第17話

移住者の申請に家族で来る人もいる。

小さな子供に手を振ると振り返されるこの可愛さといったら!

リリィと接していても最近思うようになってきた。

「なんかさ、リリィと接していると子供欲しいなって思ってくるんだよな」

昼休みにノイシュくんと雑談してぽろりと言葉が出てしまった。

「魔王を相手にしていて子供が欲しくなるのサハラさんくらいですよ」

苦笑されても俺から見たらリリィは子供だ。

「婚活しようかなぁ」

「コンカツ?」

「ああ、結婚するために活動することだよ」

「サハラさんが結婚……」

ノイシュくんが考え込む。

「まったく想像が出来ませんね」

真面目な顔で出た結論に俺の肩も下がる。

「わりと普通に本気で傷付くからやめてくれる?」

俺の言動にノイシュくんは少し考えてから言った。

「でも、サハラさんは女性からわりと人気あるみたいですよ」

「えっ、まじ!?」

食い気味にノイシュくんに近寄ったら仰け反られた。

「以前女性職員が話をしているのを聞いただけなんですけど。仕事は真面目だし自炊出来るし手堅い文官職だし忘れがちだけど一応勇者だし顔は可もなく不可もなく普通ですし、そんなに悪いところないと」

「なあ、最後の必要だった?顔のこと普通って言うのは必要だった?」

「女性職員が言ったことをそのまま申し上げただけですよ」

しれっと言われるが、そうか、俺、知らないところでわりとモテてたのか……。

もしかして俺の時代がそのうち来るんじゃないのか!?

「来ませんよ」

俺の心の声が聞こえたのかノイシュくんから突っ込まれた。なんで分かったんだ?


そんな穏やかで女性を意識して過ごしていたある日、バルロットさんから呼び出された。

日中に仕事の件で呼び出されるなんて珍しいなと思ったら、サカラハ国とナタハリ国とイグニクス国との国境付近で大型の魔獣が現れて暴れているのをイグニクス国の兵士や所属ギルドの面々と混じって対峙して欲しいとのことだった。

友好平定してから初めての共同作業。

失敗は許されない。

「そんな大事な仕事を俺が混じっても大丈夫なんでしょうか?」

「いえ、忘れがちでしたがサハラさん全ステータス最高値のレベル999とかっていう異常な存在の勇者じゃないですか。絶対勝てます。よろしくお願いしますね」

有事の際には活躍するって約束でキクノクスに回されてたのに活躍の場が数ヶ月前にドラゴン退治してからまっっったくなくてバルロットさんにすら勇者なの忘れ去られていた!

なんてこった!

女性職員にも「忘れがちだけど一応勇者」って言われてるらしいし、俺、そんなにオーラないのか?

「が、頑張ります……」

勇者のオーラってどうやったら出せるんだろうか…。


そして数日後、三ヶ国が揃っての大型魔獣退治が開催された。

大型魔獣を見つけ出し先行部隊が開けた場所まで誘導し、そこを全員で処分するらしい。

今回の大型魔獣は早々出るものではなくギルドでもAランク以上が複数掛りで倒せるかどうからしい。

それにしても人数が多い。

せっかく三ヶ国の勇士達が集まっているのにピリピリしていて和やかに話せる雰囲気じゃない。

あと時々聞こえてくる言葉に地味にダメージを受ける。

「普通のおっさんがいる」

とか聞こえてくるの確実に俺だよな。

一応装備品は支給されたの着てきたけど他の皆さんは歴戦の猛者って感じだもんな。

中年太り気にしている俺が浮いたって仕方がないよな。

……泣きそうだし帰りたい。

俺、一応勇者だよな?そう宣言されてたし認知されてたから信じていいんだよな?

このアウェイ感、バルロットさんとノイシュくんの元へ帰りたい。

俺が早々にホームシックになっていると笛の音が聞こえた。

大型魔獣をこちらに追い込んできている合図だ。

みんな武器を構えたので俺も倣って武器を構えると周囲の木々を薙ぎ倒し、物凄い音を立てて大型魔獣が誘き出されて現れた。

えっ、話で聞いていたよりだいぶ大きくない?

途中で攻撃でもされたのか興奮気味であまりの迫力に他の兵士やギルドの面々も少し距離を取っている。

普通のおっさんって言われちゃったしな。

ちょっと頑張ろう。

俺が一歩を踏み出すと周囲が見詰めてきた。

「いっせーの、せっ!」

一気に走り距離を詰めて魔獣の前足を一本切り落とし、崩れ落とすと魔獣はその場から動けなくなった。

あとはトドメを刺すだけだが、これって俺がやっちゃっていいんだろうか?

