3位~1位

3位 蛍はいなかった

【 https://www.youtube.com/watch?v=gUGmed-NOow 】

作詞作曲:はるまきごはん


 曲・歌詞・PVすべてにはるまきごはんさんがかかわっています。マルチに活躍するボカロPであるといえるでしょう。

 彼の作品にはいくつかシリーズがありますが、この曲は「幻影」シリーズの曲の一つです。YouTubeに公開された曲の中では「第三の心臓」に次ぐシリーズ二曲目になります。


 前奏なく、すぐに曲に入ります。この歌いだしに、世界観の全てが描かれていると見ることもできるでしょう。

 ここで、オフィシャルサイト(https://harumakigohan.com/)にある、この曲の説明を見て見ましょう。



  内気な主人公みかげとその友人たちの物語。クラスで友達の少ないみかげは、毎   

  朝スピカという女の子に話しかけられる。スピカともっと仲良くなりたいと願う

  みかげだったが、不器用がゆえにす違い、そのまま時間が経ってしまう…


 そして、歌いだしは次の通り。

 

  心の声をそのままあなたに届けられたなら言葉も口も元気な芝居も意味なかった

  ね


 そして、タイトルの通り、曲を通して現れるのが「蛍」。蛍は儚いものの象徴で、曲中でも「灯りのついた蛍は十五夜生きてはいられない」とあります。そんな蛍を曲終盤で、主人公みかげは見つけます(最後のサビ「蛍はここにいた」)。が、しかしこの物語は次の言葉で閉じられます。


 「蛍はいなかった」


 タイトルがここで置かれるのです。これは、PVを見ると、主人公の台詞であるとわかります。そのときの表情を、見てください。

 蛍はいたけれど、いなかった。

 それだけ書くと矛盾しているようですが、そうではないことがわかります。

 この曲については、また別の所で語る機会を作るかもしれません。歌詞はそのときにまた分析しましょう。


 なお、PVの建物は平塚市びわ青少年の家というレクリエーション施設をモデルにしているそうです。















2位 さよならだけが人生か

【 https://www.youtube.com/watch?v=MOe5AOuBWv4 】

作詞作曲:傘村トータ


 第二位には傘村トータさんのこの曲を選びました。去年の4位「花めづる君」と、1位「アルルの花」も同氏の作品です。

 

 昨年の二つの曲と似た構成を持っているのですが、唯一この曲には前奏があります。寂寥あふれる優しいピアノの音、続くIAと結月ゆかりの歌声に引き込まれてしまいます。


 ここで、恐らく念頭にあるであろう「さよならだけが人生だ」という言葉について、一応確認していきましょう。

 元ネタは、唐の時代の詩人、于武陵の漢詩「勧酒」の翻訳にあります。訳したのは太宰治の師にあたる井伏鱒二で、「人生別離足る」を「「さよなら」だけが人生だ」と訳したのです。全く関係ないですが、アニメ化が決まった「葬送のフリーレン」はまさにこれを体現していると言えそうです(人じゃないけど……)。


 この言葉から着想を得て、伊東歌詞太郎氏は「さよならだけが人生だ」という曲を昔作りました。それも名曲ですが、そちらではこの言葉に対して「間違いではないような気がして」と歌われていますが、こちらでは「さよならだけが人生か」というタイトルの通り、これに疑問符が打たれているのです。


 これについては1番Bメロや2番Bメロがはっきり示しています。1番Bメロを見て見ましょう。


   さよならだけが人生だとか いつか離れる手と手だとか

   みんなみんな嘘だと知った ちっとも消えてくれないじゃない


「さよならだけが人生」は嘘だというのです。どういうことでしょう。

 まず単純に、「人生」≠「別れ」とすることができますが、では、代わりになにが「人生」と等号で結ばれるのか。

 

 歌詞を眺めていて、私自身は、「哀しさ」と解釈しました。「亡き人の影」と言い換えてもいいかもしれません。

 

 さよならだけが人生という思想は、一見悲観主義に見えますが、逆に言えば「別離」を普遍化、日常化しているともいえます。別れは当たり前のものなのだから、悲しむ暇はないし、必要もない、というように。そのとき、別離に伴う感情はすべて後景に退くことを考えると、逆説的ではあるけれども、楽観主義が生まれます。


 しかし、人間はそんなに簡単に割り切れるものでしょうか。別れのときにはほぼ例外なく悲しみが襲ってきます。そしてそれは簡単には消えるものではないのです。それが、死別ならば、猶更。

 

 サビをみると、「あなた」はいるかいないかわからない存在らしい。そして1番のサビでは「あなたを探して町を駆ける」とあり、これが2番になると「あなたを想って今を生きる」となる。「あなた」がどんな存在か、うかがえる歌詞です。

 

 「さよならだけが人生」という言葉の「さよなら」は多義的です。もしもただの「別離」であれば、これから再会する可能性はゼロではない。それであるなら、面影を探す必要はない。けれど、もしもそれが「死別」であるなら、そうはいかない。言葉は直接届かないし、目の前にはいない。面影として、脳裏にしかいない。

 だから、「居ても居なくても」想うしかないのです。

 

