目覚め

今日見た夢は、あたたかかった。


 

 私は瑞々しい緑と色とりどりの花に囲まれた素敵な公園にいました。

春のような温かく柔らかい光に包まれて、清潔な白い服を着た友人たちと話していました。

 まるで絵本の中のような現実離れした美しい色彩の中で友人たちと穏やかに話すのは、幸福で満たされた時間でした。

  友人たちとの会話はとても心地よく、いつまでも話し足りないようでしたが、友人の一人が私の肩を撫でるようにそっと押したのです。

「じゃあね」

 私が嫌だと首を振っても、友人たちはほほ笑んで手を振りました。私は何もしないのに友人たちの姿がどんどん遠ざかって行くようでした。

 ふぅっと意識が浮き上がってきて、瞼を開いたときに目に入ったのは友人達の姿ではなく、朝の光の差し込む部屋の中でした。

 もう一度目を閉じてみてもあの景色はなく、私は夢の名残なごりの切なさに胸がつまり、目が潤みました。もうあの世界に行けないのが切なくて夢心地に浸りたい気持ちと、一日を始めなければという気持ちが同時に湧いて、私は布団に横たわったまま自分の顔を撫でました。

 しばらく、友人たちとの交流のぬくもりを思い起こせるように温かい布団にくるまっていましたが、隣りの部屋で人の動く気配を感じてようやくまとわりつく眠気から抜け出しました。

 夢に帰ろうとする頭をふるって時計を眺め、今日は何をするんだったろうかと、考えます。

 時計を見ればとっくに世間は生活を始めている時間でした。わたしもあと一時間もすれば出かけなければ為らないことに気づき、母の警告に適当に返事をしながら服を着替えて食卓に向います。

 朝食を食べながらぼんやり夢を振り返ってみると、瞼の裏にいた友人の顔はもういくら考えても思い出せませんでした。

 あんなに幸せで、あんなに素敵だったのに、夢の中の出来事は一日の始まるに任せて、その記憶も心地よさも消えていったのでした。

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今朝の夢 (短編集) 田井田かわず @taidakws

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