第1話 そのラブレター、危険物につき①

 高校二年生の二学期初日。

 夏休み明け初日ということもあり、放課後にもなるとどこに遊びにいくかで盛り上がっているクラスメイトが散見された。


 俺も俺で、誰かと遊びに行くのかと問われれば、答えはノーだ。


 なぜなら、俺は一人が好きだからだ。ボッチこそ最強で至高。

 本気でそう思っている。


 ゆえに、放課後はさっさと帰る。

 人波を掻き分け昇降口に辿り着いた俺は、慣れた手つきで自分の下駄箱を開けた。


 ──と、そこであるモノに目が止まる。


(ラブレター?)


 俺のスニーカーの上に、封筒が置かれていた。


 ハートを模したシールで封を閉じてある。


 自分で言うと反感を買いそうだが、俺の顔立ちはいい部類だと思う。

 女子から好意を向けられることも少なくない。だからラブレターを貰うことに動揺を覚えたりはしなかった。


 早速、封を切り、中身を確認する。


『私の愛する結弦ゆずるくんへ。

 突然手紙を差し出す無礼をお許しください。回りくどいことを言うのは苦手なので、単刀直入に言います。私を彼女にしてください。桜坂明里さくらざかあかり


 桜坂明里。その名前に、聞き覚えはなかった。


 しかし俺の下の名前は結弦。人違いという線は薄そうだ。


 返事をしたいところだが、どこで待っている的なことも書かれていなかった。


 俺は少し考えた後、帰路に就くことにした。

 あてもなく桜坂さんを探しても時間の無駄だからな。


 まぁいずれ、桜坂さんの方からアクションがあるだろう。


 翌日。俺は目覚まし時計の不協和音で目を覚ました。


 寝ぼけ眼をこすりながら、俺は乱雑に目覚まし時計を止める。


(妙だな)


 そう思ったのは、今日が土曜日だからだ。


 休日は目覚まし時計をセットせず、寝たいだけ寝るのが俺の流儀。


 寝ぼけてセットしたのか?

 そんな疑念を胸中に蓄えながら、俺はスマホを手に取る。


「は?」


 日付を見て、俺は素っ頓狂な声を上げていた。


 九月一日……金曜日だ。


「う、嘘だろ?」


 ウェブサイトを開く。

 昨日と同じニュースが羅列されている。


 スマホが故障した? 


 リビングに降りて、テレビを確認する。しかし、映っているのは昨日と同じ映像だった。 


 妹に聞いても、「頭だいじょぶ? 兄貴」と心配されるだけだった。


「とんでもなくリアルな正夢を見てたってことか?」


 考えた末に出た結論は、それしかなかった。


 俺は深いため息を漏らすと、乱雑に頭を掻いた。


 せっかく休日だと思ったのに、とんだ災難だ。

 何はともあれ、サボるわけにはいかないため、学校に行く準備を始めることにした。


 俺にしてみれば、二度目の金曜日。

 驚くことに、クラスメイトの退屈な会話の内容に変化はないし、授業の内容にも一切の変化がない。昨日取ったはずの板書の内容を、再びノートに書き記し、国語の時間では小難しい文章を朗読させられた。


 そして放課後、俺の下駄箱には封筒が投函されていた。


 これも同じだ。

 正夢って、すごいな……。


 感心しつつも、手紙の中身を確認する。


『私の愛する結弦くんへ。

 突然手紙を差し出す無礼をお許しください。回りくどいことを言うのは苦手なので、単刀直入に言います。私を彼女にしてください。

 放課後、屋上で待っています。いつまでも待っています。桜坂明里』


 ふむ。やはり内容に変化は……ん? 


『放課後、屋上で待っています。いつまでも待っています。』という文言が付け足されている。


 少し動揺したものの、すぐに平静を取り戻す。

 夢で見た内容を一言一句同じである方がおかしい。


 多少なりとも、ズレはあって然るべき。むしろ、この程度しか差異がないことに驚くべきだろう。


「はぁ」


 ため息を吐く俺。


 場所の指定がある以上、無視はできない。

 俺は首筋のあたりを掻きながら、屋上へと向かった。

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