第7話 とある神社

 私の大切な大切な想い出の中には、とある神社もある。

 大好きな海岸を離れて、大きな通りに出る。

 そこから、車で30分くらいだろうか。

 記憶が曖昧でハッキリとは思い出せない。

 私が大好きな海岸がある隣の市に、昔からある小さな神社だ。



 その神社は年に2回ほど、素晴らしい景色に出逢える事で有名な神社だ。

 私は何度もその神社へ行っているが、その素晴らしい景色と出逢ったことはない。その時期は人が多く集まり、駐車場にも入れずに帰って来たこともある。


 よぼどご縁がないのだろうか……


 だからいつもその時期を避けてお参りに行っていた。

 神社から少しだけ離れた場所にある駐車場に車を止めて、神社への案内板通りに進んでいく。


 神社の入り口から見上げると長く続く石の階段がある。


 その参道の途中に石の鳥居が2つあり、くぐって進んで行く。


 階段を上りきって振り向くと、鳥居からまーっすぐに海へと続く道が見える。

 横切る車も見えるほどにまっすぐに続く道。

 その道はそのまま海へと向かい、遠くに海が広がっている。

 夏はその海で海水浴もできる。

 私も何度か泳ぎに行っている。


 その神社に行くならば、やっぱり夕方がお勧めだろう。

 オレンジ色に染まる空と海が綺麗に見える。


 年に2回ほど見れる素晴らしい景色とは、

神社から見下ろすと、参道の先に浮かぶ島の向こう側へと太陽が沈んでいく。

【光の道】と呼ばれるその道はとても美しく

見ると心が清らかになる。


 記念祭の時には【幻の舞】が見れる。

 その時期の夕方は、神社の階段も人で溢れるほど人気のパワースポットだ。



 私は数年前に勇二と一緒に弾丸ツアーをした。勇二の休みは日曜日しかなく、ゴールデンウィークなどは微妙に休みがズレる事が多かった。

 だがその年はなぜかぴったりと休みが重なった。急だったので、宿は取らずに高速道路を車で走り、その時空いている宿で寝た。


 勇二と結婚してから祖母にも会っていなかったので、ふたりで会いに行った。

 もちろん交通費は私が出す事で承諾してもらった。

嬉しかった。懐かしいラーメン屋で20年以上振りにラーメンも食べた。

両親から離れるように入った学生寮も建て替えられて、素敵なマンションタイプに変わっていた。



 そして、祖母が入所している老人ホームへ行き勇二を紹介した。

 認知症の祖母も『元気だったかい!』と同じ話を何度も繰り返しながら喜んでくれた。

 祖母とは15年ぶりの再会でもあり、最後の面会となった。

 その時一緒に撮った写真の祖母はまだ、ふっくらとしていて元気だった。

(ばーちゃん、元気でね!さようなら!)と私は心の中で呟いた。

 会うのが最後になる事が分かっていたので、車に手を振ってくれるばーちゃんの笑顔を目に焼き付けた。


 それから数年後、ばーちゃんが亡くなったと連絡がきた。




 ばーちゃんと会った日の帰りに勇二にお願いして、懐かしい神社と海岸に行ったのだが……

 懐かしい気分に浸るまもなく、神社へお参りをし、振り返って少し日が沈みかけた海岸に続く道の写真を撮り移動をした。


 神社の滞在時間は駐車場から駐車場までで

10分くらいだっただろうか……

 本当はもっと長く居たかったのだが、

(連れてきてもらったから……)と、心にひ引っ掛かりを感じながら言葉を口にはしなかった。


 そのまま大好きな、懐かしい海岸へ移動して、潮風を感じながら日が沈むのを見たかった。

 だが、その海岸も波の動画を数秒撮影して、5分も経たないうちに強制出発となった。



 とてもとても大切な場所だけど。

 とても苦い想い出に変わってしまった。

 勇二と一緒に行かなければ良かったと、とても後悔している。

 何だか、とても大好きな場所ばかり巡って、すべての場所と記憶を汚されたような感覚でもある。


 でも、なにも変わらずにありのままの私を受け入れてくれる場所。

 やっぱり自然は偉大で美しい。

 とても、自分がちっぽけに感じる。



 この神社と海岸は私の物語になくなはならない場所なのだ。

 私の物語にはそんなに登場はしないのだが。

何かしらあると思い出す。

 大切な大切な場所だったのに。


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