episode:14 錬金術!学習しました。

「ブライアンさん。あなたを襲ったのは、レストランでお金を落としたと言って来た男と、若い女性が二人ではありませんこと?」

「え? 先生、今までの会話でどうして解るのですか?」

「エリオ、さっきあなたにした質問ですよ。食事を切り上げて出て行った女性二人の事です」


 ……ますます意味が解りません。


「普通、金貨三〇〇枚が目の前にあるという状況下で、興味を持たない人の方が珍しいと思いますわ。女性客二人は急ぎ店を出ると、知人男性に落とし主のふりをするように伝えたのでしょう」


 なるほど。誰かが落としたお金を騙し取ろうとした。いや、実際騙しとったのでしたね。……しかしこれでは話が噛み合いません。


「先生。その男女三人組がお金をだまし取った事と、ブライアンさんが襲われた事とが、いったいどこで繋がっているのでしょう?」

「騙していたのはその三人だけではないという事ですわ。そうですよね? ブライアンさん」


 先生の言葉通りの受け取り方をすると、ブライアンさんが詐欺を働いたという事になるのですが……。何故そんな話になっているのでしょうか?


「もちろん、偶然あの場レストランに居合わせて、偶然同じテーブルにつかなければ、まったく不可解な状況でしかありませんわ。つまりブライアンさん、あなたがやったことを察しているのはわたくし達だけという事ですの」


 先生が『私“達”』と言って下さっているのに、僕には状況が全く判りません。なんか悔しいです……。


「ブライアンさん、ここで一つ提案があるのですが」

「なんでしょう?」

「この場で、ウインク探偵事務所に捜査依頼しませんか?」

 

 何故わざわざそんな事を? 自警団からすでに依頼を受けているのに。改めてウインク探偵事務所に依頼させるという事は……。


「あ……そういう事か」

「ど、どういう事なんですか?」

「つまりですね、僕達ウインク探偵事務所に“仕事の依頼をした”という事になれば、依頼人の事情に関しては“守秘義務”という理由付けが出来るのです。つまりここで話した事を自警団に報告する義務が発生しないのです」


 そもそも今回みたいなケースは自警団と調査契約をしている訳ではなく、形式上は国からの依頼という事で動いています。契約がまだな上、報酬も得ていない今なら“事務所と直接契約した人を優先する”という大義名分を主張出来る様になります。


「しかし僕にはお支払い出来るお金は……」

「あら、ありますでしょ。あの金貨三〇〇枚入りの革袋でよろしくてよ」


「……もう、完全にお見通しなのですね」


 そう、お見通しなのです! ……先生が。いつもいつもどこまで見通しているのでしょう。LOVEすぎます! LOVE!

 見透かされている上、秘密は厳守する。ここまで御膳立てして、ブライアンさんはやっと観念したようです。苦笑いしながら先生と“答え合わせ”を始めました。


「ウインク先生の言う通り、僕は治療費を捻出するために人を騙しました」

「その報復が今回の暴行事件なのですね」

「はい。ですがそれを認めてしまうと、僕がやったこともわかってしまいます……」

 なるほど。詐欺を働いたと判明したら、そのまま拘置されてしまう。スカーレットさんの事を考えると、それだけは避けなければならない。だから暴行事件を否定するしかなかったという話ですね。


「あの……。僕はどの段階で疑われていたのでしょうか?」

「あら。気になりますの?」

 

 ――気になります。すっごく! とりあえずわかっている様な顔をしていますが、ブライアンさんがやったという詐欺が実は全くわかっていません。サントスはわかっているかもしれないのに……。屈辱です! DEATH!


「最初からですわ」

「どこにミスがあったのでしょう?」

「革袋を開きもせずに中身を『大金』と断言した時です」

 イタズラっぽくニコッと笑う先生。本当に最初の段階なのですね……。まったく気が付きませんでした。確かにあの時、お金以外が入っている可能性に言及しませんでしたね。


「確信を持ったのは、テーブルに袋を置いた時です。金貨が入っているはずなのに何か、そうですね……鉄の塊を置いたような音がしていましたわ」


 言われてみれば“ゴトン”という音がしていました。金貨三〇〇枚ならそんな塊の音はせずに、細かいジャラジャラした音になるはずです。……こういう部分に気が付く様にしなければ。


「もっとも、ブライアンさんの口から『金貨三〇〇枚』と出た時には、笑いをこらえるのに必死でしたのよ」

「なんか僕、ミスばかりしていましたね……」

「でも、獲物は引っ掛かった。でしょ?」


 ブライアンさん、“獲物”と言われてちょっとだけ嬉しそうです。僕らのテーブル以外の人は、そこにある革袋の中身を疑う事もなかったのでしょう。


「そして拾得物の二割を受け取って、鉄の塊を渡す。と言うことですわね」


 だけどこれはかなり危険も伴うのでは? と考えると、質問せずにはいられませんでした。

「流石に鉄の塊なんてすぐにわかりますよね。ばれるリスクが高いと思うのですが……?」

「革袋の口を堅く縛っているので、その場で開いて確認しようとする人はまずいません。まあ、そもそもだまし取ろうとしている人は、すぐにでもその場を去りたいでしょうから」



 大金を拾ったと嘘をついて落とし主を探す。そこで名乗り出た者は謝礼の二割を渡して大金を受け取る。しかしその大金は鉄の塊で、名乗り出た落とし主も偽物。


 なるほど……詐欺被害者自身も犯罪行為を犯しているので、急いでその場を離れようとする。本当の持ち主が現れるかもしれないという焦りもあるのでしょう。そして後で騙されたと判っても、自警団に届け出られない。

 

 ――鉄の塊を金貨六〇枚に変える“錬金術”、学習しました。


「そもそも落とし主が最初からいない話。だから詐欺に引っかかると、それは“必然的に犯罪者になる”」


 何というか、人間心理を突いた、ものすごく“狡猾”な手口ですね。






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