その日王都グフォースアーティグシュターツの各所では裏の施設とそれに関わる人々が始末され、炎に巻かれる阿鼻叫喚の最中であったが、そんな事さえも些細な事となる様な自体が今、起ろうとしていた。


 グフォースアーティグシュターツに存在するランドマークとして目につく存在王城。

 ベーエアデ王国の中枢機関をその身に宿したその施設が唐突に赤紫色の光に包まれた。

 その不気味な赤紫色の光の正体は魔力。

 王城の城壁の内側全てを包み込む光が唐突に現れたのだ。

 その光は天を衝くばかりに聳え立ち、王都に住まう人々の目線を一所に集めた。未だ炎に包まれる王都であるが、その身近な炎よりもその赤紫の光は人々の注意を引きつけたのだ。

 そして訪れるのは何の前触れも無い王城の崩壊。

 その様はさながら砂上の楼閣の如し。

 サラサラと砂の様に風に吹かれて崩壊していく王城がそこにはあった。

 王都の誰しもが恐怖した。王城という王都にあるべき存在が、まるで夢幻の如く崩れ無くなっていく様を見て。

 そして、何故この様な事象が今この時に引き起こされているのか全く解らない未知への恐怖と共に、王都の人々の視線を意識を集めた。

 そんな事象がたった一人の男が齎した魔法による結果だとは露も理解出来ずに、ただ焦燥を抱きながらその様を眺めるばかりであったのだ。


 王城の崩壊は人々の心にある言葉を想起させた。

 王国の崩壊。王族の喪失。

 詰まるところ、自らが所属する国家の崩壊だ。

 人々は炎に焼かれる境遇と、今まで当然として存在していた国の崩壊という事実に、くずおれる者が多数生じる事になった。

 最早彼等は何か動きを起こせる様な状態ではなかった。

 炎が立ち上り煙に巻かれ逃げ惑うだけの存在へと成り果てたのだった。

 誰しもが絶望の底へと否応なしに叩き込まれる中、ある組織のみが秩序だった行動を取っていた。

 その組織とはヨドヤ商会。

 この商会に所属する商会員は火を消し、人々の避難誘導をし、声を掛け人々を奮い立たせんと行動をし続けた。

 この訳も分らない未曾有の惨劇の中、彼等だけが希望だった。

 ヨドヤ商会の働きかけもあり、王都は秩序を、静けさを取り戻す事に成功するが、依然として国家の体裁が保てなくなると云う恐怖は、人々の心を支配するのだった。

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