「イギリスから自走して来る戦艦たちはまだか?」


「流石に目立つので形だけの非武装化してからなのでしょう。アメリカに近いので監視の目があるので」


「まぁ、表向きは日本の民間企業がスクラップで購入して本土で解体するから無視されますよ」


「そうか。気の毒な旧型艦は我が海軍の標的艦として最期を務めあげてもらうか」


 土佐の空母改造によって標的艦がなくなった。戦艦級の標的艦は貴重であり既存の旧型艦は練習艦などで埋まっている。新しく建造するわけにもいかなかった。一計を案じた海軍は同条約で廃棄処分のイギリス旧型戦艦を民間企業にスクラップとして買い取らせる。そして本土に自走して来た際に接収して標的艦に変更し貢献してもらった。外交のくだらぬ思惑で解体されるよりも後身のために標的艦となった方が本人たちも幸せだろう。具体的には戦艦『ベンボウ』『マールバラ』『アイアン・デューク』『エンペラー・オブ・インディア』『タイガー』の5隻だった。旧型の戦艦でも5隻もいれば標的艦としては十分である。


「我々の問題は艦載機です。今のところ中島・川西と三菱がしのぎを削っているようですが」


「そうらしい。既に国産機が生まれているが即座に新型の発注を入れている。イギリスは引き込み式で単葉機と言う最先端の野心を滾らせていた。我々が負けるわけにはいかんが、専門のメーカーに任せるしかない」


 海軍も陸軍でも航空戦力拡充に伴い各メーカーに新型機を多数競合試作させた。まだ複葉機が多い中だが大手である中島・川西と三菱は英仏技術者を迎えて単葉機の開発を計画し、前者が陸軍の九一式戦闘機として単葉機の実用化に成功している。中国内戦で大量の試作機が義勇軍の大義名分を掲げて飛んだため貴重なデータが多く得られた。しかし、満足しなかった陸軍は直ちに新型の単葉機開発を中島・川西に命じる。対して、海軍は空母に搭載する都合で堅実な複葉機を一旦挟んで単葉機を計画した。陸軍よりも遅れるが史実よりかは早く計画されて、尚且つ英仏の最新技術を得て加速している。現時点では鳳翔と龍驤で離着艦に成功した九〇式艦上戦闘機がいたが空母の試験を担う意味合いが強かった。したがって、本格的な単葉の艦上戦闘機は七試又は九試艦上戦闘機として両メーカーが鋭意開発する。彼らは早くて35年には単葉の艦戦が生まれると信じた。そして、影の政府は1939年には引き込み足を備えて高速の戦闘機を揃えて各国と肩を並べる航空戦力を整えようと尽力する。日本の技術者の底力を信じるしか出来なかった。史実で発生した大恐慌に継ぐ大恐慌の影響を最小限に抑えて軟着陸させることに成功したため開発の余裕はある。


「そう言えば、同期の奴が言っていたんですが。我々の潜水艦にもいちゃもんの制限がかかったとか」


「私もそう聞いているが潜水艦は海中に潜む。本土や台湾にある沿岸をくり抜いて作った秘密工廠で新型の建造が進んでいるはずだ。生憎、私は水雷屋ではないから詳しくは知らない。いちゃもんが入っても作ってないの一点張りだな」


「独軍のUボートを頂戴出来たのが大きかったと思います。無制限潜水艦作戦で猛威を振るった兵器を大いに参考にさせていただこうと」


 水雷決戦に乗じて潜水艦も大量建造が進む。大雑把に分けて大型のイ号、中型のロ号、小型のハ号、その他と4種類に分けられた。日本の潜水艦建造は嘗てこそライセンス生産が多かったが完全国産の建造に移行し、第一次大戦の艦隊派遣で非合法的に奪取した独軍Uボートを研究している。そしてイ号・ロ号・ハ号・その他に分けて進めた。


 イ号は更に2種に分けられて艦隊漸減型の海大と通商破壊型の巡潜になる。前者は敵艦隊の漸減を担う型であり同型複数隻で一小隊を組み、友軍の情報提供を基に行動して敵艦隊を強襲することが考えられた。したがって、高速で重武装が意識されており航続距離は比較的に短い。後者は通商破壊任務を担う型で基本的に単騎で動き、敵地の懐まで潜り込んで輸送船団や貨物船を雷撃し海運を叩いた。もちろん、チャンスがあれば敵艦隊への雷撃も行うが例外である。こちらは航続距離が意識されて武装や速力は劣った。


 ロ号は中型潜水艦と言える。大型のイ号よりも低コスト且つ短期間で建造できることを狙った。大量建造を予定するため武装は若干下回るが航続距離は巡潜並みを確保している。群狼戦術を真似た独自の潜水艦隊による飽和雷撃戦術を以て各地の敵艦隊を撃破したり敵輸送船団を撃破したりと汎用性が与えられた。


 ハ号は隠密が求められる任務に特化した小型潜水艦である。小型のため武装は上二つに比べ貧弱だが航続距離は長く軽快な機動性を有した。小型で探知され辛い点を活かし敵地に潜入して攻撃ではなく偵察に従事する。ジッと身を潜めて敵の動きを監視しては敵艦隊に追従し続ける補佐が仕事だった。最低限の自衛力として雷装はあるが積極的に使うことは無い。


 その他だが複数あるため簡潔に数個を挙げさせてもらう。まずは潜補と呼ばれる海中タンカーだ。魚雷を持たず艦内には専ら燃料を積み込み各地に展開する友軍潜水艦へ補給活動を行う。母港に戻らなくても海上補給を受けることによって長期間の作戦を支援した。続いて潜輸である。これは海中輸送船とされて特殊機材や潜入部隊を隠密で敵地まで運んだ。主に特殊作戦の際に使用されることが考えられる。最後に潜特が存在したがペーパープランの段階のため一点に定まり切っておらず多種多様な案があるため詳細は明かせなかった。ただし、有力とされた案を述べるとするならば水雷戦隊とは全く違う海中砲撃艦隊が見えてくる。


 さて、以上の通りでご理解いただけると思う。建前として帝国海軍は軍縮条約を守りながら本音は強大な航空戦力と水雷戦力(潜水艦含め)を揃えた。旧態依然として大艦巨砲主義から航空及び水雷決戦主義となった彼らは世界を驚かせるだろう。


続く

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