キョロキョロと伺ってみると他の討伐者は呆然とこちらを見ていた。

あー…。無駄勇者能力にびっくりさせちゃったかー。

「すみません、これって俺がトドメ刺していいんですか?どなたか代表者とかっています?」

俺が訊ねても誰も答えない。

えー。どうしよう。

その間にも前足一本なくなった魔獣は立ち上がろうともがいている。

ここまでさせて苦しみを長くしても可哀想だよな。

誰も何も言わないなら俺がトドメを刺そう。

怒られたらその時はその時だ。

「よっこいしょ」

跳んで魔獣の背に乗り首に刃を当てる。

己の最期を察したのか魔獣は大人しくなっていった。

「ごめんな」

なんて言いながら首を横に真っ二つにして魔獣の息の根を止めた。

魔獣から降りてキクノクスのメンバーの元に行くと、どこからともなく雄叫びを上げて騒ぎ出した。

サカラハ国やナタハリ国の人達まで近付いてきて背中をバンバン叩かれたり髪をぐしゃぐしゃにされた。

なんだなんだ?と不思議がっていると俺の背中を叩いていたおっさんが俺を褒めてくれた。

「すげーな!あんた!あの魔獣相手に一人で!」

「本当だぜ!一撃が見えなかった!あんた、相当の手練れだろ!イグニクス国にこんなやつがいるなんてなー。冒険者じゃないんだろ?」

問われる間もお祭り騒ぎだ。

「俺はキクノクスの単なる文官見習いです」

そう言うと、周囲は驚いたように静まり返った。

「こんな逸材を文官見習いにしておくなんて…キクノクスはどうなってるんだ!?」

まさか勇者ですとは言えずに職を言ったら言ったで憤慨される。

助けを求めてキクノクスのメンバーを見れば俺が勇者だと知っているからか「うちの子凄いんですよ」状態で周囲に自慢している。両親か!!

「いやー!それにしても、こんなにでかい魔獣なら素材を切り分けるにも大変だな。おい!暗くならないうちにさっさと終わらせようぜ」

冒険者の一人がそう言うと、それもそうだなと冒険者や傭兵団が魔獣解体ショーをやり出した。

「おーい!キクノクスの兄ちゃんには功労賞として特別な部位を用意してやるからなー」

「あ、ありがとうございます!」

なにがなんやら分からぬまま礼を言ったけれど、どんどん剥ぎり取られた毛皮や肉を見て、俺はどうしようか立ち尽くすしかなかった。

毛皮はともかく魔獣の肉って食べられるのかな?美味いかな?

あとで誰かに聞いてみよう。

そう思いながら手際よく行われる作業をぼんやり見ていた。


キクノクスの冒険者とキクノクスへ戻ると素材が新鮮なうちにギルドで換金しようと提案された。

魔獣の毛皮はギルドで金銭と交換してくれるらしい。

行っことがないと言うとキクノクスの冒険者が連れていってくれた。

換金された素材は結構な金額になり、冒険者のお兄さんが魔獣の肉の食べた方まで教えてくれた。

「ありがとうございました!」

「いいって、俺も報告にギルドに寄らなきゃいけなかったし、ついでだよ。しかし、あんた程強ければ冒険者としてもやっていけるのになぁ。その気になったらギルドで冒険者登録してみろよ」

その言葉には曖昧に笑って誤魔化して、俺は両手で抱えた肉で何を作ろうか考えながら帰路についた。


「そういえば、女の子からの視線が以前とは別物になったんだけど」

仕事をしながらノイシュくんに訊ねる。

「ああ、大型魔獣を一撃で倒した噂が広がってやっぱり勇者様の伴侶は恐れ多いと敬遠されてるみたいですよ」

「えっ!?まじで!?」

「まじです。短いモテ期でしたね…」

絶対面白がっているだろう!

それにしても、そうか……。勇者で強くてもそれが原因でモテないことってあるのか…。

SNSの広告とかだと勇者とか最強とかってハーレム築いていたりモテてる印象あったのにな。

現実って厳しい。

まあ、今回はみんなの役に立てて良かったな。

しかし俺の円満家庭生活はいつになったら実現されるんだろうか?


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