第7話……砦の攻略とブドウ畑。

「エンチャント・ストレングス!」


 筋力が一時的に増幅する魔法だ。

 街で魔法書を買いあさり、ここ、領都の郊外の深夜の麦畑で、私はマリーと魔法の特訓をしていた。



「ファイアボール!」


 お次は火炎魔法。

 私の口の前に魔法陣が現れ、大きな火球が前方へ飛んでいった。


 ……何故だか、魔法の発動場所が口なのだ。

 手とかの方がカッコイイのだが……。



「ファイアボール!」


 マリーも魔法の練習。

 だが上手く魔法が出ない。



「ファイアボール!」


――ボン


 魔法が誤爆し、マリーの顔が煤にまみれた。

 ……なんだか微笑ましかった。



「ぽこ~♪」


 ……私達は毎晩魔法を練習し、私は人間の姿でもある程度の力が使えるようになっていった。




☆★☆★☆


「……敵領の砦を落とす案件が来たぞ!」


 我が傭兵団の団長であるライアンさんが、アジトで皆に説明する。

 今回の任務は傭兵らしく軍事目標だった。


 領主さまの軍隊が落とすのが困難な情勢の敵砦に対する攻略任務だった。

 明らかに危険な仕事である。



「……でだ、この目標に対して先陣を切りたい奴はいるか?」


 ちなみにライアン傭兵団の先陣はオークション方式。

 各小隊長が先陣ボーナスを巡って争う。


 危険な任務である先陣を、最も安い額で落としたチームが担うのだ。



「今回は金貨1000枚からだ! スタート!」


「800枚!」

「……750枚」

「……720枚」


 流石に被害を考えると、あまり安く請け負えない。

 小隊長たるリーダーが請け負いたくとも、部下の命が危険にさらされる案件だからだ……。



「この先陣もらった! 500枚!」


「「「!?」」」

「一体、どこのチームだ!?」


 めちゃめちゃ安い提示額だった。

 どこの小隊長かと思ったら……、



「アーデルハイトであります!」


 ……自分のチームだった。

 てか、先陣かよ!?


 ……って、待ってくれ。

 ウチのチームはリーダーを除くと、私とマリーとポココだけだった。



「大丈夫か? アーデルハイト!?」


 流石にライアンさんに心配される。



「大丈夫であります! 団長!」


 アーデルハイトさんはにっこりと笑う。

 いや、明らかに大丈夫じゃないし、過負担な気がするなぁ……、もう。



「金貨500枚だ! 頑張ろう!」


「はい!」


 小隊長の要請に対し、目が【$マーク】になっているマリーが、即座に返答したのだった。




☆★☆★☆


(――任務当日の晩)


 敵砦に対し、我が傭兵団は草むらに隠れながら、近づいていた。


――ビシッ

――ビシッ


 櫓で見張る敵兵を、弓矢でやっつけるのは私の役目。

 ちなみにアーデルハイトさんは、近接専門のファイターだった。



「隊長、敵の見張り片付きました!」


「おう、よくやった!」


 褒められたと思ったとたん……、



「掛かれぇ!」


 アーデルハイトさんが単騎突っ込む。

 ……えー、聞いてないよ。


 仕方なく、後から走って付いて行く。

 しかし、空濠を越えたところで、柵に行く手を阻まれる。



「ガウ! 柵を引き倒せ!」

「はい!」


 私は自慢の怪力で、砦の柵を次々に引き倒した。

 その横で、アーデルハイトさんが次々に敵兵をなぎ倒す。



「うおおお!」


 私も新調した戦斧を振り回し、寄って来る敵兵を薙ぎ払った。

 斧が敵の鎧に当たり、鈍い音を立てる。



「ファイアボール!」


 マリーも覚えたての魔法で頑張る。

 この攻撃は運よく完全な奇襲の形となり、砦の一角の占領に成功する。



「ガウ! 信号を送れ!」

「はい!」


 砦の一角を破ったと、ライアンさんが率いる傭兵団本隊へ、松明で信号を送った。



「掛かれ!」

「「「おう!」」」


 ライアン団長の指示の下、屈強な傭兵たちが砦に取りつく。

 それを見た領主さまの軍隊も攻撃に加わり、砦は明け方までには陥落した。



「勝鬨!」

「「「おー!」」」


 戦功は全て領主さまの騎士団の手柄。

 我々は闇へと帰る。

 大量の金貨という報酬を受け取って……。


 ……なにはともあれ、大戦果だった。

 ライアン傭兵団はホクホク顔でアジトへ凱旋した。




☆★☆★☆


(――数日後)


「おいガウ、お金はなにに使ったんだ?」

「お前はあんまり酒も飲まないし、遊ばないよな?」


 私は同僚の傭兵仲間に聞かれる。



「……ええ、ブドウ畑の権利と銅を売る権利を買いました」


「なんだ? そんなせせこましいことしてんのか? 若いのにせこい奴だ!」


 私はマリーの分の報酬を合わせて、今後の生活の為にブドウ畑を少し買ったのだ。

 畑の面倒を見てくれる労働者を募って、経営していく予定だ。


 銅は町の近くの岩山で、小さな銅鉱を見つけたのだ。

 勝手に掘ってもいいのだが、売るには許可が要ったので、小売りの権利を得たのだ。


 ……お金は大切に使わないとね。




☆★☆★☆


――それから一年。


 私は大小さまざまな任務をこなし、お金を得た。

 手に入れたブドウ畑も大きくなり、収穫が楽しみだった。



「ガォォオオオオ!」


 そして、たまに人知れず、暗い山中で狩りをする。

 イノシシやシカを狩るのだ。


 私の今の巨人での姿は、天井を突き破らんがばかりにも達しようとしていた。

 強弓を易々と引き、矢を次々に得物へと突き刺した。



「おかえり!」

「ぽこ~♪」


 マリーとポココが待つ家に帰る。

 今日は焼肉の予定だった……。

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