第20話 素材採取へ
――そして、数日後。
私は小奇麗な馬車に乗っていた。
目の前にはカリスト様が座っているが、前のように社交界に行くわけではない。
私もカリスト様も動きやすい服装で、カリスト様は剣を持って防具などもしている。
なぜなら、私とカリスト様はこれから精霊樹が生えている森へと向かうからだ。
……まさか本当にカリスト様と一緒に行くことになるとは思わなかったわ。
「どうした、アマンダ。体調でも悪いか?」
「いえ、それは大丈夫ですが……本当にカリスト様がきていいのですか?」
「またその話か? 俺は侯爵家の当主だが、ファルロ商会の会長だ。会長なら新しく商品になるかもしれないものを見に行くのは、当たり前のことだろう?」
「いや、会長だとしても危険な場所に自ら行くことはないと思いますが……」
それに侯爵家の当主がほとんど護衛もなしに外に行くのもどうかと思うわ。
「そうか? まあ人それぞれだな」
特に気にした様子もなく、楽しそうにしているカリスト様。
本当にこのまま行くのね……。
「お二人とも、準備はいいですか?」
御者を務めるキールさんが、馬車の扉を開けてそう言った。
彼もカリスト様が行くことはもちろん反対していたが、最終的に折れるしかなかったようだ。
「ああ、久しぶりに貴族のしがらみを忘れて旅行に行く感じがして、楽しみだな」
「カリスト様、一応仕事ということをお忘れなく」
「わかってるから、キール。そう心配するな、アマンダの魔武器を見ただろ? あれがある限り、そうそう怪我なんてしないだろう」
「確かにその通りですが……」
「あの、そこまで信用しないでくださいね?」
前に見せた魔武器がとても評価されているようで嬉しいが、カリスト様を完璧に守れるかと言われると少し怖い。
魔武器をオスカルさんにも見せたら、
『なにそれなにそれ最高じゃん! めっちゃ面白いし強いね! だけどとんでもない魔力量を持っているアマンダちゃんだから使える魔武器だから、普通の人でも使えるようにするにはとんでもなく大きな魔石が必要で――』
とすごい興奮してくれて、私も見せた甲斐があった。
そんなことを思い出していたら、すでに馬車が出発していた。
カリスト様が用意してくださった馬車なので、中はとても広くて座席もふかふかだ。
長時間の移動になるけど、これだったらそこまで辛くないだろう。
私が一人で素材採取に行く時は歩きだったから、あまり遠くまで行けなかったから、行ったことがない森へ行くのが楽しみだ。
ここから森に行くのは数時間かかり、朝早くに出発しているので昼前には着く予定だ。
そこで軽く昼食を食べてから森の中で精霊樹を探す。
探す時は私が精霊樹を探すためだけに作った魔道具があるので、まだ精霊樹が生えているのであれば早めに見つかると思う。
最短で行けば、日が沈む前に王都に戻ってこれる。
だけど日が沈んだら馬車を走らせるのは危ないので、野宿する予定だ。
「野宿する時、本当に私のテントに入らなくていいのですか? 男性二人だったら問題なく入れるくらい広いですが」
カリスト様には前に見せているからわかっていると思うけど。
「いや、さすがにそれは出来ない。一応俺もキールも男だから、男女が一緒にテントで寝てはいけないだろう。俺とキールは馬車で寝るよ」
「それだったら私が馬車で寝た方がいいのでは?」
「いやいや、テントの持ち主を馬車で寝かせるわけにはいかないだろ。それにアマンダは女性なのだから、野宿の時は休んでくれ」
「……ありがとうございます」
優しい笑みでそう言われると、私も何も言えない。
よし、私に出来ることは早めに精霊樹を探して、素材を採取することね。
頑張らないと!
そして数時間後、馬車は森に着いた。
前に精霊樹の葉があった付近まで向かって、そこで私とカリスト様は降りる。
「ふむ、もう葉はないか。どこかの誰かが持って行ったか」
「そうでしょうね、だけどここにあったのは確かなようなので、精霊樹がまだあるとしたら遠く離れていないと思います」
カリスト様とキールさんがそう話している間に、私は魔道具を起動させる。
手の平サイズのコンパスのような形をしているが、東西南北の方針を指すものではない。
これは魔力が高い物がある方向を指す魔道具となっている。
最初に作った時は、魔力の限界が見えない私をずっと指していたけど、今は私の魔力に反応しないように作ったので大丈夫ね。
魔道具を起動すると、しっかり森の中を指した。
「魔力の反応はあちらからしているようです。特に動いている様子もないので、魔物を指しているわけでもなさそうですね」
「なるほど、ではまだ精霊樹はあるようだな」
「はい、無駄足にならずに済むようでよかったです」
私達はそう話しながら、一度馬車の中に戻って昼食を食べる。
昼食は私が朝出る前に作ったサンドウィッチだ。手軽に食べられるので、いつも一人で素材採取に行く時は持っていく。
「アマンダ様、私の分もありがとうございます」
「いえいえ、キールさんも御者お疲れ様です」
「とても美味しいですね、アマンダ様は料理もお上手のようです」
執事兼秘書、そして今回は御者も務めてくださっているキールさん。
この方も中性的で綺麗な顔立ちをしている。
目が吊り上がっているけど眼鏡をしているので、鋭い雰囲気が中和されている気がする。
いつもカリスト様の相手をしているので疲れているだろう、主に社交界の時に逃げられているし。
まあ、匿っている私が言うことじゃないと思うけど。
「ふむ、アマンダの料理はいつも通り美味いな」
「ありがとうございます、お口に合ったようでよかったです」
いつも美味しそうに食べてくれるカリスト様と微笑み合っていると……。
「いつも通り? カリスト様はアマンダ様の料理を何回も食べたことがあるのですか?」
「っ……!」
キールさんの鋭い指摘に、カリスト様が食べていた物が喉に詰まったように胸を叩く。
私はお茶を渡しながら、内心焦っていた。
ど、どうしよう、いつも私の家に来ているのがバレるかも……?
お茶を飲んで落ち着いたカリスト様が視線を逸らしながら話す。
「い、いや……前に商会の食堂でアマンダが作っていたお弁当を何回かもらったんだ。その時のことを思い出してな、なぁ?」
「そ、そうですね。はい、食堂でお弁当の具を分けました」
私とカリスト様は視線を合わせ、話も合わせてキールさんを誤魔化す。
「……そうですか。まあ私もいつもカリスト様の側にいるわけじゃないので、知らないことがあるのは当然ですね」
ふぅ、何とか誤魔化しきれたようだ。
一応、今後は昼食にお弁当を持って行って、裏撮りしてもバレないようにしておこう。
もう遅いかもしれないけど。
その後、私達は昼食を食べ終わり、高い魔力反応がする方向へと向かう。
さっきと同じ方向なので、動いてないということはやはり精霊樹の可能性が高いだろう。
「キール、お前は身を守る術がないから俺から離れるなよ」
「わかっていますよ、カリスト様。主人に守られる配下でお許しください」
「申し訳ないって思っているか?」
「いえ、特には」
「だろうな」
やっぱり仲良いわね、カリスト様とキールさんは。
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