第21話 新たな仲間



「私をこんな気持ちにさせた責任、取ってよね、魔王様!」


 真希は俺の手を取って、華やかな笑顔を見せた。


 と、その時。


「魔王、帰ってきたぜ」


「いっぱい改善点あるよー? それで……真希ちゃんは、どう?」


「!!」


 結奈と雄二が少し不安そうに俺と真希を見た。


「マスター! ご無事で!?」


「お前ら……気づいてたのか?」


 俺は目を見開いて雄二たちに聞く。


「ん? わざと分かるように言ったんだろ? バレバレだ。」


「魔王さん誤魔化すの下手くそだよね……。誰だって分かるでしょ。……ププッ」


「せめて私はお側に……」


 ……どうやら、全員気づいていたようだった。


「……マジに全員エスパーなんじゃねぇの?」


「フフ……そんなわけがないでしょ」


「「!!」」


 俺の呟きに、一番近くにいた真希が反応した。


 真希は、2人の方に向かっていく。


「え、えっと……」


「真希ちゃん?」


 困惑する2人をよそに、真希は2人のまん前までツカツカと歩いていく。


「……っ」


「あ、あの……」


 雄二が結奈の前に腕を出して、守る意思を見せる。


 そんな彼らを尻目に、真希は勢いよく頭を下げた。


「……ごめんなさい!」


「「!?」」


 驚く2人をよそに真希は謝罪の言葉を贈る。


「私……あなた達に強く当たってしまった。勝手に、誰も助けてくれないって思ってた。」


「天野……」


「真希ちゃん……」


 天野……真希の苗字だろうか。

 そういえば2人は、同級生だと言っていたな。もしかして、元々仲良かったのか?


「でも、私は見つけた。私の、魔王様に、教えてもらった。」


「……」


 さっきは勢いであんな風に口走ってしまったが、思いは本物だ。

 俺は恥ずかしくなって、頰をかく。


「私は魔王様を、あなた達を、信じることにした。これで信じるのは最後。……裏切ったりしたら、許さないんだから。」


 真希は、2人をまっすぐ見つめて言った。


「おう! 当たり前だ! 後悔なんてしたくねぇし、させない!」


「うん! また、仲良くなれるね!」


 それに2人は、笑顔で返した。


「……真希」


「何かしら?」


「仲間になってくれてありがとな」


 俺は真希に感謝を述べた。

 すると真希は、顔を赤らめて慌てて返した。


「なっなによ! あんたは魔王らしく威張ってりゃいいのよ! 別にあんたのために仲間になったわけじゃないし!」


「えっ」「……なっ!」


 そんな真希に、俺より早く結奈と、ガイドが反応した。

 水晶が忙しなく点滅してる……


 あー……そうか。あいつは過去に囚われないようになりたくて、やられっぱなしが嫌で、俺の仲間になったもんな。言われてみればそうか。


「あー……そういえばそうか。悪い。」


「なっなによ! 謝ることないでしょ!」


 んん? よくわからん。ほれみろ、雄二も首を傾げてるぞ。


「天野真希……」「ツンデレ……」


 ガイドと結奈が戦慄の表情を浮かべて呟いている。

 いや、まあガイドの表情は分からんが……


 ツンデレってなんだっけ……


「ほ、ほら! あなた達、ダンジョンの改善点見つけたんじゃなかったの? 時間は有限よ、早くしなさい!」


「え? お、おう。おい、魔王」


「あっ私、写真撮ったよ! ガイドさん、こっちきて!」


「結奈さん……私は動けませんが。」


 あっという間に、俺の周りは騒がしくなった。


 以前と違うのは、そこにそっぽを向きつつも、真希が笑っているところだろう。


 少し前までは、ベッドで寝たきりだったのだから。


「ぅっ……」


 だが、真希の足は治ったわけじゃない。

 時々痛みに顔を埋める姿が確認できる。


(真希のためにも……早くDPを貯めないとな)


 ダンジョンバトルでも、普通のダンジョン攻略でもそうだが、コアを破壊するとその魔王の保有DPが手に入る。あと、ダンジョンランクの一つ下以下のランクを持つ魔物が仲間にできるんだっけ……


 ダンジョンバトルでは、そんなにDPを残すことがないだろう。

しかし、それでも大量の収入が期待できる。


「……大体わかった。早速改良しようと思う。じゃあ結奈はレベル上げだな。」


 俺はスケルトンを200体召喚した。墓地に召喚したため、少し強いが経験値が増える。

 結奈にとっては全く問題ないだろう。


 雄二はもう【奴隷】なので、レベルを上げられない。自主的に鍛錬を積んできてもらうしかないので、素振りでもしとけと命じる。


「いや、素振りって……」


 と雄二が言っていたが、無視して言ってこいと命じた。


 何か攻撃スキル覚えたらいいのにな……


 俺は淡い期待を寄せつつも、残った真希の方を向く。


「……で、真希か。」


「……何よ、文句あるわけ?」


「いや、なんの文句だよ……」


 俺はちょっと刺々しい真希に内心ビビりつつも、【隷属】について教える。


「……というわけなんだ。真希はもう毎時1すらDPが入らない。信頼の証だとは思っているが……それなら、指示が通せた方がいいだろ?」


「ふぅん。私が反抗しないように【奴隷】にするってことかしら。」


「うっ……まあ、それもそうだな。まあ、すぐにとは言わないし、別に戦争までじゃなくてもいい。心の準備ができたら、言ってくれたらいいから。」


 俺は真希にそう伝えた。心の準備は必要だろう。なにせ名目上【奴隷】になるわけだ。特に女性にとっては不安もあるだろう。だからこその提案だったが……


「いいよ」


「そうか……え?」


「なによ。用意しなさい。心の準備なんて、あなたの仲間になった時に済ませたんだから」


「……そうか。」


 真希は平然と言ってのける。俺は自分に苦笑しつつも、真希を配下にする準備をする。


「それに……あなたの本当の仲間になれるんだから……」


「ん?」


「な、なんでもない!」


 真希がぽつりと何かを言ったが、【隷属】発動準備をしている俺は聞き逃してしまった。


 なんでもないって言ってるからいいか。


 しばらくすると、真希の下に魔法陣が現れた。


「えー、さっき説明はしたな? 俺、王の魔王は真希、そなたを配下として引き入れる。」


「私、真希は魔王様に一生忠誠を近い、身も心も捧げます。」


「……は? っておい!」


 俺が真希の言葉にツッコミを入れると同時に、魔法陣が一際大きな輝きを放って、消えてゆく。


「ふう……これで私も、魔王様の配下ですね。」


「おい、そこまで言わなくてもいいって言ったよな!?」


 何食わぬ顔で微笑む真希に俺は言うが、真希に追い討ちをかけられる。


「ああ……。私の、捧げてしまいましたね……。ちゃんと責任取ってくれるんでしょうか」

 

 真希は頰を染めながら、上目遣いに俺を見る。


「おい、それどう言う意味だ!? 配下としてだよな? 配下として守れってことだよな!?」


「……真希、受けて立ちましょう」


 俺の配下はどいつもこいつもからかいやがって……

 いや、狂信よりいいのか?


 俺の問いかけに真希は答えず、ガイドも今までで一番りんとした声で意味のわからないことを言いだした。


 一瞬にして混沌こんとんと化したコアルームで、俺は頭を抱えるのだった。

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