エヴァの認知度



 寮の食堂脇には棒に貫かれた選手たちを振り回しては豆粒大の球を転がし合うあのゲームの台とビリヤードがあって、ビリヤードはお金を取られるのでいつもサッカーの台で暇を潰していた。


インド人とわたしはゲームに不慣れで、ずらりと並んだ棒のどれをいつ掴めばいいのか見当がつかず、へたに力のこもった振り回しは空振りを呼んだりして笑われる。よしアジア対ヨーロッパだ、とインド人とわたしは結託してスペイン人とブルガリア人に対抗する。よくよく考えればアジアと言っても日本は極東、インドはほとんど西アジアに近いし、ブルガリアも東欧の端、スペインはもちろん西欧の端、しかしまあ四つの国を並べてみればたしかにその言葉に嘘はないのだけれど。


I’m not getting used to this game. と言いながら私には俺が今って言ったら棒を回すんだ、ほら今! とかって指示しはじめたのをからかい半分にたしなめつつ、もちろん不慣れな二人が組んで勝てるわけもなく、戦いはヨーロッパの大勝で幕を閉じる。「チーム変えよ」と言い出すインド人。いや即座に鞍替えすんなよ、ともう一戦。


 そんなことにも飽きると誰かの部屋に集まってたむろすることになる。車座になってダラダラしていると、これもやはりインド人が「何かしよう!」と言い出す。


「二つの真実と一つの嘘(Two truths and a lie)」や「真実か服従か(Truth or Dare)」といった会話によるゲームが大半で、ルールを知らないわたしは何とかゲームの名前を聴き取ってこっそりスマホで調べておく。(説明を受けてもなお、学生言葉というのか、彼らの喋り方はかなりの部分が聞き取れないことが多い)


BGMは大抵各国のおすすめを流し合うのが常で、というより基本はヨーロッパの流行りの曲を流すのを、時折「Nihonの曲を流してよ! Come on!」と日本好きのFloriantが言い出して、とはいえ日本の曲って言われても松任谷由実とか米津玄師とかを試しに流してみるしかなく、「なんかアニメの曲みたい」という感想を頂戴して、確かにアニメの曲もやってるわ、となるのが関の山、いっそ諦めて残酷な天使のテーゼを流してみると、彼とスペイン人・Hernan他メキシコ人の男の子も反応を見せていて、エヴァの広がりを再確認することに相成った。

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