レンタルじゃない恋


ピロン♪

「ん?」

朝から彼の仕事のメールが届く。


申込者:真紀 21歳 大学生

日時:2023年2月15日 12:00~13:00

場所:表参道「三角カフェ」

やりたいこと:お話したい


彼女からのレンタル彼氏の申し込みだった。

しかも、今日。


彼は先程まで彼女のことで頭がいっぱいだったからめちゃくちゃ嬉しかったのか、普段はしないベッドに乗ったまま高くジャンプをしていた。

彼のことを知っている人なら、こんなことする人だったんだと思うだろう。


彼は急いで準備し、彼女が待つ場所へと向かう。


「…お待たせ」

「…い、いえ!」

「昨日ぶりだね、びっくりしたよすぐ申し込んでくれるなんて思いもしなかったから」

「迷惑、でしたよね…?」

「いやいや!俺も真紀ちゃんに会いたいって思ってたから嬉しかったよ」

「えっ!う、うん」

「…どうしたの?なんか、よそよそしいというか…」

「いや、そんなことはなくて!…えと、ふぅ…」

彼女は少し深呼吸をし、彼に何かを伝える。


「あの!来て早々で申し訳ないのですが」

「え、うん」

「あの、好きです!」

彼女は自分の声が思った以上に大きく、内心びっくりしていた。


「レンタル彼氏だからとかじゃなくて、素の律くんのことをこれから知っていきたい。律くんの人間性、っていうのかな、それに惹かれました。…もちろん、顔も」


彼女の告白に彼は驚いたようで目を丸くしていた。

でも驚いたのは束の間。

彼は嬉しくて思わず笑ってしまう。

「…フフフ」

「え…!?…私、何か変なこと言いました?」

「ううん。嬉しくて」

「う、嬉しい!?」

「あーあ、先、越されちゃったな」

「え?」

「俺も、生まれて初めて好きになってしまったみたい、真紀ちゃんに」

「…え?…それは、レンタル彼氏、だからその返答なんですか…?」

「ううん、嘘偽りない俺の本気」


彼の言葉に彼女は頬をつねる。

夢でも見ているのかと思っているみたいだったが、これは現実。夢じゃない。


「え、え、え、どうして…?」

「最初から俺を俺として見てくれたから」

「え?当たり前じゃないですか!レンタル彼氏という仕事をしているとはいえ、律くんは律くんだし、少なからず昨日の律くんは仕事をしているというか素で楽しんでいた気がしたのでなんか良いなって思ったわけだし」

「つまり、そういうこと」

彼は彼女の頭を撫でる。



ピピッ

彼の腕時計のアラームが鳴る。

つまり、レンタル彼氏の時間が終わり。


「終わっちゃった…」


彼女は少し悲しんでいるが、反対に彼は「え?【レンタル彼氏が】でしょ、今からは俺と普通のデートじゃないの?」と少し余裕がある笑みを見せる。


「えと、これは両想い…つまり、カップルという認識でよろしいのでしょうか?」

「もちろん、これからよろしくね」

二人は抱き合い、笑い合う。



「あ、俺もうレンタル彼氏辞めるから、真紀もレンタル彼女、辞めてね?」


(あれ、名前呼び捨て…)

「…うん!」




二人は恋愛初心者。

これからどんな未来を描くのは彼らしか分からない。


レンタルじゃない恋、開幕。




(了)







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彼女と彼のレンタル事情 いちこ @0427yukioo

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