第45話

サカラハ国を抜けて港のある街まで向かうため途中の国々を歩いていくと、盗賊が一気に増えてきた。

そこら辺の木に縛り付けて通りすがりの町や村で報告をしていくと、いつの間にやら情報は広まっていて「なんかすごい二人組が指名手配犯グループを片っ端から捕まえていっている」と噂されているらしい。

今も襲い掛かってきた盗賊をロープで縛り上げているところだ。

もうロープが必需品になって寄る町や村で買い漁って不審がられている。

違うんです!これは正義のために使用しているだけなんです!襲う側じゃないんです!

全員縛り終えて次の町へ報告しに足早で進む。

「治安が悪いねぇ」

「ナタハリ国が治安が悪いのは分かるんですが…」

「ナタハリ国は治安が悪いんだ?」

「……あそこは前国王が前国王なので」

言い淀むノイシュくん。

一国の王子ともなると発言にも気を使うんだろうけれど、俺しかいないんだからたまには本音で話して欲しい。

親しくなれたと思ったけど、時折距離を感じて寂しい。

「なぁ、今はフロランタンへ行くっていう目的があるけど、それが終わったらいつかナタハリ国へ行かね?」

俺の言葉にノイシュくんはギョッとした。

「なんでですか?」

「いや、イグニクスの隣国で三ヶ国の国交をほとんどなくした張本人の顔が見てみたい」

「ナタハリ国の国王ですか?三ヶ国協定パーティの時に壇上に上がったのサハラさんも見たはずですが。それにそれは先代の頃の話でご子息の今の王には罪はありませんよ」

「そうなの?」

「そうなんですよ。でも、ナタハリ国に関わっても碌なことにはなりそうもないですし、僕は行くのには反対です。事実、盗賊が増えたのもナタハリ国から溢れた野良野盗でしょうし」

ノイシュくんが少し顔を歪める。

なんだ野良野盗って。野盗は元から野良だろう。

「そんなに野盗がいたほど治安が悪かったんだ?」

「カザリアという罪人の住まう収容所に並ぶくらいの悪の巣窟とも言われていましたが、現国王がなんとかしようとして多少は罪を犯す者も減ったはずです…多分」

「まじで!?そんなやべー国だったの!?」

あんなに治安のいいイグニクスとサカラハ国の隣国でそんな国が存在したのか。

いや、だからこそ険悪な関係になったのか。

先代の国王が悪い人でも現国王がまともな人なら良かった。

こう考えると俺って世界のことどころか隣国のことすら知らなかったんだなぁ。

「なぁ、どうせ暇なんだしイグニクスとサカラハ国とナタハリ国の事、教えてくれよ」

てくてく歩いて時々野盗退治するくらいだ。

旅の話としてはちょうどいいだろう。

「いいですよ。というか、召喚された時に多少は教えられたと思うんですが」

「そんな昔のことは忘れた」

「まったくもう…そんなんだからサハラさんなんですよ」

苦笑とともにノイシュくんが知る限りのことを教えられた。

とはいっても、最初は幼児が習うような歴史の初歩からだったけど。

イグニクスの成り立ちにも異世界人が立ち会ったらしい。

……この世界にとって異世界人ってなんなんだろうな?

なんでそんな昔から様々な世界から人が召喚されたり呼ばれてやってきてこの世界を作り上げたんだろう?

もしかしてこの世界の祖先は異世界から来た人しかいないのかも。

「なあ、この世界にとって異世界人ってどんな存在?」

「この世界にはない知識を与えてくださる存在ですよ」

つまりはこの世界にとって都合のいい存在ってことか?

俺が平和になって三百年後に勇者として呼ばれたのも、それから更に異世界の勇者であるアルベルトさんが呼ばれたのも、この世界の都合があるのか?

他の国にも異世界から来た勇者がいるのかもしれない。

勇者が求められる意味は?

考えれば考えるほど分からなくなる。


「とりあえず、こっちを見ながらニヤついて刃物出してる野盗ふんじばろうか」

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