第27話 VS炎の魔王3 防衛編 イライラ☆大迷宮


=====


「……そこが地獄のイライラゾーンってことも知らずにな、なんて」


「きゃー雄二カッコイイ!」


「かっこいいかしら? てか、あんたら……恥ずかしくないのかしら?」


 コアルーム。

 ダンジョンコアガイドを通して、雄二、結奈、真希の3人はその様子を見ていた。


 雄二の手には黒と紫が入り混じった禍々しい剣……ディメント狂気で満たせが。

 結奈と真希の手には魔導士の杖が握られている。


「それはそれとして……もうそろそろね」


 真希は、ついに訪れた生死を分ける戦いに、杖を抱きしめて瞑目する。

 その片足は、相変わらず穴が空いている。小さい穴だが、貫通してるだけあってその痛みは見た目以上だろう。


 そんな真希に、


「俺たちなら大丈夫だ。魔王も言ってただろ? たくさん経験値稼いで来いって。」


 雄二も、1ヶ月間アイトに付き合っていただけではない。

 毎日狂気ディメントを押さえ込む訓練をしていたのだ。今では、集中すればほぼほぼ狂気は抑えられるようになった。

 狂気に飲まれると、痛みを感じなくなるが、アイトの命令を拒否できる余地が生まれてしまうため、アイトは必要な時以外制御できるよう死ぬ気で訓練させたのだ。

 かなりギリギリだったため、完全ではないが、こうして剣を持っていても他人を気遣えるほどにはなっている。


「そうね……アイト様が負けるとは思えないわ。」


「その通りです。マスターは絶対に生きて帰ってきますから。」


「わー、2人ともバチバチだね〜」


 真希と水晶ガイドがお互い睨み合って(?)バチバチと見えない火花を散らし出す。


「はあ……。お前ら、敵の行動をよく見ておけって魔王に言われただろ? ほら、魔王がいないから見られていないと思ってスキル連発してくれるかもしれない……って言ってただろ?」


「魔王が魔王がって……雄二も何か作戦考えてよ〜」


「はっ!? いや、だって俺ら魔王の部下だぜ? 思いつかなくても、与えられた命令を完遂すればいいんだよ! てか、結奈も何も考えてないだろ!」


「私は魔法打ちやすいようにあの隊列を考案したんだよ!」


「え……あれ、アイト様の案じゃ無かったのね……。」


 3人は、自らの命運をかけた戦いであるのにも関わらず、のやりとりをする。

 これも、アイトとガイドによる黙秘作戦のうちだ。


〜〜〜〜〜

「あんま気負う必要はねえぞ? 生き延びることが優先だ。魔王ボスは俺が殺ってくる。あ、雄二は敵を残さず経験値に変えろ? 魔王倒すと消えるからな、勿体無い。」

〜〜〜〜〜


「……なんか、あいつが残した言葉思い出すと腹立ってきたな……なんで俺には厳しいんだよ……」


「あら。私もちょうど同じこと考えてたわ。でも、それはきっと……」


「雄二のことを1番、信頼してるからなんじゃないかな!」


 真希の言葉を途中で、結奈が遮って答える。


「は?」


「私はできるだけみろ。って言われたよ? つまり、雄二の腕を信頼していて、私にで経験値を奪えって言うんだよ! これのどこが信頼じゃないの?」


「そうね……。私は癒せ、だったわ。もちろん、怪我したら結奈も言わせって言われたけど……雄二が敵を一体も通さないと考えてるんじゃないのかしら?」


「……そうか。あいつ……」


 雄二はそれを聞いて、フッと笑う。


「不器用なやつだ」


「え、雄二昔っから針で指さしたり……不器用だったじゃん?」


「いや、そういう意味じゃないだろ……てか分かってんだろ!?」


「へへ……当然! 雄二のことならなんだってわかるよ!」


「結奈……」


「……あんたらさあ、私の気持ちも考えたことある? この空気よ、やっぱり牢獄の方がマシなんじゃないかしら」


 結奈が雄二を揶揄からかったかと思うと、急に惚気のろけだしたのを見て、真希がため息混じりに呟く。


「……とにかく皆さん、これを見てください」


 ガイドが、ダンジョンの様子を映して3人に促す。

 とりあえず、3人は魔王アイトに言われた通り、敵の事前情報集めに集中することにした。


=====


 その頃、ビート率いる炎の魔王の軍勢。


「だークソ! 鬱陶しい迷路だな! いっそ壊してしまうか!?」


『ビート様、あまり力を使わない方がいいのでは?』


 苛立つビートに、赤いゴブリンが言う。


「いや……命令はさっさと攻略せよだ。どうせあの剣使い以外雑魚……剣を奪えたらあいつも雑魚だ。ここの魔王カスが何を思ってご主人のダンジョンに単独で入ったのかは知らないが、何にせよ魔王のいないこのダンジョンをクリアしてしまえば解決する。」


 迷路の上から弓矢を放ってくるスケルトンに向かって“ファイアボール”を打ちながら、ビートは部下に向かって凶悪な笑みを向ける。


「お前ら! 壁を一直線にぶち破れ! 方角を間違えるな? こっちだ!」


 そう、ビートは落とし穴に弓罠、毒ガスに槍罠(25DP)などとんでもない数の罠と、チクチクと厄介な弓矢を放ってくるスケルトンに辟易し、迷路を破壊して道を作ろうと強硬手段にでたのだ。


ドドオオン!!!! チュドオン!!!!


