第29話 VS炎の魔王編5 防衛編 狂闘頭蓋


「これって……ヘルム?」


 雄二は渡された漆黒のヘルムを見て、そうこぼす。


「マスターが、雄二にはこれを渡しておけって……私もの性能は知識にないので……」


「ユニーク防具!?」


 ガイドは、結奈の滞在で溜まったDPで買ったから結奈を守るために使え、と言っていたことを伝える。


「でも……ユニーク防具なんて高いんじゃないのか?」


「……結奈さんは、敵意こそないですが、十全の状態でコアを攻撃できるため、DPがある程度は入ります。」


「でも……迷路の最初にしかないとはいえ、罠だけでも1000DPほど使ったはずだ。それに、この剣ディメントかって10000ものDPをした。これからはもう少し強い魔力を感じるが……」


 漆黒のヘルムを持つ雄二に、いつの間にか結奈と真希が追いかけ合いをやめて覗き込んできていた。


「それって……」


「あー! 絶対私たちのよりいいやつでしょ!」


 2人が、雄二の持つヘルムを見て理解する。


「……150DP」


「「「え?」」」


 不意に、ガイドがそう呟いた。


「150DP。それが、今の結奈さんから1時間に入るDPです。」


「え……敵意なくてもそんなに入るの……?」


 真希が意外そうに聞く。


「真希さんの場合は、片足が立ってるのがやっと……治癒士じゃなきゃ致命傷レベルの怪我を負っていたのと、攻撃力が低いからでしょう。」


「それに、アイっちに何か特別な感情とか……」


「……は!? 結奈、あんたまた何いう気よ!」


 再び2人は追いかけっこを再開した。


「とにかく、それが30日。1日は24時間なので、準備期間の総取得DPは……108000となります。」


「じゅ、十万はっせ……!?」


 そう、アイトは炎の魔王と会ってから、ダンジョンを開いてもいないのに108000という莫大なDPを得ていたのだ。

 これは、きっと龍の魔王の総取得DPにも及ぶと言えるだろう。


 いつもギリギリのアイトには夢のまた夢レベルのDP量だ。


「いくら結奈さんとはいえ数値ですが……ここは現実です。安全にDPを手に入れられた……出し惜しみして負けたらなんの意味もない、とのこと。」


「……まあ、そうだが……これは一体?」


「それは、90000DPです。マスターが上手く使え、とのこと。」


 ガイドは、ヘルムの機能の説明をする。


「90000……そうか……だが……俺にこんなもの……」


「……」


 雄二は、ヘルムを持つ手を震わせた。その手には、90000DPの重みがある。


「俺にそんな責任を……果たせるかどうか……」


 雄二は、自分に掛かるに、尻込みする。

 無理もない。あのディメントと比べてもほぼ一桁、額が違うのだ。


 それほどの期待を背負っている……雄二に、普通なら何か励ましの言葉をかけるだろう。

 応援する言葉をかけるだろう。


 だが、この水晶ガイドは、


「……そんなことは、どうでもいいのです。」


「えっ?」


「あなたができなければ、マスターが、私が、配下たちが、あなたが、────結奈さんが死ぬだけです。」


「っ……!!」


 雄二は、ガイドの冷淡な言い分に、水晶の乗る台座に置く手に力を入れる。


「心配したら何か変わるのですか? 今私たちは、あなたに頼るしかないのです。あなたはできなければ終わりですよ?」


「……っ言ってくれんじゃねぇの」


「……言わなければ勝手にくたばりそうでしたからね。」


「……なんか、お前も魔王に似てきてないか? どうしてさらに追い討ちをかける……」


 そう言いつつも、雄二は口角を釣り上げた。


「マスターが、雄二さんは“背水の陣”が合う……と。」


 ガイドは、フフッと笑いながら言う。


「……そんなことは覚えてんのかよ。なら、一発ぶん殴るためにも……もちろん、結奈を守るためにも──勝たないとな」


 それに対して、雄二もフッと笑って返す。


 事実、雄二は追い詰められるほど、実力が発揮できる……いわば“主人公体質”なのだ。


 まさに【背水の陣】がといえるだろう。


 そしてもう一つ。

 アイトにはもう一つの懸念があった。


 それは、雄二を仲間にした時。


『あいつは……あの時、なんというか、一瞬“暴走”したような状態になったんだ。武器に紅いオーラが纏わりついてさ……』


 ガイドは、そうアイトが言っていたのを思い出す。

 実際に目にしたわけではないから……どんなものかはわからないが……


『主人公みたいに、ピンチになったら暴走したりして強くなんじゃね? って』


(もしあれなら……とあのヘルムを渡したのかもしれませんね)


