第16話

昼休み中、雑談の中で思い出した俺はノイシュくんに訊ねた。

「ノイシュくん、図書館の場所を教えてよ」

俺がそう言うとノイシュくんはとても驚いた顔をした。

「美味しいものがあるお店とかじゃなくてですか?」

「ノイシュくんが俺をどう思っているかよく分かったよ」

「冗談ですよ。でも、図書館へ行って何をなさるんですか?」

「いや、この世界のこととか他の国のこととかまだまだ知らないことだらけだから時間もあるし勉強してみようかと思って」

俺がそう言うとノイシュくんはまたとても驚いた顔をした。

「サハラさんが自主的に勉強をするなんて……。いえ、でも僕で分かることがあればご協力しますね。とりあえず図書館の場所ですね。地図を書くので待っていてください。この役所の近くですから迷うことはないと思いますよ。でも、美味しそうなものや知らない人に着いて行ったらいけないんですからね。気をつけてくださいね」

ノイシュくんが俺のことどう思っているかよくわかったよ。

「ありがとう」

年下に変な心配をされていると知って微妙な気持ちになりながら手渡された地図を見ると確かにこの役所から然程離れていなかった。

「今度の休みに行ってみるよ」

「はい。勉強頑張ってください」


「と、いう訳で図書館に来たんだ。静かにしていろよ、リリィ」

「分かったのだわ!」

ようやく訪れた休日に図書館へ行こうとアパートから出たら待ち構えていたかのようにリリィが現れてそのままカシワギさんと三人で図書館へやって来た。

図書館は三階建で蔵書もかなりあった。

これだけあれば通い甲斐がある。

とりあえず適当に他国の事が分かりそうな本を片っ端から読んで思った。

これ絶対各地にチート能力者いただろ。

『勇者』と呼ばれる人も過去にはいたらしい。

よかった、俺だけじゃなくて。

ていうか他国には精霊を使役して食洗機や洗濯機みたいに活用しているところもあるのか!?

いいのか!精霊!そんな扱いされてて!!

もっとこう…厳かなもんじゃないのか!?

この国ではそこまで妖精に対してフレンドリーじゃないから手洗いだぞ。真似したい。

いや、世界を制する魔王もゆるいもんな、この世界に期待するのはやめよう。

しかし他国の召喚された地球人、オコノミヤキとかヤキソバとかタコヤキとか露店か!?

流行らせるほどすきなのか!?俺も好きだけど!

他国の食事情を中心に色々調べてもう一度勇者が顕現したとの文言を見直す。

勇者。

リリィが魔王として三百年前にこの世界を平定した以前に現れた存在。

その時もこの勇者には役目がなかったんだろうか?

調べても特に目立った事件はない。

俺と同じように食って飲んで仕事して毎日を過ごしていたのかもしれない。

ふと本から目線を上げると前の席でカシワギさんは本日の献立という本を読んでいるしその横ではリリィが世界のスイーツという本を読んでいた。

三人とも食関連の本なのが地味にウケる。

俺の抑え切れない笑いにより口角が上がったのが分かったのか鋭くカシワギさんが本から俺へ視線を動かした。

「なにか?」

「いいや、平和だなぁと思ってさ」

「当たり前なのだわ!そうなるように私様が頑張ったのだわ!」

「うんうん、えらいえらい。でも図書館では静かになー」

リリィを褒めつつ注意すれば今度は小声で「分かったのだわ」と返ってきた。

「なあ、リリィ。この本に以前の勇者の事が書いてあるんだがリリィはあった事があるか?」

「あるのだわ。当時のリリィはもっと小さくても魔王として勇者と対峙したわ。でも、そいつもリツみたくやる気がなくて毎日人間達と楽しんでいたわ」

そりぁ現在ですらこんなに可愛らしい魔王様が更に小さな幼女になっていれば戦う気すら起きないだろう。

よかった。前の勇者に良識があって。

「でも、三百年前には魔族と人間の間で争いがあったんだろう?その時はどうしたんだ?」

俺の単純な疑問にカシワギさんもリリィも顔を曇らせた。

やばい。まずい事聞いたかな?

「私様は人間と争いたくなんてなかったのだわ。でも、人間達が魔族の領域にまで足を踏み込んで魔物を素材として狩り始めたのだわ。私様は王として臣下である魔物が非道に合うのをを放って置けなかった。これが開戦の始まりだわ。でも、並の魔物相手ならともかく人間が魔族に勝てるはずなんてない。私様達の一方的な蹂躙になってしまったけれど、人間達が対魔族用の武器を開発していきこちらも引くに引けなくなっていったのだわ」

人間がやらかしたパターンか。

どこにでも目先の利益を求める奴はいるもんだ。

「よく、平和条約なんて結べたな」

俺の言葉にリリィが真っ直ぐ向き返して告げた。

「私様の元にカッシュという村人が来て和平を申し込んできたのだわ。私様は偉いから人間の平民の言葉にも耳を傾けて私様が世界を制するならこの無益な争いはやめてあげると言ったのだわ。それで色々あってカッシュが人間の代表になって私様達魔族と人間の架け橋になって争いは終幕したのだわ」

「そうだったのか……カッシュって奴も平和が良かったんだろうな」

リリィは自分の服を握り悲し気に呟いた。

「カッシュ、いい奴だったのに寿命なんかで数十年で死んでしまったのだわ…リツもいつかは死ぬのよね?」

「ああ、死ぬだろうな」

「勇者でも?」

リリィが掴んでいた服を強く握る。

「勇者でも、人間だからな」

カシワギさんは少し困った顔をしていた。

「ユキみたく魔族にしたら数十年の寿命より長生きするのだわ。魔族になってみない?」

顔を上げて提案されたが俺は首を横に振った。

「いいや、俺は俺として生きたいな」

リリィは頬を膨らませた。

「……分かったのだわ」

「せっかく誘ってくれたのにごめんな」

リリィの頭を撫でると、リリィは消え去りそうに呟いた。

「死ぬ時は、カッシュの時のようにリリィも看取ってあげるのだわ」

「ああ、よろしく頼む」

魔王に看取られる勇者か、それもありだよな。

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