第56話 現実の核心は「妄想」

 拘束島から連れ出された河負は一定期間の記憶を魂界の者に削除されていた。魂界の最大の掟は「独裁」だ。独裁は崩壊を意味する。個別が個別に動く。明確な組織を作らない。ただ、同じ目的に動く。結束の価値観の違いが混乱を招くこともあるが思考の自由を制限しないために取られている掟であることを魂界の者は学びの段階で暗黙の了解として捉えていた。

 魂界の者が大胆に動き出したのは2020年の米国大統領選だった。嘘が真実となり、事実が陰謀論として処理される腐った現世を正すために神界から力と指示を得たのが始まりだった。中立の立場でなければならない裁きを行う者が自らの思想を裁きに反映し、異物を除外する動きは、魂界で禁じられている「独裁」に繋がるものだったからだ。日本の隣国には貧しいほどの民度の生き物が臭い唾を吐きまくっている。始動する者とその組織の思考を清掃するには思考の排除が必須だった。押さえつけて変えさせるのではなく自浄作業が不可欠だった。

 缶酷で選挙があったが愚かな国民は現政権か前政権の仕業かも理解できない低知能に嘆きしか出ない。中酷は銭の亡者で全体が見えないイナゴのようなものだ。後先を考えない。実態を見れない盲目な馬鹿さを心の支えとしている。共通項は「見栄」だ。誇れるものがない悲しい現実から目を背け、現実と実態の歪を「妄想」で埋めている更生できない国家体制だ。

 

 海斗は、自国を無碍にし、日本の品位低価や私欲に走る者を許せなかった。海斗は静岡に向かうのを止め、停船させた。海斗は初めて死神手帳にペンを走らせた。


ゲル「やっと手帳を使うのか」

海斗「道具は使ってこそのものだろ」

ゲル「先を越されたのが癪に障っただけじゃないのか」

海斗「好きなように言え。使える物は使う。この手帳があるからゲルとも話せてい

   る。同時に魂界の者とも意思疎通が図れていると言うことは、手帳に直接書か

   なくても目的が達せられるということだ」

ゲル「自分は手を汚さない気か、狡い奴だなぁ」

海斗「狡いか。死神手帳を使えば思うように粛清できるだろう。例え間違っていても

   な。向かう所敵なし。無敵は、独占欲と疑心暗鬼を招き入れ、独裁しなければ

   安心して眠れなくなり、信用できる者も消し去る」

ゲル「自分より賢い奴もな。死神の手帳を所有した者の末路を見てきたからな」

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