ふと気がつくとそこは見知らぬ場所だった。

 周囲を見渡すと薄暗いながらもなんとか壁が見える程度の光量が確保されているだけで、動き回るには何とも心細い範囲しか見渡せない。などと思いつつ身体を動かそうとすると、自身の身体が拘束されている事に気付く。

 その拘束具を引き剥がそうと魔力を練って身体強化を行おうとするも、魔力を練る事が出来なかった。どうやらこの拘束具は魔力を練られなくする魔道具の類いの様だ。

 そこで私はハッと気付く、一緒に居たはずのヘェッツ卿とお付きのメイドの事に。

 残念な事に一緒の部屋にいる訳ではない事はこの薄暗い部屋でも直ぐに分った。

 誘拐事件、頭に浮かんだ言葉を考える。誰を?私だろう。自惚れでも何でも無く、私はこれでも王族だ。利用価値というのは幾らでもあるだろう。

 だが、生憎だが私は王宮ではそれ程価値を見出されていない。条件が釣り合わなければ誘拐犯の要求に一切取り合わない事も予想出来る。

 なので、最悪はこのまま此処に繋がれ続け、誘拐犯にすら利用価値を見出されなくなり、その後はどうなるか…私はそんな事を考えながら、この状況から来る憂鬱さだけではない、何とも言えない感情を無駄に抱え込んでしまった事に、余計に感情を沈み込ませてしまった。

 さらに、この事件に巻き込んでしまったヘェッツ卿やメイドに護衛達の事を思うとさらに感情が沈み込んで行ってしまう。これでは駄目だと思いながらも、環境と状況に流されて行ってしまう自分の不甲斐なさがさらに拍車を掛け、最早感情は土壺に嵌り抜け出せなくなる。

 私は、何をやっていたのだろう。王族なのに好きな事を好きな様にやり、誰からも必要とされなくなってその末にこの有様。

 両の目から流れる涙が、頬を伝う冷たさに私は自嘲気味に言葉を零す。

「私って誰かから必要とされてたのかな」

 こんな状況になって初めて私はこんな考えをする事が出来た…してしまった。そんな自分が馬鹿馬鹿しく、そして哀れだった。

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