第2話 違う世界なのに物理法則が同じだぞ!!

 原子は必ず全体で中性となっている。細かく見てみよう。

 電子は1つにつき-1の電荷を持つ。この1という数字は大した問題ではない。2でも3でも何でもいいが、1が楽だから1にしてあるだけだ。

 一方で原子核は陽子と中性子というものの2種類で構成されている。中性子はその名のとおり電気的に中性だ。一方で陽子はプラスの電荷を持つ。水素原子は原子核が陽子のみで、あとは電子1つで構成されているので陽子の電荷は+1だ。

 他の原子を見てみよう。ヘリウムHeは原子核が陽子2つと中性子2つ、原子核に加えて電子2つで構成されているのでこれもやはり全体で中性だ。


 さて、ここで新たな知識をもう1つ。

 皆はプラスの電荷とマイナスの電荷が引き合うということは知っているだろうか。それは先程言ったとおり、どこかで聞いたことぐらいはあると思う。

 こういうのを物理現象と呼ぶ。我々の住んでいる世界には理由は分からないが電荷という何かがあり、それはプラスとマイナスの2種類があり、同符号で斥力が、異符号で引力が生じるようになっている。何故そんなことになっているのかは量子場の理論を勉強してほしい。ちょっと分かった気になれるはずだ。

 少し物理学を学んだ人であればクーロン力が働くといえば通じるだろう。分からない人は携帯端末で調べてほしい。


 ここからがやっと本題だ!!

 つまり、私たちの世界の物理法則では全ての物質は原子でできていて、原子核と電子がちょうど異符号で中性となるということが知られている。

 だがここは異世界だ! そんな物理法則が成り立っている保証はないのだ!!

 もしも電荷が異符号のときに引力ではなく斥力が生じる、という物理法則のある世界であれば、恐らく私の身体はバラバラに吹き飛んでいるだろう。

 そうなっていないのは驚くべきことだ! ここは異世界の癖に私が元いた世界と同じ物理法則が成り立っているということになる!!

 私の驚愕と感動を共感してもらえただろうか。きっとそうだろう。なので記念にもう1度叫んでおこう。


「身体がバラバラにならないぞぉおおおおおおおおおおおお!!」


 他にもまだ驚くべきことがある。それは私が宙に浮いていないことだ。つまりこの世界には重力が働いている……と結論付けるのは実はまだ早計だ。

 まず1つ述べておくべきことがある。それは人間の肉体を構成する力として重力は大して寄与していないということだ。仮に重力が完全に存在しない世界に放り出されたところで私の肉体が崩れるということはないだろう。これについては、無重力空間で人間が活動可能だと実証されていることで理解できるだろう。宇宙ステーションとかがそれにあたる。

 考えられる反論として空気の存在があげられる。つまり大気があるのだから重力があるだろう、ということだ。


 しかし待ってほしい。それは非常に重要なある前提の元に成り立つ推論だ。それはこの世界が地動説に基づいているという前提だ。

 ちょっとジャンプしてみよう。すると私の身体は何かに引っ張られたように地面に戻された。地球上で行ったときと全く同じ感覚だ。

 これだけで重力が存在していると言えるだろうか。私は不足だと考える。


 電気の力などについてあれほど興奮しながらこの世界での力の存在を肯定した私が重力についてこれほど慎重になるのには理由がある。私たちがいた世界では重力というのは信じられないほど小さい力なのだ。

 これを説明するのに最も適している例がある。脳内で想像してくれればいいのだが、床にクリップを置いてほしい。その上から小さな棒磁石を近づけていく。するとどうなるだろう。当然、クリップは磁石に吸い付けられて磁石にくっつくだろう。

 これはどういう意味か。クリップと地球という超巨大な質量を持った物体との間の重力よりも、小さなクリップと地球と比べればないも同然な大きさの棒磁石との間の力の方が強いということを示している。

 それほどまでに電気(ここでは磁気だがこの2つは実質同じものだ)の力と重力にはその大きさについてとてつもない差がある。


 ここでまた新たな知識を1つ。

 皆は力というものが4つしかないことを知っているだろうか。

 それぞれ強い力、電磁気力、弱い力、重力、と呼ばれている。専門的には力とは呼ばず相互作用と呼ぶがそれはいい。

 今紹介した4つは左から順に強く右に行くほど弱い。強いとか弱いとか馬鹿みたいな名前だがこれは本当に正式名称なのでどうにもならない。

 これら4つのうち左の3つは物質の構成に大きく関わっている。逆に言えば私の肉体が保たれている以上、これら3つの力が私が知っている形で存在しているのは大まかには間違いないだろう。

 しかし重力については断言することができない。重力の存在や性質は天体で説明されるべきものだからだ。


 したがって、重力が既知のものかどうか調べるためにはこの天体が……いや、正確には私が立っているこの場所が天体かどうかから調べる必要がある。

 調べ方は色々ある。それこそ先人たちが行ったように天体観測を行い、惑星に該当するものを見つけられると楽だ。

 ちょっと空を見てみよう。おお、この世界の恒星は2つあるのか!! 我々が住んでいた宇宙からしてもポピュラーだと言える!

 地球の恒星は太陽1つだが、殆どの恒星は連星系となっていることが知られている。単独の恒星は珍しい部類に入るのだ。私の天上に見える連星系は重心を中心に回転運動しているのだろうか、気になるところだ。


 恒星は眩く輝いている。あまり直視しない方が良いのも元の世界と変わらないらしい。

 空の色はどうかと言えば、青だ。素晴らしい、可視光の感覚も元の世界と同じなのか……と言いたいところだがそう考えるのも早計だろうか。

 果たして今は昼なのだろうか、それとも夜なのだろうか。私はちょっと考え込む。

 ……恒星が出ている間を昼と定義すればそれで済むことにすぐ思い至った。

 つまりこの世界の昼間の空は青い。このことから言えることはなんだろうか。電磁波についてもやはり全く同じ性質なのだろうか。


 ここでまた1つ解説を挟まねばなるまい。

 皆は電磁波というものを知っているだろうか……という話は少し休憩してからにしよう。

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