第11話 出産

 陣痛がきていたが、夕飯の準備をする。

「陣痛が始まった」と旦那に電話をいれたが、いつも通りの帰宅。

 いつも通りの晩酌と食事。


 夜中の12時くらいに病院へと向かった。

 もちろん、私の両親に連れていって貰った。

「まだ時間がかかりますよ!」

と言われ、両親は帰宅をする事になった。

 まぁ、初産だし。

 出産はそんなに簡単なものではない。

 私のお腹は夕方から痛み始めていたのだが、まだ普通に立っていられた。

 (時間はかかるだろうなぁ)と、覚悟はできているつもりだった。


 ただ、やっぱり怖かった。

 初めての事だらけ。

 これから、ドラマで見たことがあるような場面を体験するのだから。

 長い戦いになるのだろう。うーっと痛みに耐えながら付き添ってもらって頑張るのだろう。



 けれど、なぜか旦那も帰った。

 病院には私1人だけ。

 お茶もお水もお金も。

 何にも置いてくれていない。



 うとうとしては、陣痛で目が覚める。

 たまーに見に来る助産婦さんも、まだだねぇーと言って、去ってゆく。



 朝方、飲み物をお願いすると、とてもうすーい出がらしのような色のお茶が吸い飲みに入れて置かれていた。

 なんだか寂しくなってきた。


 現実はこうなのか?

 ドラマのワンシーンで観たことがある。

 苦痛に顔を歪める妊婦の腰をさすったり、旦那様は廊下でソワソワ、うろうろして、産声を聞いて喜ぶ!

……なんて、私には関係ない話だったのだ。


 1人で陣痛と闘って、うずくまりながらトイレに行く。

 そして、1人で苦しみながら必死でベッドに戻る。支えてくれる人なんていなかった。

 しばらくすると、分娩台に移動する事になった。

「旦那さんにも電話してるから、もう少しでくるからね!頑張るよーー!!」

と助産婦さんに励まされる。

 よく覚えていないが、朝の7時半くらいだったかな……。



 そして、朝の9時を過ぎた頃、産声が聞こえた。

「はぁー、終わったぁーー!」

 私はなんとなくそんな風に口にしたような気がする。

 そして、その言葉を廊下で聞いていたのは母親だけだった。

 旦那は子供が産まれた瞬間は、まだ病院に到着していなかったのだ。


 家から病院までは地下鉄で2駅。

 タクシーでも10分かからないくらいの病院。

 朝の7時半くらいには連絡もらってるはずなのに……。

 間に合わなかったんだと。


 まぁ、これもよくある話だと自分に言い聞かせた。母親から聞いた話では、

「シャワーをしてから行くので、先に行っててください」

と言われたそうだ。

一体どこでシャワーをしていたのだろうか。

 謎だ……。



 初めての我が子が産まれる時って、そんなもんなんかな? と、私は今でも疑問に思っている……。



 そして、ある人が言った通りだった。

 お腹の膨らみが前にでないだけで、意外と体重はある赤ちゃんだった。


 真っ赤な、ゴリラのような顔をしている。

 お腹の中からグーパンチをよくしていた、娘との初対面だった。

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