安息の護り手

はぁふ・くうぉうたぁ

第1話 山間の廃線駅


山陰地方の、とある廃線駅。


御多分に漏れず、その年の夏も蝉時雨が響き渡っていた。


平坂駅ひらさかえき

国鉄時代から使われていたであろう木製の看板は字も薄れ、

近付かないと判読が難しい程になってしまっている。


昭和の時代に廃線となり、今となっては訪れる人も無い。

ごく偶に、近隣を走る単線の主要路線が擦れ違い退避場所として使用する位だ。


主要路線が侵入する反対側は車両止めも無く、

線路はトンネルのある山側へと続いている。


廃線から数十年が経過したというのに、驚くほど駅舎は奇麗に保たれている。

駅職員が居る訳でもないのに何故だろうか。


数刻後。

遠くからエンジン音が響く。やってきたのは一台の大型バイク。

駅舎前ロータリーにバイクを停め、『フォゥン!』と一発あおってエンジンを切る。

乗ってきたのは一人の青年であった。


「・・・ふぅ。しっかし、暑っちいなぁ~、今年も」

青年はヘルメットを脱ぎながら、誰ともなく呟いた。


青年の名は、如月小次郎。


この地域に古くからある神社、鳴見なきみ神社の若き当主である。

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