素粒子論理論物理学者、異世界に立つ

じぇみにの片割れ

第1話 私の身体がバラバラにならないぞ!

「おぉおおおおおおおおおおお!! 身体がバラバラになっていないぞぉおおおおおお!!」


 私は草原のど真ん中で絶叫していた。気が触れたわけではない。私の目の前の光景そのものが、私が気が触れた結果見えているものでない限りは。

 私は直前まで自室にいた。気がついたら知らない草原で目が覚めた。まず間違いなく異世界転生というやつだ。


 ここで自己紹介をさせてもらおう!

 私は理論素粒子物理学者。専門はQCD相図のhadron相とCSC相間の相転移の理論研究だ。一次相転移だと説明できない中性子星の存在が確認されたため、一次相転移でなくなるような相互作用は何か、いくつか候補がある相互作用のうちどれが妥当かを調べる研究をしていたが異世界に来てしまったのでどうでも良くなった。


 そう、異世界である。私は科学者だがその前に重度のオタクだったので異世界の話は大好物だった。転生できて咽び泣く勢いである。

 実際は咽び泣くほどではないので代わりに絶叫している。


「何故だ、何故身体がバラバラにならないのだ!! これは凄いことだぞぉおおおおおおお!!」


 私は叫び続けていた。

 念の為に言っておくと私は普通の人間だ。3+1次元時空に生きていた、普通の3次元生命体だ。

 そんな私が異世界にきて、自分の身体がバラバラにならないことに感動しているのにはちゃんとした理由がある!


 皆は電子というものを知っているだろうか。

 その前に分子の説明をした方がいいだろうか。例えば水は水素原子Hが2つと酸素原子Oが1つでできている。H2Oという分子だ。身近なものでいうと他にも炭素原子C1つと酸素原子Oが2つでできている二酸化炭素CO2というものもある。空気中に含まれてるやつだ。18属のアルゴンArの方が比率が多いらしいのは驚きだがそれはいい。

 おお、今、私が気絶していないのは空気中の成分も同じだということだ。これも驚きの1つなので叫んでおこう。


「呼吸ができるぞぉおおおおおおおおおおおお!!」


 話が逸れた。

 この世界の物質は──おっと、もうこの世界ではないのだった。私が元いた世界の物質は全て原子で構成されていた。例えば私の肉体自体もそうだ。有機化合物なるもので構成されていて主に炭素C、酸素O、水素Hで構成されている。

 もう少し身近な例をいくつか紹介しておこう。例えば一般的な家庭で使っているガスは恐らくメタンガスだろう。それを燃焼させて火を起こしている。このメタンと呼ばれるものも化学物質で、CH4だ。ついでに構造式も書いておこう。


  H

  |

H―C―H

  |

  H


 こんな感じだ。うまく表示されているかな?

 構造式というのは原子同士の結合の形を表しているものと思ってくれていい。どんなふうに繋がっているかが有機化合物にとっては重要なのだ。

 都市ガスとか呼ばれるやたらと高いガスもある。それはプロパンガスでプロパンのことだ。組成式はC3H8だ。組成式は構造を無視した、ただの原子の数だけを表したものだと思ってくれていい。構造式はメタンをつなげた感じだ。


  H H H

  | | |

H―C―C―C―H

  | | |

  H H H


 他にもCが2つのエタンというのがあるし、Cを増やしていけばいくらでも作れる。

 身近な例としてこのエタンもあげることができるだろう。正確にはエタンを少し変形させたエタノールだ。そう、皆大好きアルコールの主成分だ!

 組成式は……逆に書き慣れていないのだがC2H6Oだ。構造式は端っこにOHをつけた形になっている。


  H H

  | |

H―C―C―O―H

  | |

  H H


 上に書いたメタン、エタン、プロパンのようなCとHで構成された化合物をアルカンと総称するが、このうちHをOHに変えるとアルコールと総称される物質になる。

 そう、エタノール=アルコールではない。アルコールと呼ばれるものの一部にエタノールがあるのだ。だからメタノールもあるしプロパノールもある。


 電子の話からとんでもなく離れてしまったので話を戻そうと思う。

 何が言いたかったといえば、とにかく世の中の物質は全て原子でできている、ということだ。そして私は原子の構造を説明したかったのだ。

 原子は原子核と電子でできている。だから初めに電子を知っているか、と戦国○神のOPのような文言を述べたのだ。

 これは全ての原子に共通することだ。すなわち、私たちの肉体は全て原子核と電子でできている。原子は必ず全体で中性となっている。


 おっと、ここで中性とは何かという話をしなくてはならない!

 皆は電荷というものを知っているだろうか。プラスの電気とかマイナスの電気とかいう、あれだ。

 ここで電荷というものの詳細について語ろうとするととんでもないことになる。何故ならそれを語るためにはゲージ原理というものを説明して、ゲージ変換を説明して、U(1)ゲージ変換の説明をしてそのゲージチャージが電荷であるという説明をしなくてはならないが、この話は難しすぎるのでやめておきたい。


 でも日常生活で電流という言葉は聞いたことがあるだろうし、とにかくプラスの電気とマイナスの電気があって引き合うだの反発するだのという話ぐらいは聞いたことがあると思う。その理解で今は十分だ。

 ここで言っている中性の意味は電気的に中性だという意味だ。つまりプラスでもマイナスでもないという意味だ。中性という言葉は色んなところに出てくるから何とか的に中性、と言葉を付け足さなくてはならない。例えば化学の分野では塩基性か酸性かという意味合いで中性ということもある。


 また脱線した! 話を戻そう。

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