 ガイドは自分のマスターがそれほどまでに色々と考えていたなら、なんといいマスターを持ったのだろうかと、感慨する。

 そして、才能が無いながらも、ギリギリでダンジョンを経営する称賛を送る。


「……雄二! 敵が来るよ……!!」


「……ああ! ガイドさんよ、行ってくるぜ! あいつに……魔王に伝言を頼む!」


「……はい。」


 雄二は、コアルーム出口で一度振り返ってガイドに言う。


「……死ぬなよってな!」


 そのまま、雄二はガイドの返答を待たずにコアルームを飛び出していった。

 ガイドは、、フッと呟く。


「……それ、別れ際にも言ってましたよね」


=====


「……来たか。」


 雄二は、“隊列”の先頭で、最後の迷路が破壊されたのを見る。


「クソが……! あ? 終わりか?」


 迷路の残骸を掴んで出てきたのは、全身がオレンジの鬼……ビートだった。

 その体は、半透明である。


 後ろには、500近いモンスターたちが控えている。


「お前は……その剣は!」


「よお。よくたどり着いたじゃねえか──“幽鬼”ビート」


 ビートは雄二の持つディメントを見て、見つけた、と口元を歪めた。

 それに、雄二も“鑑定”で見た情報をもとに、口元を歪めてビートの種族を言い当てた。


「ほお……? お前、鑑定士の類いだったのか。いかにも、我輩がCランクの……ビートだ」


 ビートは、Gスケルトンたちに当てつけるように、Cランクとわざわざ言って威圧する。


 だが、スケルトンたちは無言で矢を放つのみだった。


「チッ……中身もない雑魚モンスターが。そんなもん効くか!」


 ビートが腕を一振りすると、発生した炎の風は、矢を焼き払い、前方のスケルトンたちと雄二を襲った。


「っ……!」


 盾を持つ“タンク”スケルトンはなんとかそれを塞ぐが、“斥候”スケルトンなどは炎の風に巻かれて崩れ落ちる。


(一瞬で10のスケルトンを……!)


 雄二たちは、のビートの強さに、緊張感が高まる。


「ふん……お前らの誰か……いや、そこの瀕死の女真希じゃないどちらかが本当の魔王なんだろう? 俺のことを覗いてたんだろうが……無駄だ。」


 ビートは、主に雄二を見ながら、雄二と結奈に問いかける。1人増えていることにかなり驚いたようだが、武器を松葉杖がわりにしてることから脅威ではないと判断したのだろう。


「は? いや、違うが?」


「……お前らが今まで見ていたのは俺の力のほんの一部だ。お前らを速攻で蹴散らすために魔力を温存してきたんだよ。つまり……」


 ビートは雄二の素の否定を無視して、雄二に指を向けて言う。


「止められるとでも思っているんだろうが……そんなことは到底不可能だってことだ!」


 ビートはそう言った瞬間、頭上に3“鬼槌”を出現させた。


「3つ……!?」


 結奈が焦った声を出す。

 結奈は魔法使いだから知っているのだ。魔法は同時に打てないが、ほんの僅かなラグを許容すれば連続して放つことで弾幕を張ることはできる。

 だが、連続して撃つごとに、体には負荷がかかる。それに、威力も少しづつ減衰する。体内の魔力回路魔力が巡る血管のようなものが疲れるためだ。

そのため、一度魔法を打った後は数秒の冷却時間を要するのだ。


(それを詠唱魔法で埋める、ということも難しいはず……。少しづつ魔力回路を使うことに変わりはないから……なら、何が狙い?)


 結奈は、戦闘開始からいきなり魔力回路に負荷をかけるビートのやり方に、何が狙いかと思考を巡らせる。

 だが、当然戦闘が開始した今、そんな時間は無かった。


「はっ! “鬼槌”!!」


 ドオオオオン!!


 ビートはきっちりと魔法名を叫び、3本の“鬼槌”を振り下ろす。

 それは、盾を構えていたスケルトンを盾ごと叩き潰し、雄二たちの前線を壊滅させた。


「っ!」


「ハッ! どこ見てんだあ!?」


 巻き上がった土埃の中から、ビートが煙を突き破って飛び出してきた。

 ビートが上に掲げた手の先には、“鬼槌”が出現している。


「死ね! “鬼槌”ィィ!!」


 それは、雄二の脳天目掛けて振り下ろされて……直撃した。


(速いっ……! 雄二君は反応できた……!?)


 後方でそれを見ていた真希は、ビートのスピードに目を見開いた。


「…………雄二いいい!!」


そして、結奈は雄二の名を叫ぶ────


「ガハハっ! 雑魚が──!?」


 ビートは勝利を確信して高笑いをして……その表情を強張らせた。

 土埃が晴れた先には……


「──“スラッシュ”」


 の雄二が、ヘルムの光る眼の奥で、真っ直ぐにビートを見据えていたからだ。


〜〜〜〜〜

狂闘の蓋鎧ディメルム

防御力+135 魔剣士がかつて着けていたヘルム。狂気を封じる力と、を持つ。真にでないと扱えず、狂気に飲まれることだろう。

〜〜〜〜〜

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