 傘村さんの歌詞は(もちろん私の勝手な解釈ですけれど)、リアルな人間の感情をすくいとっているように思えます。このあとに投稿された「だって君には彼氏がいるでしょ」も同様です。心の処方箋として聞くことのできる、稀有なボカロPです。


 






 さて、残すはBest1のみとなりました。ここで、順位を確認します。

2位 さよならだけが人生か/傘村トータ

3位 蛍はいなかった/はるまきごはん


4位 絶頂讃歌/和ぬか

5位 君の街まで/ASIAN KUNG-FU GENERATION

6位 ラグトレイン/稲葉曇

7位 クーネル・エンゲイザー/電ǂ鯨

8位 「抱きしめたいほど美しい日々に」/くじら

9位 形ないもの/GLIM SPANKY

10位 「花の塔」/さユり


 では、2022年、第1位の曲を紹介します。











第1位

夜蝉

【 https://www.youtube.com/watch?v=UbKkbcl9IAw 】

作詞・作曲:Orangestar

歌 夏背


 第1位に輝いたのはOrangestar「夜蝉」でした。

 同氏は、昨年も「Surges」が6位で入りましたが、今回は1位で堂々入賞です。今年もよろしくお願いします。


 夜蝉よぜみは、夜に鳴く蝉のことです。そのままですが、そもそも蝉は夜には鳴きません。最近は夜が明るいせいで鳴いている、というより鳴かされているそうです。

 Orangestarの楽曲ですが、これはボカロ曲ではなく、彼の配偶者である夏背かせさんが歌っています。Orangestar復活ののろしとなった。「Sunflower」も夫婦の、ある意味共作でしたが、この曲も同様です。


 曲そのものについては、Orangestarさんのファンなら、聞いたことがあると思うのではなかろうかと思います。つまり多くの過去作の遺伝子を受け継いでいるように思えるのです。

 まず、雰囲気が「Sunflower」に似ています。もちろん、歌っているのがどちらも夏背さんであることも影響しているでしょう。また、曲構成も似ています(Sunflowerの方がややボリューミーですが)。

 次に、曲調や構成が「Nadir」を髣髴とさせます。構成については、前奏→A→サビ→間奏→A→サビ→後奏と、まったく同じになっていますし、テンポも似ています。

 そして、最初のアコギの音。「時ノ雨、最終戦争」を思い出させます。

 あえて昔の曲の要素を取り込んでいるのかなあと思ってしまいます。もちろん私が勝手に思っているだけですが、懐かしさを覚えるのは間違いありません。


 そして、懐かしいだけにとどまらないのがOrangestarさんのすごいところです。

 後ろでマラカスのような音が鳴っているのですが、これが蝉の鳴き声に聞こえるんですよね。それをバックミュージックに、夏背さんのガラスのような声が歌う歌詞。


 「君の全部が懐かしく思えるのも 愛おしくて泣けるのも」

 

 これ、「君」をOrangestarさんの曲と言い換えたら、そのまま私です。「懐かしく思」ったのは上に書いた通りです。愛おしいのは言うまでもありません。

 古参ぶるつもりはないですけれど、中学生のときに「アスノヨゾラ哨戒班」や「未完成タイムリミッター」「空奏列車」、高校生時代に「シンクロナイザー」や「回る空うさぎ」を、そして「快晴」でショックを受けて、大学生のときに「Sunflower」で泣きそうになり……。そして、社会人一年目の年が間もなく終わるタイミングでこの曲を聴いた私の姿です(実際は4月に投稿されたみたいですが)。

 

 もちろんOrangestarさんはそんな意図はなかったでしょう。この曲には夏背さんへの思いであったり、曲作りの上で重要どころか体の一部ともいえる存在であるボーカロイドへの思いが詰められているのかもしれません。けれど、私のように、Orangestarさんの曲とともに中高を過ごしてきた人間からすると、やっぱり別の感慨を勝手ながら抱いてしまうのです。


  君の今越える暗闇の先は夏だろう

  僕が今越える悲しみの先は夏だろう


 Orangestarさんが「夏」の曲ばかり作るので、気づくと夏が好きになっていた。そんな単純な人間が私です。この曲のおかげで、これから来る夏がまた楽しみになってきました。芸術は偉大ですね。



 と、最後はなかなか感慨深くなってしまいましたが、ピックアップリリックはこちらです。


「君と見た明日の先に何をまだ知るだろう?」









 ということで、ランキングはこちらです



1位 夜蝉        /Orangestar     J-POP

2位 さよならだけが人生か/傘村トータ     ボカロ

3位 蛍はいなかった   /はるまきごはん   ボカロ


4位 絶頂讃歌      /和ぬか       J-POP

5位 君の街まで     /ASIAN KUNG-FU GENERATION  J-POP

6位 ラグトレイン    /稲葉曇       ボカロ

7位 クーネル・エンゲイザー     /電ǂ鯨  ボカロ

8位 抱きしめたいほど美しい日々に  /くじら  J-POP 

9位 形ないもの     /GLIM SPANKY    J-POP

10位 花の塔      /さユり        アニソン


 今年ももう四分の一が終わりますが、また新しい曲と出会うのが楽しみですね。それから、書き溜めた物語を投稿できれば、なおよいかなと思います。

 何はともあれ、ここまでご覧いただきありがとうございました。番外編もお楽しみください。


                                   蓬葉

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