4.
「行ってみるか」
秋山は、龍治と駐車場に居た。
「けど、まだ午後六時過ぎやで」
龍治が渋った。
「マンションや」
秋山は、云った。
梶浦と奥田さんの、新居になる筈だったマンションだ。
奥田仁美さんが殺害されて、両親は悲嘆に暮れていた。
奥田さんの両親は、近所の人から、好奇の眼で見られていた。
しかし、地元を離れたくはなかった。
迷った末、地元で暮らす事にした。
梶浦の両親は、病院を退院した。
来週、大阪の長男の家へ引越す予定だ。
「何でや?」
龍治が、マンションへ行くと聞いて、訝っている。
「見てみたいんや」
秋山は、理由を云わなかった。
龍治の運転で、マンションまで行った。
マンションから、ガソリンスタンドの脇を通って、幹線道路の交差点へ出た。
漁港へ続く道路を行くと東鴨神社がある。
奥田さんの行動が分かっているのは、ここ迄だ。
塩出事業所では、他の加工事業所に比較して、歩留まりが極端に低い。
大量の検査異常品が発生していたのが原因だろう。
誰かが仕組んで、正常な製品を仕損品に偽装して、横流しをしていると仮定した。
午後七時頃、塩出事業所へ産業廃棄物処理業者が、廃棄物を引取に来る。
廃棄物は、九十リットルのビニール袋に詰める。
今日、発泡スチロールの大きな箱が十数箱、廃棄物置場にあった。
発泡スチロールの箱を業者は、引取らない。
一つの箱の蓋を開けて、中を見ると、何の魚か分からないが、パックに詰められた製品だ。
冷凍になったままだ。
これが、横流しされている現物だ。
業者が、廃棄物を引取った後、廃棄物置場の外の鍵を締める。
おそらく、外の鍵を締める時に、横流しする製品を車に積み込んでいるのだろう。
あくまでも、仮説だ。
「ここやな。神社」
龍治は、鳥居の脇の空地に車を停めた。
「それじゃ。行こう」
秋山が云うと、龍治が車から降りようとした。
「いや。緑地公園や」
秋山が行き先を云った。
龍治は、秋山が奥田さんの殺害された現場へ行くのだと思ったようだ。
「どちら迄」
龍治が、タクシーの運転手を模して云った。
「緑地公園の中央駐車場まで行ってくれ」
秋山は、タクシーの客を演じる。
つまり、奥田さんは、以前から、または、最近、横流しの事実を知った。
あるいは、奥田さん自身が、横流しに関わっていた。
横流し品の、受け渡し場所は、三ヶ所。
一つは、東鴨神社の鳥居の空地。
もう一つは、漁港の小屋の前の駐車場。
そして、緑地公園の東駐車場だ。
何れも、奥田さんが目撃されていた場所だ。
さすがに、最近、殺人事件のあった場所では、横流しの受け渡しは、しないだろう。
漁港の小屋の前の駐車場か、緑地公園の東駐車場の、どちらかだろう。
こればかりは、行ってみないと、分からない。
受け渡しの時間は、午後八時頃だ。
受け渡し日は、廃棄物置場に、一日で、発泡スチロールの箱が、十箱以上置いてある日だと推定した。
今日が、受け渡しの日に、間違いないだろう。
今回「外れ」でも、いつかは、緑地公園で受け渡しをするだろう。
「到着しました。二千円になります」
龍治が云った。
「もう、ええわ」
秋山は、コントを打ち切って、先に降りた。
緑地公園の遊歩道を東駐車場へ向かって歩いている。
「こんな時間に、まさか、アッきゃんと緑地公園。デートするとは、思わなんだわ」
龍治が、愚痴っている。
長く続く、椿か山茶花の生垣に隠れて待った。
もう八時だ。
外れたか?
駐車場前の道路に、光が近付いて来た。
車が駐車場に入って来て停まった。
秋山は、生垣に隠れて近付いて行った。
すぐに、また別の車のベッドライトの光が近付いて、駐車場へ入って来た。
秋山は、頭を伏せた。
二台ともワゴン車だ。
駐車場の出入口から一番目と二番目だ。
秋山は、車の前方の生垣に移動した。
龍治を見ると、全く動けずにいる。
図体がデカイからだ。
二台の車から、各々、男が降りた。
スライドドアを開け、車から隣の車に発泡スチロールの箱を移し替えている。
二人とも無言だ。
秋山は、携帯を構えて、動画を撮ろうとした。
瞬間。携帯が光った。
二人が、秋山を見付けた。
男と目が合った。
秋山は、逃げた。
男が飛び掛かってきた。
「こらあ!」
龍治の怒鳴り声だ。
二人の男が、龍治を見た。
咄嗟に、秋山は駐車場の前の道に飛び出して走った。
龍治が、男一人を地面に押さえ込んだ。
もう一人の男が、刃物を持って追い掛けてくる。
秋山は走った。
「止まれ!!」
大声が聞こえた。
何台もの車のベッドライトが、辺りを照らしている。
警察だ。
警察官が、大勢、周りを取り囲んでいる。
助かった。
目の前で、男が、警察官に取り囲まれ、連行されて行った。
龍治が、警察官と何か、話しをしている。
秋山は、塩出事業所をお役御免になった。
龍治から話しを聞いた。
石上が自供したそうだ。
奥田さんを殺害した凶器は、石上の包丁だった。
後日、漁港の海から凶器の包丁が見付かった。
松本博子も横流しの共犯者だった。
奥田さんは、二人の会話から、不正を疑った。
石上は、奥田さんが疑っている事に気付いた。
その日、石上は、横流しの現場へ奥田さんを誘き寄せた。
仲間に引き込むつもりだった。
奥田さんに拒否されて、殺害した。
奥田さんは、何故、梶浦に相談しなかったのか。
不思議だ。
あの大捕物の日、まず、あのマンションへ行った。
刑事がマンションを張り込んでいた。
警察は、秋山と龍治の後を追って来ていた。
秋山の計画通りだった。
どこへ越しても 真島 タカシ @mashima-t
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