第32話

「あ、サハラさん!」

役所の食堂でノイシュくんと談笑していたらミカさんと再び会った。

見た目完全美少女のミカさんが俺を見るとキラキラオーラを出して、俺が勘違い男なら惚れられていると思うところだったが、ところがどっこい、ミカさんは男なのだ!男なのだ!重要なことなので二回言った!しかも俺をお姫様抱っこ出来る警備兵なのだ!!……しにたい。

なんで俺の周りに女っ気ないんだろう…。男ばかりが集まる……。いや、別にみんないい奴だからいいんだけど。

なんの魔王でも魔女でもない普通の女性とお知り合いになりたい。

飲み仲間の女性をカウントしていない訳ではなく、なんかもう女性っていうより酒豪のイメージなんだよなぁ。

飲み屋で知り合うから仕方がないからなんなのか。

しかし、久々に見たミカさんはやっぱりとても可愛い。こんなに可愛いのに男なんだよなぁ。…差別発言になるか。気をつけよう。

「サハラさんは冒険者としても活躍されているんですよね!」

自然と話しながら相席になる手腕、さすがはミカさん。コミュ力の塊みたいだ。

「トルトリンでのドラゴン退治や崩落事故でのご活躍も聞いております!しかも!この世を統べる魔王とすら親しくされているとのことで、さすがはサハラさんです!」

にっこりと、そりゃもう背後に花でも咲いているかの様な笑顔で言われた。

言われたことは可愛くはないけれど。

「いやぁ、それは偶然だし、リリィは魔王だけどいいやつだし……」

「それで、あの…そんなサハラさんにお願いがあるんです」

頬を赤らめもじもじしだしたミカさんにおれが勘違い男でミカさんが男性だと知らなかったら勘違いするところだっただろう。

ちなみにノイシュくんは厄介そうな気配を感じてさっさと食べて終えて退席している。ひどい。

「警備兵としての実力も試してみたいですし、ぜひサハラさんと戦ってみたいんです!本気でお願いします!」

ペコリと頭を下げられたけれど、正直なところ俺が勝つ予感しかない。

だって一応最強勇者だし。

一警備兵に負けたらレベル999とは?ってなるし。

「いや、ミカさん。お互い怪我をしたら事ですし、やめときましょうよ」

「剣の私用は禁止されているので、やはりここは肉弾戦で勝負しましょう!サハラさんの胸を借りるつもりで全力で挑ませていただきます!」

駄目だ聞いてねぇ!!


そんなこんなで断りきれずにミカさんとの試合の日になった。

指定された場所に着くとギャラリーがめっちゃ出来ていた。

なんなら出店も出ていた。お祭り騒ぎだ。

なんだこれ。

「どうやらイベント扱いされていますね」

ノイシュくんがイカ焼き食べながら教えてくれた。

えっ、俺もそっち側がいい。イカ焼き食べたい。

「サハラさん!来てくださったんですね!」

キラキラ花を背負ってミカさんが笑い掛ける。

勘違いしそうになるからやめてくれ。

ミカさんは男、ミカさんは男……。

普通の女の子と知り合いたい……。

「なぁ、やっぱりやめないか?ミカさんも私事で怪我なんてしたら上官に怒られるんじゃないのか?」

「大丈夫です!念の為ギルドにお願いして治癒術師さんにも来てもらいました!」

「よろしくお願いしまーす!でもあんまり怪我とかしないようにお願いします」

可愛らしい女性がミカさんの影からひょっこり現れた。

こう見ると可愛い女性二人組なんだよなぁ。

しかし、やばい。退路が次々と絶たれていく。なんだっけ、こういうの。そう!四面楚歌!!

