第42話

いくら大人しいドラゴンといっても何があるかは分からないので勇者シリーズを装備した。

相変わらず光らなくなったままだ。

これを着て宿屋から出るとすっげーじろじろ見られた。

そりゃそうだろう。

こんな平和的な村でこんな仰々しい格好していたら浮く。確実に。

「ノイシュくん、俺、恥ずかしい」

「大丈夫です。隣にいる僕も恥ずかしいですから」

「まったくフォローになってねぇ」

ガシャンと鎧で音を立てながら俺は膝をついた。

ドラゴンより何よりノイシュくんの冷たい言葉が突き刺さる。


そんないつものやりとりをしながらドラゴンを見掛けるという周辺までやってきた。

「今度のードラゴンはーどんな子かなー」

ドラゴンが仲間になってくれる妄想が未だに抜けない俺は気安く歌いながら探し回った。

だって夢があるじゃん。ドラゴンと仲間になるなんて。

「どんな子も何も、今までだって問答無用で襲い掛かって来たじゃないですか。いいですか?忘れがちとはいえいくらサハラさんが勇者でもドラゴンには十分警戒してくださいね」

幼子に言い聞かせるみたいに注意されて俺は歌うのをやめた。

夢より年下同僚に注意される方がやだ。


しばらく進むと、サンダルソンの村人が言っていた辺りに辿り着いた。

「気をつけてくださいよ」

「分かってるって……あ」

ドラゴンはいた。

身重なドラゴンが。

そしてその身重のドラゴン…多分メスの元へ食料を咥えて運んできた番であろうドラゴンが飛んでやってきた。

二匹は身を寄せ合い、オスのドラゴンはメスに食料であろう他のモンスターの死骸を渡してメスはそれを食べていた。

膨らんだ腹が少し動いた気がした。

これあれだ。

待ってるっていつも旦那の帰りを待ち侘びてる奥さんじゃねぇか。

誰だよ、俺と仲間になるために待っていてくれている健気なドラゴンとか言ってたの。俺だよ。恥ずかしいから忘れてくれ。

「あのドラゴンは番の帰りを待っていたんですね……出産間近の動物は危険です。ここは静かにサンダルソンに帰りましょう」

「ウン、ソウダネー」

夢破れた俺は気の抜けた返事をしてノイシュくんにやる気が足りないと怒られてしまった。

だってドラゴンが仲間になるかと思ったんだもん。いつかはなってくれる子いるかな?

「それにしてもドラゴンは高い知性を持つと知られていましたが、番への愛情も他のどの魔物より深いというのを事典だけではなくてこの目で見れて感動です!」

ノイシュくんの目がキラキラしていた。

先程見た光景を饒舌に語り最後にこう締め括った。

「愛ですね」

「ウン、ソウダネー」

また怒られたが許して欲しい。

俺は今ハートブレイクなうなんだ。

「なにか分かりませんがサハラさんが久々におじさんくさいと思いました」

「えっ!?なんで分かるの!?ていうかおじさんくさいって思った事あったの!?ノイシュくん!!」

顔を逸らされたのが何よりの証拠だろう。

いや、俺はまだおっさんって歳じゃないし。

ノイシュくん的に見たらアレだけど。

おっさんって歳じゃないし。


ぶつぶつ言っていたらいつの間にかサンダルソンに戻ってきていた。

「ドラゴンの調査は終了しました。どうやらドラゴンは番でメスの方は身重の体なので、危険ですので近付かないでください」

ノイシュくんが説明すると、みんな納得してくれた。

「旦那の帰りを待つなんて健気なドラゴンだねぇ。うちなら亭主元気で留守がいいってのに」

どこかの奥さんが言った言葉で奥様方からは笑いが起きた。

男性陣は乾いた笑みだ。

サンダルソンは女性の方が強いのかな?

いや、どこの世も女性は強かった。

藪蛇だから言わないけど。


「さて、キクノクスへのお土産も送りましたし、そろそろ出発しましょうか」

翌日、ノイシュくんが元気よく言ったのに対してこちらはドラゴンの安産祈願という名の酒盛りに付き合わされて二日酔いだ。

「えー。もう?」

「もうですよ!まったく、誘われるとすぐ飲むんだから」

「だって祝い酒なんて飲まなきゃ失礼だろ?」

「すぐそうやってなんだかんだと言い訳をして…まったくもう!」

プンスカ怒るノイシュくんに連れられて、纏めた荷物を持って乗合馬車乗り場に来た。

勇者シリーズがガシャゴト音を立ててやかましい。

「それで、次の村はどんな美味いものがあるか楽しみだねぇ」

「だから!異変を調査しに行くんですからね!食べ歩きの旅じゃないんですからね!」

ノイシュくんの怒鳴り声が二日酔いの頭にガンガンと鳴り響く。

さて。

本当に次の目的地はどんなところなんだろうか?

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