第7話 1つ目の質問。



「では、1つ目の質問です。【バケツ】とは何でしょうか?水を入れる物だと、お話しされておりましたが、私、存じ上げなくて…。貴女はご存知?」



 と、隣に立っていた侯爵令嬢に尋ねる。



「い、いえ。私も存じ上げませんわ。」



「そうよね。どんなものなのかしら。後学のために、教えてくださいますか?

私、フィルミーナ嬢がどんな虐めをなさったのか、詳しく知りたいのですわぁ。」




「そ、それは…。」と、早速言い淀む殿下



 他の生徒達もザワザワと

「確かに知らないな…」「見たことないな…」と呟く。



「モップや雑巾を濡らす掃除道具に決まっているじゃない!

公爵令嬢なのに、そんなことも知らないの!?

バケツで汚い水を頭からかけられたのよ!首は痛いし、下着までびしょ濡れになったのよ!」



 と、サラ様が元気に教えてくれました。



 サラ様はご存じないようですが、上位貴族にとって掃除は、使用人の仕事なのです。



 また、使用人は掃除している姿を、雇用主に絶対に晒しませんわ。当然、掃除用具も同様です。


 事実、会場の貴族の殆どが、見たこともなく、わからなかったようですわ。

 もちろん王族である殿下も、例外ではなく、姿形や用途等ご存じなかったのでしょう。




「まぁ。そうだったのですね。実物を見たことも、聞いたこともありませんでしたので、想像出来無かったのです。お教え頂き、ありがとうございます。


ですが、フィルミーナ嬢はご存知だったのよね?

皆様が聞いたことも、見たこともないような道具を。


流石はフィルミーナ嬢ね。とっても見識が広いわぁ。

そして、その道具を虐めに活用するなんて。知識の応用まで完璧ですのねぇ。」


 クスクスとあえて貶めるように、笑いながら述べました。


 さらに続けます。


「フィルミーナ嬢が博識なのは置いておいて、

サラ様は、汚いお水を頭から大量に、掛けられたのですよね?

本当にお可哀想ですわぁ。


それに、大量の水を頭の上からかけるなんて…。フフフ。

フィルミーナ嬢は見かけによらず、とっても力がお有りなのねぇ。私には無理ですわぁ。」



 と、クスクスと笑いながら、フィルミーナ嬢を流し見る。


 彼女の腕は、一般的な貴族令嬢よりも細く、華奢で折れそうな腕でした。誰の目にも、大量の水を持ち上げ、他人の頭から掛けるのは、難しそうに見えました。




 周囲からも、ヒソヒソと疑問が飛び交っていた。


「掃除道具を公爵令嬢が知ってるのか?一生縁が無さそうだよな。子爵家の俺ですら知らないのに。」


「あんな細腕にそんな力が?冗談だろ。サラ嬢の方がよっぽど逞しくないか?」


「下着まで濡れて、首を痛める量の水ってすごく大量じゃないか?」


「それを頭の上まで持ち上げて、人にかけるんだろ?無理じゃないか?」


と。疑問が飛び交っておりました。



「サラ様、教えて頂き、ありがとうございます。

ですが、まだまだ、質問はございます。

是非とも無知な私めに、教えてくださいませ。」



「ふん。これくらい当然よ。良いわ。何でも聞いてちょうだい。」



 サラ様は自身が同情されていると、勘違いしているのか、大層ご機嫌でした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る