09●峡谷の決闘は、じつはヒロの完勝だった!!

09●峡谷の決闘は、じつはヒロの完勝だった!!




 タコ戦車を相手にしたスタジアムの激戦ののち、戦闘バイクのハウンド部隊に拾われた、というか、半ば拉致されているヒロたち。

 ヒロに戦闘バイクの天与の才を見出したカーツ大尉は、叱咤し挑発し甘言を重ねて、ヒロを戦場へいざないます。ヒロにとっては憎っくき死神みたいなやつですね。

 ですから、物語の後半は「ヒロとカーツの物語」とも言えるでしょう。


 そこで最も重要な場面といえるのが、二人の、峡谷の決闘。

 全長5キロほどの狭い谷を駆け抜ける、というレースです。

 ヒロとカーツ、それぞれが乗るモノバイは、レールキャノンには装弾しないものの、機銃は発射可能であり、相手の前に出た方は、後方から撃たれることを覚悟しなくてはなりません。


 どう見てもヤバい、デスレース……だったのですが。


 結論から言いますと、これ、実はヒロ君の完勝だったのですね。


 驚きモモノキの場面です。最初に『ヴイナス戦記』を観たときは、ヒロ君が奮闘虚しく破れて、哀れ、一敗地にまみれた……と理解していたのですが、何度も観るうちに気になって、コマ送りにしてみたところ……

 おおっ、ヒロ君の完全勝利だったのだ!

 ……ということがわかりました。


 監督、ちょっとズルいですよ、すっかり騙されてしまいました……と、何年もたってからぼやきたくなったものです。

 それほど巧みに組み立てられたエピソードでした。

 まことに油断ならない、『ヴイナス戦記』です。


       *


 ヒロとカーツ、二人の決闘レースを詳しく描写することは避けますが、要点だけを抜き出しますと……


 走行中、ヒロのバイクから、レールキャノンの砲身が脱落。

 (レールキャノンの砲身は、おそらく単体の部品としては最も重いでしょう。この重量物を捨てたことで、ヒロの車体は身軽になって機動性が増したと考えられます)

 だからヒラリと車体を転回して、カーツの背後に回ることができた。

 ヒロ、機銃を連射、カーツの背後の防弾版に全弾命中。カーツ、負傷せず。

 ヒロはカーツの前に出て全力疾走、しかしカーツは発砲。

 ヒロ、クラッシュ。タイヤだけが外れてコロコロとゴールへ。

「タイヤだけでは、勝ったとは言えんな」と冷ややかに自分の勝利を宣言するカーツでした。


 後日、カーツはヒロにこう問いかけます。

「あのとき、お前は俺の頭を狙ったな、しかしシートの後ろは防弾版だった。知っていたのか?」


       *


 この一連の場面、一度観ただけでは、ヒロの負けです。

 奮闘したけど、惜しくもゴール寸前でクラッシュ。

 ヒロは敗北を認め、カーツの命令に従うしかなかった。


 ……そう思ったのですが、考えてみると真実は真逆で、ヒロの完勝だったのです。


 根拠は二つ。

①ヒロが、わざとレールキャノンの砲身を捨てた可能性があること。

②ヒロは、最初からカーツの座席の後ろに防弾版があると知っていたこと。


①について述べますと……

 戦闘用のバイクです。戦闘時に激しく損耗するのはタイヤ周りとかエンジンでしょうが、もうひとつ、デリケートな重要部品があります。

 砲熕ほうこう兵器、とりわけ主砲であるレールキャノンの砲身です。

 弾丸の発射による加熱や摩耗、あるいは砂塵など異物を砲口に吸い込んでしまうなど、故障頻度の高いパーツでしょう。

 これが故障したら敵戦車をほふることができず、戦闘バイクは死んだも同然となります。

 そこで、戦闘の合間にキャリアー車にピットインしたとき、時間をかけず、迅速に予備砲身に取り替える仕組みになっているはずです。

 たとえばメカニック員が一人でガチャッとレバー操作一回で取り外し、新しい砲身を差し込んでカチッと固定するといった、ワンタッチの手順で交換できるようになっているはず。

 そこでレールキャノンの取り付け位置に被さるカバーを見ると、斜めの矢印とともに、「DNL」との表示が付いています。このカバーの裏側あたりに、キャノンの砲身を取り外す着脱レバーがついているのかな? 「DNL」の意味はよくわかりませんが、「ディスマウント・ナセル・レバー」の略だろうかな? とか、勝手に想像しています。

 ともあれ砲身の着脱は絶対に必要、しかしあまりにも簡単な操作で着脱できると、走行中の振動でスポッと落ちてしまいます。だからたぶん、砲身を根元でガッチリと固定するメインストッパーがあって、それはコクピット側にレバーがついている。  

 で、ピットインしたときには操縦者がメインストッパーのロックを外し、そのうえでメカニック員が車体側のレバーを操作してガチャッと砲身を取り外す仕組みになっていると思われます。


 さて、ヒロは最初から戦闘バイクには興味津々で、一人でガレージに行き、しげしげと車体を観察するほどですから、レールキャノンの砲身の取り外し方法は学んでいたでしょう。

 ならば、カーツとの決闘レースを始めたとき、自分の技量では追いつかれてしまうことを察していたヒロは、最も重いお荷物になっているキャノンの砲身を捨てることを思いつき、コクピット側の操作でメインストッパーを外し、次いで車体の左舷を岩肌にこすりつけて、車体側の砲身着脱レバーを壊すことで、砲身をわざと脱落させたのではないか……そう思います。

 というのは、外れた砲身が後方へ飛び、カーツの車体に接触する画面です。

 このとき砲身の本体と照準用の赤外線シーカーみたいな部品に分かれているものの、引きちぎられたとか、ねじ曲がったり破損した形状ではなく、カチャッと取り外したような状態に見て取れるからです。

 こうして余分な重量物を捨てた結果、ヒロの車体は身軽になって、まるで忍者のように砂塵にまぎれてクイックターン、カーツの背後にひらりと出現できたのではないでしょうか。

 以上を計算して意図的におこなったならば、明らかにヒロの作戦勝ちです。




   【次章へ続きます】



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