断ったり負ければ勇者の資質を疑われミカさんからの羨望もなくなり、勝てばミカさんから尊敬の念を抱かれる……いや、別に勝っても負けてもどっちでもいいな。

俺にとってはどちらでも構わない。

でもミカさんと親しくはしていたい。

ミカさんもとてもいい人だ。友人でいたい。

俺が悩んでいるといつの間にか試合の合図が鳴らされた。

「それでは始めます!」

治癒術師さんの合図で試合が始まった。

……なんで銅羅なんてあるんだよ。

「それでは、お願いします!」

真剣なミカさんの目。

これを見たら手を抜いたり断ることなんて、もう出来なくなってくるな。

真っ直ぐなミカさんの感情。

負けたくは、ないな。

大人気ないとでもなんとでも言ってくれ。

ミカさんは普通なら相当強いんだろうと分かる。

繰り出される拳もその一撃が外見よりずっと重い。

足技も的確に素早く繰り広げられる。

これで剣を持たせたらもっと強いんだろうな。

でも、見切ってしまう。

俺の目が尋常じゃなく動いてミカさんのすべてを理解してしまった。

見切ったミカさんの攻撃を余裕で躱して逆に打ち込んでいく。

数撃打ち込むとミカさんの体がふらついたのでそこを逃さず最後の一撃を叩き込む。

ミカさんは後ろに吹っ飛び、しばらく横になっていた。

俺は汗を拭いてミカさんに声を掛けた。

「ミカさん、大丈夫ですか?」

俺が声を掛けるとミカさんはガバリと起き上がりキラキラした眼差しで見詰められた。

「さすがです!サハラさん!」

背後に花が咲いているようなエフェクトが見える気がする。

うーん。美少女。

ミカさんは男、ミカさんは男…。惑わされるな、俺!

固い握手を交わしてお互いの健闘を讃えていると、たこ焼きを食べながらノイシュくんが近寄ってくる。

「サハラさんって、本当に無駄に勇者ですよねぇ」

「そうなんだよねぇ。って、こら!気にしていること言わないの!」

ノイシュくんへのノリツッコミをしつつ、談笑しているとミカさんがぐいっと近付いてきた。

「サハラさんの強さの秘訣はなんでしょうか?」

先程と同じく真っ直ぐな瞳と感情。

異世界に来たら普通の事務員からレベル999の最強勇者になってました、じゃ駄目かな?

「守りたかったからかなぁ」

うん。俺が力が強くても、その力を奮う理由は何かを守りたいからかなぁ。

リリィのことも魔王といえど守りたい。この街も好きだから守りたい。みんな好きだから守りたい。

俺が戦う理由なんてそんなもんだ。

俺が自分で言ったことにちょっと照れて赤くなっているとミカさんが微笑んだ。

「実は、以前サハラさんが戦うところを拝見したことがあるんです」

「えっ、まじで?いつ?どこで?」

そんなに戦った記憶はないぞ。

「三ヶ国が共闘して魔物を倒した時、自分も前線にいたのですが、足が竦んでしまって…ですが、サハラさんはあっさりバッサリ魔物の首を落としたんです!あの時の格好良さは忘れられません」

この懐き具合はそれが原因かー。

「あれもみんなを守りたかったからですよね!」

キラキラした瞳で見られて気まずい。

誰もやらなかったからついやっただけだ。

ミカさんの中の俺がどんどん美化されていく。

ノイシュくんは最後のたこ焼きを食べ終えると溜め息を吐いて俺の肩を叩いた。

「サハラさんて人間の女性以外にはモテますよね」

「それだとノイシュくんにも当てはまるよね」

悔し紛れにそう返すと素直に言われる。

「まあ、嫌いじゃないのは事実ですけど」

ツンデレノイシュくんの突然の本音に思わず固まった。

「えっ、まじで?俺も!ノイシュくんもバルロットさんもリリィもカシワギさんもミカさんみんな好きだよ!」

「僕もですよ。だから、守っていきましょう」

「自分も!皆さんを守りたいです!!」

ミカさんがノイシュくんに掴まれているのとは反対の肩を掴まれて宣言される。

ギャラリーは王子と勇者と街の警備兵の熱意に感動したのか大盛り上がりだ。

湧き上がる声援に、俺は今まで成り行きでやらかしてましたとは言うに言えずに街のみんなの暖かい言葉に汗をかいていた。

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