悪趣味なゲーム2
リブが離れない。一人で居たくても磁石のようについてくる。友達と遊んでも飽きが来れば嘘をついてまで此方に来る。そして「昨日の評判は?」と投稿して数日ほど必ず聞いてくる。
「いい感じに伸びてる。いいね! が三万ぐらい。知らぬうちにフォロワーも増えてるし……」
「おーいいじゃん。俺もお前のおかげで上がってる。一部じゃ『二人で殺るなんてズルい!!解散しろー』って喚く奴もいるがな」
「へぇ……しっかり見てないから知らないや」
「そりゃそうだろ。相手してたらきりないもんな。んで、なんか考え事?」
隠したつもりだったが顔に出ていたらしい。仕方なく溜め息混じり「デスゲームの誘いが来た」と天井の広告を見つめる。
「デスゲーム? へぇー面白そうじゃん」
リブが興味を示すのは初めから知ってた。いや、話したら話したで「やるだろ?」と強制的にやらせようと圧を掛けてくるの事も。
「主催者は不明。俺には拒否権はないからって……強制参加。気が進まないけどやるしかない……ですよね」
リブの顔色を伺い機嫌を損ねないよう合わせる。イーブルの発言に笑みを浮かべ、ブブッと通知が来る。
live
『イーブルが噂のデスゲームやるってさ。皆もやろうぜ!!』
独り言のようにわざと『呟き』機能で拡散。するもイーブル以外デスゲームについて知っていたのか『イーブルさんが参加するなら票入れます!!』とフォロワーからコメントが来る。リブの呟きがあの名無しにも届いたか。トピック招待と通知がアプリ全員に届く。
ナナシ@―――
『デスゲーム【殺し映え】
此処のアプリでしか出来ない“リアルキラー”による写真のナンバーワン決定戦!! 多くの票を得た者勝ち。報酬は一人になるまでお預け。
~ルール~
・数ヵ月に一回。お題に合わせて写真を撮る。一気に殺ると世間が怪しむため、応募期間は長め。怪しまれず、バレぬよう行うこと。
・個人、グループかはお任せ。カメラ、アプリでの編集に規制は無し。
・写真投稿側と投票側。行うごとに変更可能。ただし、アプリ内全てのキラー参加厳守。どちらか必ず行うこと。
・投票し忘れ、最低評価の場合は、その者をターゲットに殺してもらう。その場合は、特定のキラーに指示。その人をお題として殺してもらう。
・主催者に対しての愚痴はターゲット対象者。警察や家族等、助けを求めた場合処刑とする。
募集期間とお題は決まり次第通知。
此方と関係ない通常投稿も可能。
では、それまで良い殺し合いを……』
イーブルは真剣にコメントを読み返し、滅茶苦茶なルールに「人の本性が出そう」と本音が漏れる。それを聞いてないふりをしていたリブ。しかし、妙な気配にイーブルがさりげなく顔を向けるとスマホで顔を隠しながら悪い笑みを浮かべていた。
人間臭漂う息苦しい電車を降り、帰ろうと改札を抜ける。すると、リブが知り合いを見つけ「ちょっと先に帰っててくれ!!」と背中を押される。
「えっ」
慌てて振り返るが姿はなく、また一人に逆戻り。騒がしい人だと呆れながら、ゆっくり足を進めた。毎日変わらず人を避け、爆音で音楽を聴いては周囲に目を凝らす。
昨日人を殺したばかりで名残があり、脳裏から離れない。それが落ち着くまでは手は出さず、インスピレーションが湧くまで待つ。
時々ヘッドフォンを外し、人の会話や店の音と日常のことをBGMのように耳を傾ける。
パチンコ店に貼ってあるポスターを見つめ、小さな横断歩道を渡りバスに乗って帰ろうか。徒歩で帰ろうか、とバス停の前で止まる。しかし、迷ってしまいバスが発車。仕形なく徒歩に。
騒ぐ学生や昼から飲んでたのか酔っぱらいに軽く絡まれながらも、駅から離れるため黙々と歩く。騒がしさも店も少なくなり、公園や住宅地と景色が変わる。狭く空が見えなかったが、上を向くと邪魔な建物がなくなり青からオレンジへと変わる美しい夕焼け。思わず見とれていると「ギャハハッ」と耳障りな声。「やめろよ!!」と嫌がる声が聞こえた。
*
道路沿いを歩いていると、コンビニの前に群がる中学生らしき五人の姿。そのうちの一人が鞄を持たされ、押されたのか尻餅。迷惑なことに入り口前でたむろっており、店員やサラリーマン達が注意しているが聞く耳を持たない。
「君達、邪魔だから退きなさい!!」
「別に良いじゃんかよ!!」
反抗期か。ましてや、不良になりたくてなれていないバカ。イーブルはわざとゴミを捨てるふりをして近付く。
「彼が困ってるでしょう!!」
「コイツは荷物持ちなんだよ。なぁ?」
強がりな男子中学生とその部下三人。自分達は偉いと思っているのか、弱々しい男子をイジメているようにも思えた。
「お前、気持ち悪いんだよッ一人コソコソとしやがって!!」
彼の言葉が自分を指しているように聴こえ、錯覚が錯覚を生む。苛立ち感情が抑えられなくったイーブルはガーゴパンツのポケットに手を突っ込み、スルッとリュックサックを肩から下ろすと「ねぇ」と中学生に声をかけた。
「なんだよ、部外者が――」
リーダー格の学生が此方を向いたとき、教材で重いリュックサックを投げつける。勢いと重さに耐えきれず、停めていた自転車にぶつかりガシャガシャッとドミノ倒し。彼の隣にいた学生の腕を引っ張っては練習用の斬れないバタフライナイフを首に突き付け、ニヤッと不適に笑う。
「あんたらがやってること、これと同じことだよ」
突然の出来事に白け、軽く学生の首を絞め、ナイフを先端をチクッと当ててはスーッと下に切るように動かし、乱暴に解放してやるとクルクルクルとペンのようにナイフを回す。素早い動きと夕焼けでオレンジ色に光る刀身。それに恐怖を感じた四人は弱々しい学生一人残して走り去った。
「あ、ありがとう……お兄さん」
弱々しい学生に手を差し出し、「ん、別に……胸くそ悪かっただけ」と鞄を手に取っては立ち上がらせる。
「怪我は?」
「大丈夫です。すみません……」
「そう、じゃあ」
軽く手を振り、何もなかったように数歩歩くと「君、ありがとう」と店員とサラリーマンに声をかけられ手を軽く上げた。ムシャクシャして感情的に動いてしまい、内心リブに見られているんじゃないかと不安になる。
マンションの階段を上がり、一階の踊り場。そこで靴が見えた。Yシャツに合いそうなビジネスシューズのラフな靴。
ヤられた、と顔が青ざめるイーブル。必死に頭の中で言い訳を考えるが何も浮かばず、頭を抱える。恐る恐る歩み寄ると「遅いなぁ。先に帰ったんじゃねーの?」と電子タバコをくわえているリブの姿。強めの口調に命令口調。学校の優しい印象とは大違いだ。
「……すみません」
「何してた?」
リブの問にイーブルは無言を貫く。
「まぁいい、人目のつく場所で説教なんてしたくない。ほら、入れ」
緊迫した空気に怯むイーブル。だが、リブが立ったときクスッと微かに笑う。開いているのだ。社会の窓口が――。
「……あの、風間先輩」
「あ?」
「社会の窓口開いてますよ」
リブは一瞬下を見てブッと笑いながら「うるせぇ!!」と恥ずかしながら我先にと部屋へ向かった。
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