第36話

なんてことはない、ある日の真夜中だった。

寝ていたがなんか眩しいなと思って目を開けるとハンガーラックにしていた伝説の剣とそこら辺に置いておいたリリィから貰った昔の勇者の防具が光っていた。

あきらかな異常状態だ。

しかしそんなことより大変なことがある。

「やばい!こんな真夜中に発光していたらご近所迷惑だ!」

事実、カーテンだけではこの光は防ぎきれておらず光が外へと漏れていた。

ご近所付き合いとして些細な問題も起きないようにしたい!

俺は布を掻き集めて光る剣と武具に乗せて光りを少しでも外に出ないようにした。

光は一向に止まず、その晩ずっと光っており、俺はご近所の迷惑にならないようになんとか苦心した。


「そういえば昨日の夜中に伝説の剣と防具が光って大変だったんですよ」

バルロットさんもそんなに忙しくないと言うので久々に三人で昼食を摂っている時、へらへらと日常会話的に昨日あった困ったことをバルロットさんとノイシュくんに言ったら、二人とも眉間に出来た皺を揉み出した。

「ちょっと待ってください。色々言いたい事があるので整理します」

「あっ、はい」

やばいな、これ。ガチの説教コースだ…。

「まず、伝説シリーズが光ったとなったら異常状態でしょう。そういう時は夜中でも私に報告してください」

バルロットさんが真剣な表情で言うが、こちらだってご近所付き合いの死活問題だったのだ。

なんて事を言い返そうとすれば察したかのように眼力が強くなった。

ていうか、伝説の剣と防具をシリーズで纏めてきたな…。もっと恭しく扱おうぜ。

なんてったって昔の勇者が使っていた逸品だぞ!とはハンガーラックにしていたりそこら辺に置きっぱなしにしている俺が言えた義理じゃないので黙っておく。

「あの魔王とその配下と噂の魔女二人と光の精霊王で何かが起きるとは思えませんが、一応国王陛下にもご報告致しましょう」

ノイシュくんが真面目に答えた。

えっ、光っただけでそんな大事!?

「大体、有事の際には報告・連絡・相談!ってあれ程言っておいたのに…これだからサハラさんは」

ノイシュくんがもぐもぐ昼食を食べながら怒ってきたのでご機嫌伺いにノイシュくんの好きな甘めの卵焼きをそっとノイシュくんの弁当に移してよこした。

目がキラキラしたのを俺は見逃さなかった。

それでも卵焼きを食べながら「この程度では許してませんからね!」と釘を刺された。

だめかー。

バルロットさんにはチーズハンバーグを一切れお裾分けしておいた。

こちらも満足していただけて何よりだ。

でもそういえば過去の勇者は調味料や食品を広めただけのやつもいる。

俺もそのパターンなのでは?チーズ広めたし。

魔王とか、四天王とか、伝説の魔女とか、光の精霊王とか、過去の勇者が使っていた武具が光ったとか、みんな通ってきた道なのかもしれない。

そう思うと肩の荷が少し軽くなった。

「聞いているんですか?サハラさん」

「聞いてまーす」

そう言って白米を食べた俺を見て、何を言っても無駄だとバルロットさんとノイシュくんが悟ったことまではわからなかった。

今日もご飯が美味しい。フィンに教わるようになってから格段に調理の腕が上がっていることも実感出来る。ご飯が美味しい。最高。

もりもり弁当を食べている俺を尻目にノイシュくんとバルロットさんがアイコンタクトをした。

なんかやらされそうだなぁ。めんどくさい。


そう思ってから一週間後。

ノイシュくんが仰々しい感じの紙を俺の前にばっと広げて宣言した。

「国王陛下からの伝令です。国内で目立った有事がなくても国外で異変が起きているかもしれない。勇者でしか分からないことがあるかもしれない。国内外への探索も許可する。有事の際には絶対速やかになんでもいいから細かく報告しろとのことです」

有事の際以降はノイシュくんのお言葉だろう。

バルロットさんはノイシュくんの後ろで頷いている。

「でもまぁ、国王陛下へのご報告は僕がするので心配しなくて大丈夫ですよ」

「えっ?」

「どこかへ行く際には僕も同行しますから」

微笑まれるが安心出来ない。

「いいのか?安全じゃないかもしれないんだぞ?ていうか、ノイシュくん王子様じゃん。国外にホイホイ着いてきて外交問題とか大丈夫?」

俺が慌てて尋ねるとノイシュくんは笑いながら言った。

「サハラさんとなら楽しい旅になりますよ。それに、国外へ出る際は単なるノイシュとして今まで通り平民として身分を偽り行動します。完全なお忍びですよ」

いいのか、それで。

本当になにかあったら、俺はノイシュくんを守れるんだろうか?

今までにない緊張感が俺の中で走る。

ノイシュくんを失いたくない。

「今、僕のこと守れるか心配になりました?大丈夫ですよ。昔から騎士団で鍛えられてきたのでサハラさん程ではないですが多少は戦えます。足手纏いにはなりませんよ」

柔らかな風と柔らかなノイシュくんの微笑みで、それならまぁいっかと俺の思考回路はあっさりと流されてしまった。

俺が、もっと強くなればいいんだよな。

ノイシュくんみたく精神面も。

「こちらのことは私にお任せください。元からそういう街でした」

バルロットさんに後押しされて、国内外へ異変がないか探索することが決まった。


さて、国外から出る許可も貰えたがどこから行ってみようか。

俺が思案しているとノイシュくんが声を掛けてきた。

「ちなみにまだ何事も起きてはいないですし不用意に民の不安を煽らないためにも極秘任務だから役所の仕事は有給で休むか休日を利用しますよ」

「まじか」

世知辛くないか?この世界。

それじゃあ大型休暇以外は近場探索だな。

武具が光った意味がそんな身近で分かるんだろうか?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る