さっきの友は、

今朝見た夢は切なかった。



 学校に着くと急な全校集会があると言われて、わたしたちは体育館に集まりました。これと言って整列の指示はなく、みんな思い思いに立って近くの人と話をしていました。わたしはたまたま隣に立って居た背の高い男の子と他愛のないことを話していました。

 この学校にはサイボーグ人間と生身の人間が同じように生徒として暮らしており、彼はどうやらサイボーグのようでした。彼は身長がとても高かったので、わたしがその事を話題にすると彼がそう教えてくれたのです。彼とは初対面でしたが、不思議と気が合い、集会が始まるまでずっと話しをしていました。

 しばらくして校長が壇上にあがり話し始めました。それはとんでもない話でした。生徒同士で殺し合えと言うのです。私は驚きました。

しかし考える時間などありませんでした。サイボーグの生徒たちが武器を取り始めたのです。彼らは諦めていました。何故なら彼らはサイボーグ人間であって、脳に直接命令を受けると抗えないからです。また、そのことを悟っていた生身の生徒たちもすぐに応戦しました。週に三度の体育の時間に習った空手、合気道、槍、小太刀、各々自分の得意な道具を選び出し戦っていました。体育館から出て戦う人、共闘する人、いろんな人がいました。不思議なことに、みんながみんな、自分の好敵手を見つけたらそれ以外の戦闘に手を出そうとはしませんでした。私の友人が去り際にいいました。

「このための体育だったのかもね」

 わたしは自然と空手の構えを取りながら隣の背の高い彼をみました。彼はなんともない顔で機械でできたボディから槍を取り出したのです。

「ねぇ、なんで。やめようよ」

「ダメだよ。そんなこと言ったってさ」

 彼は穏やかな顔でわたしに切っ先を向け、それから大きく振りかぶりました。

 私は後ろに飛び退りました。

「こわいってば!」

「君は何が得意だったっけ」

 彼はわたしのことなどお構いなしに槍を振り回しました。もうさっきのような他愛のない話しはしてくれませんでした。

「ほら、早く戦わないと。君が死んでしまう」

「あんたが殺そうとしてるんでしょ!」

 わたしが言い返すと彼は笑いました。

「どうしようもないよ。わかってるだろ」

 彼の言う通り、わかりきった事でした。彼はサイボーグなのだから、学校から命令されてしまえば彼のボディは戦闘を行うしかないのです。他のサイボーグ達がそうであるように彼は好敵手を見つけ、それを殺そうとしているのです。

「でもあんたの思いは違うんでしょ」

「そんなことは問題じゃないんだよ」

 わたしたちの会話はそれが最後でした。言葉を発する間もなかったのです。槍で本気で殴られた痛みに激情したわたしは、手にサックをはめて槍を持った彼の懐に入り、彼が動きづらそうにしているのをいいことに何度も殴りました。彼の動作を止めてしまおうと必死でした。

 彼が目を閉じて倒れてしまったとき、わたしは初めて我に返りました。なぜ自分がそのときサックなど持っていたのかまったくわかりませんでした。ただ目の前の彼の右肩は故障し、胸部の一部が破壊され、体中が傷だらけになった彼は浅い呼吸を繰り返していました。

「ごめん、こんな事したかったわけじゃなかった…。こんな事を……」

 わたしは怖くて彼に駆け寄ることもできず、その場に立ち尽くしました。拳がひりひり痛みました。彼はそんなわたしをちらりと見て穏やかに笑いました。

「……いいんだよ。しょうがないんだよ、もう」

 そして彼はぴたりと止まってしまいました。彼は、わたしが彼の懐に飛び込んだとき、なぜ本気で距離を取ろうとしなかったんだろうか。そんな事をボンヤリ考えました。

 体育館の中で行われていた戦闘は終わりに近づこうとしており、校内の他のいたる場所から聞こえる金属音や破壊音が、まるで街中の喧騒と同じように、遠くに聞こえていました。こうしてただ聞いていられるのも少しのあいだのことでしょう。

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