 凄まじい数の魔物から凄まじい数の魔法が放たれ、次々に壁に直撃。どんどんと壁を穿っていき、道中の罠ごと吹っ飛ばす。


「ガハハハハ! どうだ! こんなものでご主人の配下である我輩を止めることなどできんわ!!」


 ビートは高笑いをし、直線上に穿たれた壁を通っていく。


 するとすぐに、開けた空間にでた。


「ほう、ここは……?」


『リーダー!』


「フンッ! また弓矢か? 小癪なあ……!?」


 ビートは土埃の奥から放たれた矢に瞬時に反応し、それをはたき落とす。

 次々と飛来するそれを全てはたき落としながら、土埃が晴れるのを待つ。


 が。土埃が晴れた先には……


「……は?」


 先ほどまで何も無かった空間に、再び大迷宮があった。


=====


「あはははは! 見てよ! あの顔! あはははは! アイっちも中々鬱陶うっとうしいこと考えるねぇ!」


「くくく……それでこそ魔王だ」


「フフフ……アイト様、流石です。やはりこうなることまで考えて……」


 コアルームでは、3人がに賞賛を送っていた。


「……マスターの言う通りですね。」


 ガイドが、ダンジョンの様子を映しつつ、そう言う。


 そこには、まんまとはまってビートたちの様子が映っていた。


=====


「だああああ! もう一度だ!破壊しろおお!」


『は、はい!!』


 ビートの怒りの咆哮に、ビートの部下たちは急いで魔法を乱発する。


 ドゴオオオオン!!


 再び、直ぐに迷路に横穴が開く。


「チッ……さっさと駆け抜けるぞ!」


 ビートは、奥に見えた広間に向かって走り出す。

 ……だが、いざついてみると、目の前が壁の、何もない狭い空間だった。


「なっ……!? 方向を間違えたのか!?」


 もしそうならかなり無駄な魔力を使った……とビートは焦る。


『ビートさん! あれは!?』


「何……っ下がれっ!!」


 ビートは部下の声に従って上を見て……急いで後退した。

 天井付近から、10個ほどの爆弾が降ってきたのだ。


 ボスンッ!!!!


 それは、地に落ちると轟音とともに煙を噴き出した。


「な、なんだこれは! ゴホッゴホッ……もしや毒か!?」


 ビートは見たことのないアイテムによる攻撃に、毒を疑うが、どうやら違うらしい。

『!? ビ、ビートさん!!』


「……ッ! 馬鹿なっ……!!」


 次第に煙が晴れていき、視界が元に戻る。すると、そこには……


「どういうことだ!? なぜまた!」


 先ほどのように、何も無かったはずの狭い空間に迷路が建っていた。


=====


「くく……やっぱり困惑してるな」


 コアルームの3人は、ビートたちの様子を見て口元を歪める。


 これがアイトの作戦だ。


「“コピー筆”……だっけ? 知らないみたいだね」


「一回なぞったものをそのまま専用紙に写す……それだけですが、がある限り、騙され続けるでしょう。」


 “コピー筆”……一回使うと壊れてしまうのに1500DPもする高級筆だ。これで、アイトはをコピーした。


 写した布を天井の裏土壁を天井につけて隙間を作ったにいるスケルトン(斥候)が垂らして、煙幕と共に引き上げる。

 こうすることで、奥にあった迷路が突然現れたように見える、という寸法だ。


 ビートが困惑してるのは、事前に魔王からダンジョンバトル中は建造物を立てれないと聞いていたからだろう。


「なんか4回も必要だった6000DPもしたと文句言ってたわね……でも、その分効果があったみたいで良かった。」


 真希はそう言いながら、迷路を破壊していくビートの様子を見る。


 そう、現れた迷路すらアイトの罠なのだ。


 ダンジョンの階層を増やすのには10000ものDPがいる。それに、迷路を何個も置けるわけじゃない。

 そこで、アイトは使ってないもの使い道のない×モンスターを使うことにした。

 そう、泥人間1DPだ。


 炎の魔王というくらいだから、火の魔法を中心に使ってくるだろう。だが、泥人間は火に耐性があるのか、×付きGランクでありながら、結奈の“ファイアボール”人間の中でも相当熟練度が高いだろう魔法を受けて、死ぬまで3秒ほどあったのだ。


 死んでるじゃないかって?

泥人間は、死ぬ時泥になって溶けていくのだ。


 つまり、死んでから3秒ほど、泥となって魔法を軽減してくれるのだ。


 アイトは、そんな泥人間を迷路の入り口付近を除いてギッシリ敷き詰めたのだ。

 奴らが迷路を確認せずに破壊してくるだろうと踏んで、迷路の入り口のみ偽装してスペースを押さえ、この仕組みを何個も何個も作ったのだ。


「こっちはこんなにも効率がいい一箇所につき1000DPのにな、ってアイっち絶賛だったしね!」


「……ほら、雑談してないで敵の魔法を把握してください。いつかはこちらまで辿り着きますよ。」


「もー、厳しいな〜……まあ、アイっちが負けたら私たちも……雄二も死んじゃうし、ちょっくら本気出しますか!!」


「結奈……」


「あんたら懲りないわねぇ……」


 ガイドの忠告に、再び3人は水晶を覗き込む。


=====


「ははっ! これでどうだ! 渾身の迷路なんていくらだしても無駄だ!」


 通常は大きさ的に、3個しか迷路は置けない。

 たった今3個目の迷路に横穴を開けたことで、ビートは勝ちを確信していた。


(剣は……魔王が持って行ったのか? まあ、まだあの人間がいるから……そろそろでてくるか?)


 ビートにはもう剣を持って帰ってコアを破壊することしか脳になかった。

 だが再び、その期待は裏切られることになった。


「──んなバカな」


 ビートは、口を開けてポカン、とする。

 その目線の先には……


「いつまで続くんだよ!!」


 


 先ほどと変わらない新たな迷路があった。

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