第32話 策謀

「半魔がペルシを滅した?」


 四天王の集う円卓の間で狂炎のガルフが濁水のグーンに問う。

 円卓には憤土のデウウ・狂炎のガルフ・濁水のグーンの姿がある。


「そうじゃ。あれはもしかしたら我らより強いかもしれぬ」


 髭を手でいじりながらいう濁水のグーン。


「それは危険ではないか!?純粋な魔族ならともかく、半魔では人間側に寝返る可能性もある。四天王になどできるわけがない!」


 憤土のデウウが机をばんっと戦いた。


「四天王にする必要もあるまい」


「どういうことだ?」


 濁水のグーンの言葉に狂炎のガルフが聞き返す。


「あれを倒すのに適任がいるではないか。光の選定人。エルフの大賢者がな」


 くっくっくと笑う濁水のグーン。


「なるほど。半魔とエルフの大賢者を戦わせ生き残り弱った方を我々で殺せばいいわけか」


 憤土のデウウが満足げに腕を組んだ。


「そういうことじゃ。そのために半魔には働いてもらわねばな。あやつが寄生している第八皇子を戦場に駆り出して魔族の力を使って人間を虐殺させれば、エルフの大賢者はいつか現れる。それまでは第八皇子に暴れてもらおうではないか」


 そう言って濁水のグーンは意地の悪い笑みを浮かべた。



★★★



「うっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!レベルアップ!!!」


 四天王ペルシをキルディスが倒したおかげで、迷宮が大幅レベルがあがり、俺は歓喜の声を上げた。ちなみに、俺たちはまだカンドリアの砦にいたりする。

 数少ない生き残った兵士をまとめあげ、この砦で、次の指示まちだ。

 砦の騎士の死んだ魂と、迷宮の魂のすり替えも万全。魔王には迷宮の魂を吸収させ、砦の騎士の魂はこちらで確保してある。おおむね計画通りといっていいだろう。


「こわかった。こわかった。こわかった」


 俺の歓喜の雄たけびとは正反対に、地獄の猛特訓でペルシに勝ったはずの、キルディスがなぜか部屋の隅でぶるぶると震えている。


「なんでだよ。ペルシに勝ったんだろう? そんなに強敵だったか? 俺との特訓で余裕のはずなんだが」


 そう、魔族の四天王のレベルは110レべ。

 キルディスのレべルは120レベ。しかもドーピングアイテムでステータスを底上げしまくり、俺が徹底的に戦い方も仕込んだのだ。四天王くらい余裕のはずなのだが。


「違います!!エルフの大賢者です!!あれがいつ乱入してくるのかと思うと、冷や汗ものだったんです! ペルシなんて、雑魚すぎて逆に拍子抜けしたくらいです」


 そう言ってキルディスがソファの後ろに隠れる。

 うん、まぁあいつがチートなのは認めるが怖がりすぎだろう。

 正直今のキルディスならチートの大賢者相手でもそこそこの勝負は出来る。

 キルディスはそれなりに強いし、半魔というペナルティの中でも中流魔族になっただけあって、戦闘センスもある。そこは俺が保証しよう。

 それに俺の権限でどんな場所にいても迷宮に速攻でワープで逃げられるんだから、何とかなるだろう。こいつは他の時間軸でエルフの大賢者に何か酷いことをされた記憶でもあるのだろうか?


「まぁ、ペルシに勝てたならよかったじゃないか」


 俺が言うと、なぜか一瞬顔を赤くして、うつむいたあと、「……はい、ありがとうございます」と超小声でその後もなにかつぶやいたあとソファの下にずぶずぶと魔法で床にもぐりこんだ。正直、そのあとの言葉は小声すぎて聞き取れなかった。つーか、魔法まで使って潜るか普通。


「……カルナといい、なんで俺の周りはツンデレしかいないんだ」


 俺が言うと


「これがツンデレ文化というやつですね!」


 迷宮から俺の世界のマンガ本を持ち出したアルキアが嬉しそうに言う。迷宮のモンスターで漫画本がそのままモンスターとしてでてくるのだが、倒すとそのまま漫画本が手に入るのだ。どうもアレキアはその動く絵が面白いと漫画本を偉く気に入ってしまった。変な言葉を覚えて嬉しそうに言うようになったのだ。


「うん、アレキア、その漫画本持ち歩くのはよくないぞ。どっかに落としたらどうするんだ。」


 俺が取り上げると、「そんなマスター酷いです!!」と、ぴょんぴょんしながら取ろうとする。


「迷宮内で読むのは許すが外は駄目だ。エルフの大賢者にばれたら迷宮の事がばれるかもしれない」


「つまり迷宮産だから禁止ということですね!」


 アレキアが目を輝かせながら言う。


「まぁ、そういうことになるな」


「では自家発電します」


 と、ペンと紙をとりだすアレキア。


 ……そういえば、絵うまかったな、アレキアは。


「てか、アレキア性格かわりすぎじゃないか」


 俺が言うと、ずぼぼぼぼと床の黒い塊から沸いてでてきたカルナが、


「闇化をともなった英霊化は己の欲望に忠実になる傾向がある。あとマスターの人間性にかなり影響される。生前とちょっと違う」


 と、告げた。つーかなぜお前まで床からでてくる。魔法での床潜りがうちの部下のブームなのか。


「それはつまり……」


「闇化とマスターの欲望に忠実なところに影響を受けていつもより2倍!」


 びしぃっとピースをして言うカルナ。


「なるほど。だからですね」


 俺の隣でもぐもぐ菓子を食いながらいうシャルロッテ。


「俺のどこが欲望に忠実なんだよ」


 「「「「全部」」」」


 俺が言うとなぜかその場にいた全員に突っ込まれた。

 なんだよ、お前ら連携とれすぎだろ。


「それにしても、結局キルディス様は四天王にはなれなかったのですね」


 シャルロッテが腕を組みながら言う。


「構いませんよ。どうせそんなことだろうと思っていましたから。半魔なんてそんなものです」


 そう言ってソファの下の床に魔法で潜り込んでいたキルディスがのそのそと這ってでてくる。

 

「それに四天王になったら確実に大賢者に狙われます。それだけは絶対嫌です」


 床に這いつくばった状態できりっとした顔で言う。

 間抜けだぞと突っ込もうか迷ったが、大賢者の件になると大体こうなのでスルーした。


これから四天王は厄介事を全部俺に押し付けてくるはずだ。キルディス付きの俺に全部やらせれば【はぐれの魔族が勝手にやっていたこと】で、終わる。四天王は絡んでいなかった、この戦いは魔王復活のためではないで通すことができる。


 まぁ、せいぜい、ない頭で策謀をめぐらせるといい。魔族も大賢者も手のひらで踊らせて、最後に笑うのはこの俺だ。


 なぜかどっちが床移動が速いか勝負をはじめたカルナとキルディス、そしてどちらがケーキを食べるのがはやいか勝負をはじめたアレキアとシャルロッテを眺めつつ、俺は心の中で笑う。つーか、うちの部下、子どもか。

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