第23話 新居と意気込み
翌日。
新しい住居に案内するためにキースから遣わされた兵士が宿まで迎えに来た。
道中、ガレッド率いる騎士隊がグゼの森へモンスターの調査に向かったことを教えてくれた。
これからリザエル達が住む家は、城から近いところにある居住区。
一戸建てで、部屋は三つ。リビングもあり、風呂トイレ別で洗面台も独立していて、家族で住むには十分な広さがあった。おまけに庭には畑もついている。
部屋に上がるなり、夏帆は部屋という部屋を走り回って、隈なく探索した。
「おおー。木造だけどいいね! これ、都内なら普通に家賃10万はいくよ! 間取り最高じゃん!」
「また貴女は意味のわからないことを……それより、荷物を部屋に持っていきなさい」
荷物と言ってもライリンが買った洋服の入った袋くらい。
それ以外に必要なものは、昨日のうちに両親がある程度揃えてくれた。
「そういえば、二人は部屋どうする? 事前に聞いておくのを忘れたけど……」
どうする、とは何か。夏帆とリザエルが首を傾げると、ライリンは言葉を続けた。
「別々にするか、同じ部屋で暮らすかよ。三部屋もあるし、自由に決めていいのよ」
「……えっと、リザさえよければ私は一緒の部屋が良いな」
「え? 私は構わないけど……」
「本当? 良かった。なんか、一人でいるのちょっと怖いかなって……」
リザエルは眠る夏帆の頬に伝う涙の痕を思い出した。
城にいたときも寝るときは一人だった。一人になったら嫌なことを思い出すかもしれない。また夜中に一人ぼっちで泣いてしまうかもしれない。それを想像して、リザエルはそっと夏帆の手を取った。
「大丈夫よ。もう貴女を一人にはさせないから」
「リザ。ありがと、なんかごめんね」
「どうして謝るの? 貴女は巻き込まれただけなのよ。寂しい気持ちを無理に隠そうとしなくていいの。きっと、元の世界に戻してあげる。今の私に出来ることがあるかは分からないけど……キース王子やガレッド様と協力すれば、きっと……」
「うん。ありがとう」
少し潤んだ瞳で夏帆は頷いた。
「あのね、リザ」
「なに?」
「私、思ったんだ。王子様たちと話してるとき、リザ焦ってる感じだったじゃない?」
「それは……」
「リザが私のために頑張ってくれてるんだから、私もリザのために何かしてあげたい。むしろ私の方が何をしていいのか何が出来るのか分からないけど……助けになれることがあったら遠慮なく言ってよね。その、私の魔力? とかが役に立てるんだったら使ってほしいし」
会議のとき、自分に出来ることがないか、手伝えることはないかと焦っていたリザエルを見て、夏帆も思うところがあった。
この事態を引き起こしたのは、そもそもナーゲル国の王や王子。巻き込まれたのはリザエルだって同じだ。彼らの目的に利用されているのも、同じ。
境遇が似ているからこそ、二人は互いに信頼できる仲になったのかもしれない。
だからこそ、焦りで迷いや不安を抱くリザエルのために出来ることはないかと考えていた。脱獄をしたあの夜のリザエルは自分の持つ知識を使ってあの国から救い出してくれた。自分の力がリザエルの両親を助けるのに役に立てた。
「それにさ、言ったじゃん。私たちが一緒にいたら最強じゃんって」
「……カホ」
役所で両親を待っているときに話していた言葉を思い出す。
今、リザエルは夏帆の魔力が流れているおかげで加護の力も強まっている。もしかしたら王子がリザエルと夏帆を会わせないようにしたのも、こうなることを阻止するためだったのかもしれない。
「……そうね。貴女が一緒なら、何も怖いことなんかない、のかしら?」
「そうだよ。何でもプラス思考! 元に戻るのも大事だけど、出来れば私はあの国を懲らしめるところまで一緒にいたいんだ」
「え……それじゃあ、帰るのが遅くなってしまうわ。貴女のご両親だって心配しているでしょう?」
「そうだけどさ。でも、みんなで……私達であの王子をボロッボロに打ち負かせて、言ってやりたいでしょ?」
ニッと歯を見せて笑う夏帆に、リザエルは首を傾げた。
「ざまぁみろ、ってさ!」
夏帆のその言葉に、後ろで見ていた両親は大きな声で笑った。
そんな相手を嘲笑うような言葉にあまり馴染みのないリザエルだったが、彼女の笑顔につられて笑みを零した。
「ふふっ。貴女って、本当に不思議な子ね」
「そう?」
「ええ。なんか、不安に持っていた自分が馬鹿らしく思えてきたわ。そうよね……もうあの国にいた頃の私とは違う……お父さんとお母さんにも再会できて、協力してくれる人たちにも出会えて……貴女がいる」
「そうだよ。リザはこの世界で一番幸運の持ち主なんだから!」
そんな能天気に構えてていい状況でもないが、それくらいの気持ちでいた方が良いのだろう。
何でも難しく考えすぎるリザエルに対して、明るく物事を単純に考える夏帆。真逆だからこそ、バランスが取れているのかもしれない。
「アハハ! いいね、カホさん。久々に大笑いしたよ」
「そうね。私も言ってやりたいもの、よくもうちの娘に酷いことしたわねって!」
「ふふ……じゃあ、私はあの王子の顔に思いっきり平手打ちでもしてあげようかしら」
「それいいじゃん! 最高!」
まだ何もない新しい家に、みんなの笑い声が響く。
小さな不安を掻き消すように。
異世界の少女と聖女様 のがみさんちのはろさん @nogamin150
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